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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
12章 紅晴の守護者
198/232

198 紅晴の土地神

「──紅晴の土地神は、封印されている」


 やがて聞こえてきた抑揚に欠ける声は、疾がこれまでに聞いたことのないものだった。


「え? 玄武……今、喋った……??」

 セキが目をまん丸にしてコクを凝視する。そんなに驚くことなのかと頭の片隅で思いながら、疾はようやく始まった話の続きを視線で促した。眠たげな黒い瞳が疾を見返す。


「四家の当主がそれぞれの祭場から力を注ぎ、中央の山ごと張り巡らせた結界を維持。その為に、全ての術者から魔力の徴収が必要」


 疾は無言でコクを見下ろした。そこまでは、疾もこの街に来てすぐに解析した内容だ。それだけならばこれまで通り四家が維持すれば済む話であるし、仮に維持が難しくなっているとしても疾には預かり知らぬことだ。これだけならば、疾は選ばれない。

 果たして、コクは黒い瞳で真っ直ぐと疾を見上げて続けた。


「封印されているこの街の土地神の特性は、全ての生きとし生けるものへの祝福」

「……」


 全ての、生きとし生けるもの。


「良きもの悪きもの、区別しない。人、妖、鬼、神。この地に在るありとあらゆるものを祝福する」

「土地神としては異質だな」


 端的に評する疾にセキが何か言いかけたが、コクがすぐに答えたため口を閉じた。


「土地神は、信仰という形で神に力を与える人間を贔屓するのが普通。人と人ならざるものが手を取り合って暮らせるように力を貸す神もいるが、紅晴の土地神は別の意味で異質」


 人に仇なすものにも力を与えるということは、その地は常に人が人ならざるものに脅かされる危険を持つことを意味する。


「だから我等四神は四家に加護を与える。この街で守護を司るのは、他の街の術者よりも危険。今代も危険、だから守りうる主を選んだ」

「四家から選ばない理由は」

「四家で主になりうる人材を選んでも、足りない」

「それだけか?」


 コクが一度瞬く。疾は表情を変えないまま、肘掛けに頬杖をついた。


「四家のそれぞれの役割は把握している。一部、随分と風変わりな役割だとは思っていたが……特異な土地神に仕えるならば理解できる」


 妖の討伐は、東の門崎。

 魔術師との折衝及び守護は、西の嘉上。

 異界から現れる鬼の討伐と異界の封印は、南の霍見。

 神を祀りあげる儀式を執り行うのは、北の吉祥寺。


 霍見が少々異彩を放っているが、特異な神を祀り上げているならば「神隠し」への対策は必須だ。冥官がこの街で「神隠し」が起きないと言っていた理由も、封印のせいだろう。

 が。


「随分と、中にばかり意識を払っている」

「……」

「この地に一歩足を踏み入れるだけで強化される──そんな特異点を、お前らの加護があろうと四家が守りきれるのか」


 疾がこれまで目にしてきた術者達は、不出来とは言わないしどちらかといえば優秀だ。だが疾が注目するまでの腕の持ち主には、いまだに遭遇していない。

 何より。


「外への警戒が薄い、外と関わる常識がない、何より対応が鈍い」


 疾へのあまりにも杜撰な対応が、物語っている。この街の守護は、四神の言葉とは裏腹に隙だらけだ。これまで維持し続けられたのが、いっそ不思議なほどに。魔女がかろうじて合格ラインだが、彼女一人が出来ても意味がない。


「……だから、主選んだ」

「違うな。いや、選んだ理由はその通りなのだろうが、だからこそ現状は特異だ」

「何故」

「各家、役割が分担されすぎている」


 これだけの特異点を束ねるには、各自が違う方向を向きすぎている。本来あるべき役割の家が、ないのだ。


「四家を束ねる家はどうした」

 四家を統率して街を守るための一族が、あるはずだ。


「吉祥寺」

「今はな。だが仮初の役割だろう。……そもそもあの家は、土地神を祀り上げる家であるはずがない」

「何故」

「もしそうなら、神は北の地に封じられる。なのに実際は中央の山ごとだ」

「……」


 方角は、術式や儀式において重要な要素だ。北に力を集中させるのではなく、四方から力を注ぎ中央に集めるのには必ず理由がある。


「中央に、何がある?」


 故に尋ねた疾に、コクはしばし黙したのち、ゆっくりと答えた。


「……回答不可」

「……」

「その問いは、主が本契約を交わさない限り、我等からの説明は不可能」

「……なるほど」


 一つ息を吐いて、疾は体を起こす。変わらず無機質な瞳がコクを見下ろしていた。


「なら、俺は何もしない」

「……主」

「少なくともこの街は、現時点で助けを望んでいない。お前らが勝手に選んだからと言って、あいつらは膝をつかない。──人間は、お前らが思うよりも愚かだ」


 神に予言されたところで、人が素直に従うことはない。人はあくまで人の物差しでものを見て、考えて、判断する。封印を維持できている現段階で、既に悪印象を持っているだろう疾に縋ってくることはあり得ない。


「もしもで動ける人間は、ほんの一握りだ。そして俺は動く気もない連中の為にお膳立てしてやる義理はないし、そんな暇もない」


 そう言って、大きく息を吐き出した疾は立ち上がった。


「つーわけで、俺は寝る。お前らは基本的にはこの部屋に待機。本拠点には絶対に来るな。以上」

「ちょ、主!?」


 先程までの凍えるような気配が幻だったかのように、元の態度に戻った疾の言葉にセキが声を上げる。が、既に疾は魔法陣を展開していた。


「ま、待ってください!?」

「てめえらのせいで明日も忙しいんだよ俺は。もう寝る、明日以降に詳しい話する気になったら呼べ」

「主ぃいい……」

「主じゃねえ」


 半泣き声にきっちり言い返して、疾は休養を取るべく魔法陣を起動して転移した。

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