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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
13章 敵対
221/232

221 依頼

 紅晴に立て続けに訪れた災禍の対処を終えた疾は、息を継ぐ間も無く魔法士協会への攻撃を再開した。

 ノワールへの依頼の効力はまだ残っていたようで、協会の枝葉の組織は本部からの監視の目に晒されている。保身に走る連中の視線を逆手に取って、魔術的意義を持つ建造物を2棟、同時に破壊してやった。


(……あとはどう情報を利用するか、だな)

 奪取した資料に目を通しながら、疾は思考を巡らせる。罠が張り巡らされているのは大前提として、そこにどう対処をしてどう裏をかいていくかが今後の課題と言える。

 不安要素を抱える疾としては慎重にならざるを得ないものの、なりすぎても後手に回ってしまう。かといって妥当なタイミングで攻め込めば、罠が待ち受けている可能性がある。

 先日のノワールを駆り出した一件のように、協会の意識がずれるような出来事が少々欲しい──そう思った時、迷惑メールフォルダに一通のメールが振り分けられた。


「……」


 軽く目を眇める。見覚えのないメールアドレスだが、文面から一人の顔が予想された。というか、題名部分で「ツーリングしようぜ」などとほざき、暗号化した本文とパスワードのかかった添付ファイルで疾に依頼をかけてくる輩は、今のところ一人しか思い当たらない。


 瀧宮羽黒。

 魔王襲撃で顔を合わせ、戦艦撃墜のために手を組んだ「最悪の黒」からの依頼だった。


(……さて、どうすっか)

 本文のみに目を通した後さっさと削除しながら、疾は黙考する。メールの送り主の背景を考えるに、この世界の魔術師が大元である可能性が高い。今あの男に依頼が回されそうな案件はと少し調べてみれば、一つ嫌なものがあった。


「……死霊術師」

 漏れた声に不機嫌さが滲んだ。


 意図してかせざるか、鬼狩りの仕事に被る内容である。しかも今のところ、羽黒経由で疾まで駆り出されそうな事件はこれしかない。詳細は不審なファイル添付で送り付けられたので速攻捨てた。一応他の可能性も考慮はするがほぼ間違いないだろう。当たってほしくはないのだが。

「……」


 受けるか、受けざるか。


「ま、いいか」

 ノワール対策の面でも、あの男とは繋がりが欲しかったところだ。あちらが疾を利用するなら、こちらも利用するまで。

 人の悪い笑みを浮かべつつ、疾は腰を上げた。



***



 数日後、死霊術師に占領されたエーゲ海に浮かぶ島が、跡形もなく消え去った。



***



(あいつ大概頭おかしいな……)

 自身の所業を棚に上げるまでもなく、クソ迷惑なバグ(瑠依)を利用して島全体に呪術を広げ、ただでさえ一人軍隊のようなノワールの魔法をさらに強化しようなどとはまぁ考えない。消し飛んだのが島と死霊術師だけで済んで御の字というべきである。

 発想は狂人のくせしてそこに至るまでの布石や技能については一級品。死霊術師の呪詛から身を守る手段を用意しないなど自身を顧みないかと思えば、別行動を取り撤退の手段を用意するなどの周到さもみせる。こちらを図るような態度をとる一方で、手札を晒すことにはあまり躊躇がない。

 矛盾しかないが、疾が判断するために必要な情報は取れた。


(今は必要ない)


 現段階で瀧宮羽黒を陣営に取り込むことはしない。下手を打つとこちらが取り込まれ、獲物の横取りをされかねない。根本的な部分で合わないあの男の麾下に降る気はさらさらなかった。

 一方で、いつかのために繋がりは細く続けていくべきでもある。そこまで考えた疾は、とりあえず──


 ──今回瀧宮羽黒の依頼元である魔術師連盟の枝葉組織を、片っ端から叩き潰して行った。


 今回の依頼は魔術師連盟だけでなく、関係する複数の魔術組織からの連名の依頼だった。その中で、ちょうど問題戦力が勢揃いしたのだからと欲を出した組織が混ざっていたらしい。依頼先である疾たちの戦闘データを探ろうと探知を仕掛けてきた。


(阿呆すぎる)


 当然その目論見は探知機器ごと破壊してやった上で、こんな阿呆な作戦に手を貸すような阿呆な組織の情報を逆に根こそぎ浚いあげておいた。

 おそらく羽黒に依頼をしてきた直接の関係者は、こんな場面で欲をかくような組織を見切る気でいたのだろう。疾の情報を見て、ついでに掃除を押し付けてやろうと企んだといったところか。確かに、疾が趣味で破壊していた組織の特徴と一致はしていた。


(調べる手間が省けてありがたい……なんて、思うわけがねえだろ?)


 いいように利用されてばかりではいられない。襲撃については敢えて連盟に全て問い合わせがいくように立ち回ってやった。過労でぶっ倒れてしまえ。

 ひとしきり気前よく暴れ、処理に連盟の大魔術師──魔法士協会の幹部のようなもの──が忙殺されている様子を確認してから、疾は連盟に食い込むように手を貸していた協会の一組織への潜入を開始した。




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