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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
12章 紅晴の守護者
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197 神の眷属

 冥官の伝言をフレアに伝えた疾は、さっさと冥府を後にした。


「……で? 結局、どういう結論になったんだ?」

「……強制解除の方法はあるが、この土地に必要なんだろうからしねえ。他にもぐだぐだ言ってたが、つまるところは丁度良いからそのままここに留まっとけと。ぶん殴りてえ」

「……おう」


 竜胆の問いかけに疾は簡潔に答えておく。いろいろ言っていたが、冥官にとっては疾が紅晴に留まり四神の仮の主人でいることが都合がいいというわけである。つくづく迷惑ごとしか湧いてこないなこの仕事、と瑠依を横目にそんな感想を抱いた。

 とはいえ、仮契約をしてしまった以上は放置できないという事実を竜胆までもが突きつけてきたため、疾は仕方なく四神に仮の名を与え──考えるのも面倒で「赤青黒白(セキセイコクハク)」と見た目に振った──拠点へと連れ込んだ。


『ここが主の御宅ですか?』

「普段は使ってねえ仮拠点の一つだけどな」

『えぇっ!?』


 朱雀改めセキが衝撃を受けたような声を上げているが、地脈から魔力を常時供給されている連中を本拠点に連れ込めるわけがない。四神を目印にあっという間に居場所がバレる。

 疾は一人がけのソファに腰を下ろすと、目の前の四体を見下ろして目を細めた。


「一応結界は張ってる。……だからそのしょぼい見た目をどうにかしろ」


 竜胆たちもいる際のやり取りで、何をどう誤解したのかこの四神たちは相当間の抜けた姿に化けていた。


 朱雀(セキ)はセキセイインコに、白虎(ハク)はヤマネコに、玄武(コク)はリクガメに、青龍(セイ)はウーパールーパーに。


 本当に、何でそうなった。人目についても問題がないようにとか言っていたが、チョイスが意味不明すぎて悪目立ちしかしない。


『えっそんなに駄目なんですかこれ……?』

「……隠形としては普通にやるより効果あるのかも知れねえが、見た目は間抜け以外の何ものでもねえな」


 小さく無力な動物相手に真剣な会話をするほど、疾は精神的にヤバい状態には追い込まれていない。結界で神気を隠す手間をかけてでも、頼むからまともな格好に戻って欲しい。

 そんな疾の気分を読み取ったのか、四神の体が淡く光った。光が散ると、疾の予想に反して四神の元の姿ではなく、人型に変わる。


 セキは、10歳くらいの女児。朱色の髪を両耳の上で括り、二重の目は深紅。髪と同じ朱色の着物を纏っている。

 ハクは、20代後半くらいの女性。真白の髪を襟下で切り揃え、優美につり上がる一重の下は白金の瞳。白地に白金の縁取りがされた男袴を履いていた。

 コクは、12、3くらいの男児。黒髪を首筋で切り揃え、黒目がちな目は眠たげな瞼に半分隠れている。白と緑の袴姿だ。

 セイは、20代前半の男性。水色の長髪を腰で結び、二重の目は深い青。濃淡の違う青の上下袴はコクとほぼ同じ形だ。


 それぞれが一目で人外とわかる色彩と容姿を宿す四神が、疾の前に丁寧に片膝をつく。それを見下ろした疾は、端的に告げた。


「……外ではその格好になるなよ」

「何でですか!?」


 何でも何も、こんなのを連れて歩いたら疾は社会的に即死である。

 どうも四神の中ではセキがやかましい。声がやたら幼いと思ったら、それぞれ人型の見かけ通りの声だったようだ。


「てめえらの常識は人間社会では一切通用しない、これだけ真っ先に覚えておけ。──外では本性の図体を縮めただけで隠形しろ。てめえら引き連れて動く際には多少神気が溢れようが変わらねえ」


 最優先事項としての命令に、セキは若干不満そうだったものの頷いた。わずかに苦笑を浮かべていたセイは、薄々は理解しているのかもしれない。無表情で首を垂れたハクと無反応のコクはよくわからない。

 色々と思うところはあるが、最低限真面目な話をできる状態にはなった。細かいところは後で考えるとして、疾は足を組む。


「それで? 説明すべき事があるんだろ」


 口を開いたのはセイだった。


「まず申し上げておきたいこととして、我々が主を選んだのは──」

「おい」


 そういえばこちらの問題も残っていた。疾はセイの説明をぶった切り、半眼で告げる。


「主と呼ぶな」

「は?」

「強制的に仮契約を結ぶ羽目になった以上、最低限の責任は負わざるを得ないのは認める。が、てめえらの主になったつもりもなるつもりもねえ。主と呼ぶな」

「……」


 セイが押し黙る。代わりにハクが言う。


「……我らにとっては主は主だ。今代で主以外と契約を結ぶ気はない」

「押し付けんな」


 疾は、ハクを冷たく睨みつけた。ハクはまっすぐ見つめ返す。


「主。我らは、四神。末端とはいえ、神なのだ。普通は人に仕えることはないし、四家と組む契約は、我らの守護を与えやすくするためだ」

「……」

「だが主は別だ。我ら全員、主を仕えるべき相手だと判断して契約を結んだ。その判断は我らのものだ」


 そう言って、ハクは口を閉じた。いうべきことは言ったという態度のハクは、己の言葉に何ら疑問を持っていないようだ。

 疾はゆるりと視線を巡らせる。セキは少しオロオロしながらもハクを咎める様子はない。セイは無言のまま静観しているし、コクは相変わらず表情を変えないまま微動だにしない。

 四者四様の反応だが、ハクの発言に異論がないことは共通しているらしい。疾は、静かに笑んだ。

 ああ、本当に。


「──くだらないな」


「っ!?」

 四神が、目を見張った。


「主だの仕えるだの、笑わせる。己が何を言っているのかも理解しないその傲慢さが、心底くだらない」


 目の前に座る青年が、いまの今まで自分達が主と仰いでいた彼と、同一人物のはずがない。

 そうとしか言いようのないほどの変貌に、四神の思考が止まった。

 抑揚が極限まで排除された口調で、青年が続ける。


「何ら根拠なく人間に敵意をむけ、敗北をすれば己に「相応しい」。神の眷属として、位格の差を利用して強引に契約を結び、既成事実を元にして「主」と仰ぐことで主従関係で縛りつける──これが、お前たちのこれまでの行動だ」


 笑みを顔に貼り付けてはいるが、その眼差しには一切の感情が浮かばない。機械的とすら言えるほどの、感情を切り離した無機質な瞳が四神を見下ろす。


「四家と違って俺は神にすら選ばれた人物だ──そう言えば、舞い上がって扱いやすくなるという魂胆か。浅はかにも程がある」

「っ、違いますっ! 私たちはっ」

「黙れ」


 セキの反論も一言で封じる。心底くだらなさそうに溜息をつく、それだけの動作にセキの身がすくむ。


「そのつもりがあろうがなかろうが、お前たちの行動から滲み出る傲慢さは隠しようもない」


 身を固くするセキにそう断じる青年は、奇しくも。


「──そしてそれが「神」というものだと、俺は知っている。今更遜るふりをしたところで本性は変わりようがない。茶番に付き合う気はない──最初に言っただろう、説明をしろ」


 神の眷属である四神を従えるに相応しい姿を、四神たちに見せつけていた。


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