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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
11章 『災厄』
185/232

185 脱獄

(さて。邪魔な奴もいなくなったし、どうするか)


 捨て台詞に若干意識を持って行かれたものの、気を取り直し、疾は次へと思考を回し始めた。

 精神状態の安定もかなり優先度が高かったが、竜胆に促されなければもうしばらく罵倒を続ける予定だったのには、もう一つ理由がある。


(意図せぬ異世界転移となると、魔術は迂闊に使えないな……手札が限られてくる)


 今回の筋書きはこうだ。

 魔女を利用して疾の居場所を探ろうとしたものの上手くいかなかった魔法士幹部は、時期を同じくして疾を探査していた連盟の末端組織の存在に気づいた。その時点でおそらくその組織とコンタクトを取り、繰り返し探査魔術を使わせることで逆探査の目標を固定させた。そして疾が座標を引き出した時点で別途魔術を展開、瑠依に思い切り増強され、異世界にある自身の研究施設へと直接拐かした、というわけだ。

 偶然とバグが挟まったのも大きいが、相手の筋書きに乗ってしまっている。おそらく連盟側にもかなり腕の良い魔術師がいるのだろう。ここはきっちり返礼として、筋書きごと完膚なきまでに破壊してやる必要があるが、問題がいくつかある。


(魔道具は半分くらい奪われてるな)


 かなり入念に隠蔽しておいたが、半数近くの魔道具が取り上げられている。せっかくの準備も台無しだ。やっぱり瑠依は後で蹴り倒すとして、状況はなかなかにややこしい。


(異世界転移の影響を受けかねないから魔術もほぼ使えないし、異能も魔力への影響が最小限になるようにしないとならない、と。この条件で魔法士幹部とやり合うのか……ノワールが出張って来ないことを祈るしかねえな)


 可能性としては低いが──あの性格と背景で、研究者に手貸しするとは思えない──、これでノワールと対峙しろと言われたら、瑠依を生贄として逃げることに全てを賭けるしかないまである。生贄自体はこの際構わないが、ここまでされて逃げるだけというのも癪だ。

 脳内で今後の動きをシュミレートしつつ、竜胆の問いかけにごまかし混じりに適当に答えていた疾は、拘束具について問われて意識を強制的に引き戻された。


「疾、この枷ってただの枷じゃねえよな?」

「一切の魔術干渉を無効化してるのと、強度を上げているな。魔術師の逃亡防止用として一般的な拘束具だ」


 異能への対応はされていない辺り、この魔法士には疾の魔術破壊はなんらかの魔力操作スキルとでも思われているようだ。建前上、総帥もその情報は口に出来ていないらしい。


「一般的って言葉がすっごい物騒だと思います」

「黙ってろ、馬鹿」

「はいっ!」


 空気が読めない上に元凶としての自覚が本当に薄い馬鹿を、言葉と笑みの脅しで黙らせる。竜胆が疲れたように溜息をついてから、重ねて問いかけてくる。


「で、他に厄介な罠とかないんだよな?」

「ねえよ。枷を外したら致死的な攻撃が来るわけでもなし、とっとと外して出るべきだろうな」

「ん、それ聞いて安心した。——よっと」

(……)


 一応人間用の枷とはいえ、身体強化をしても壊せるかどうかという強度のそれを、その辺のものを持ち上げるような気軽さで破壊するあたり、竜胆も大概人間離れしている。


(強化体つーより、確かに半妖っぽいな……)


 手を獣型にした竜胆によりあっさりと枷から解放されながら、疾はなんとなく納得した。一つ息をついて、意識的に思考のスイッチを切り替えた。


(──さて)


 この平和ボケコンビについ意識を引きずられがちだが、ここは疾の敵地だ。敵は多数の魔術師と魔法士幹部一名。手札は大幅に削られ、盛大なお荷物付き。こちらの予定は見事にひっくり返され、今はほぼ相手の掌の上。

 圧倒的に不利な状況に陥り、しかし疾は笑った。


(面白い)


 筋書き通りに進みすぎて退屈だったところだ。この程度の予想外を楽しめなくては、先が思いやられるというもの。

 不利すら利用し、相手が心折られるほどに叩き潰してくれる。


「なあ、瑠依? 自ら危険に晒される趣味がおありなくらいだ、このまま一直線に安全に帰りたい……なんざ、言わねえよなあ?」

「え、いや俺かえr……言いません!!!」


 言質もとったところで、疾は武器を構えて笑う。諦めたように竜胆がこちらの様子を伺ってくるので、迷わず行動に出た。

 銃を鉄格子に向け、射出する。異能で無効化し魔力弾で破壊した鉄格子が派手な音をたて、見張り役の魔術師どもをわらわらと引き寄せる。10人を超えたところで、疾の前に出るように竜胆が構え、瑠依が喚いた。


(……)


 どうにも気分が乗り切らない……というか気が抜けてしまうが、疾は努めていつも通り、魔術師をぶちのめすべく地面を蹴った。


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