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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
12章 紅晴の守護者
215/232

215 茶番

 数日後。

 青龍の背に乗って上空からその馬鹿騒ぎを眺めていた疾は、さまざまな思考がぐるぐる回った結果、呆れ混じりの半笑いを浮かべていた。


「何だあれ」

『何なんでしょう……?』


 簡単に言語化してしまえば、街の人々がわいわいと楽しげに集まる中、デフォルメされたクマやトナカイやタヌキが暴れ、バーベルや炎や注射器を操る少女達が空をかけ、ついでに術者達は堕天使と元魔王に片っ端から伸されている。


「いや……マジで何だあれ」

『主が助力を了承された計画では……?」

「マジで幼児向けのヒーローショーを現実に焼き直しやがる馬鹿がいたとはな……」


 誘薙の説明はあくまで例え話かと思いきや、本気も本気だったようだ。頭沸きすぎじゃないのか。


『良いのですか?』

「まー……楽しそうだし、当初の目的も果たせたし、良いんじゃねえの」


 深く考えると頭がおかしくなりそうな気がしたので、疾は適当にそういう事にした。疾が用意した魔術も十全に機能を発揮しており、住人はパニックも起こさず文字通りショーを見るように楽しげにしている。認識阻害もかかっているので、外には作った動画としか認識されないだろうし、街への物的被害は0だ。術者達の怪我人が増えているのは想定内であり、むしろ街としては望ましい。

 本当に、この街の特性をどこまで理解しているのかは知らないが、あまりにも出来すぎた台本である。異世界の知識を惜しげなく注ぎ込まれたやたら出来のいい魔道具の数々と世界を滅ぼせるような面子を使って、これだけクソふざけた内容をよくもまあ考えついたな、とも思うが。


「さて。片もついたし撤収して、次の準備に移るか」

『次、ですか……確かに次の百鬼夜行は、どうなることやら』


 青龍の声が沈む。四神としては、魔王の瘴気に当てられて襲いくる鬼達に対して、この街の無事を心配するのは道理なのだろう。


 が。


「阿呆、んなもんどうでもいいわ」

『は?』


 怪訝な声を出す青龍には見えないが、疾は心底楽しげな、空恐ろしい笑みを浮かべていた。



「気分一つ、指先一つでこの街を滅ぼして余りあるような人でなしを、誠心誠意込めて応対してやらないと、なあ?」



 疾の「楽しい娯楽」は、ここからが本番だ。



***



 夜。

 下準備と装備を整えた疾は、覚えのある魔力が誘導するように街を移動し始めたのを確認して動いた。

 魔女に魔導書を売りつけがてら瀧宮羽黒の出禁を示唆してみせ、その瀧宮羽黒が地脈に干渉しようとするのは弾いた。ノワール本人の探査魔術も何度か感じたが、元々組み込んであった防御魔術のみで誤魔化せたようだ。やる気の程度は低いようだが、さてどうなるか。


(とはいえ、総帥の方は今回の馬鹿騒ぎ、関心はある……か)


 おそらくは暗躍していた瀧宮羽黒の動きと、魔女との協力体制を警戒したのがきっかけだろう。足跡を追っていたらあの馬鹿騒ぎにぶち当たり、技術元に興味を持ったというところか。


(で、探索の邪魔をする俺を探す)


 今回は依頼を受諾した形で地脈に干渉する魔術を組み立てた。先方からの注文の中に住人達の探索防止が入っていたため、ノワール相手でも個人の特定と追跡ができないようにしておいた。それに見事に引っかかっているノワールを眺め、疾は静かに笑う。


(さて──始めるか)


 嘘と虚勢しかない手札で、この魔法士幹部を騙し取るための台本は準備済みだ。だが、想定外はいくらでも起こりうる。確実に駒を進めて敵将を追い詰めるタイプのノワールに、疾のフェイクがどこまで通用するか。


(せいぜい楽しもうぜ、なあノワール)


 そう、内心で呟いて。


「わざわざ姿を見せたという事は、説明する気があるのか?」

「はっ、んなわけねえだろ」


 疾はノワールの声かけに応え、認識阻害の魔道具を解除した。


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