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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
11章 『災厄』
182/232

182 破壊と魔女

  無事ノワールとの交渉を終え、ついでになかなか愉快な土産まで得た疾は、一気に攻勢に出た。


 初手として、協会本部のある世界に転移し、研究所相手に小さな嫌がらせを積み重ねた。施設の門前で時限爆弾を炸裂、セキュリティハッキング、魔道具を用いた魔力ジャミング。一つ一つは大きな被害ではないものの、警戒心を煽り苛立ちを募らせるのには十分な仕掛けをあちこちに仕掛けていく。

 魔法士たちの警戒と敵意が十分に高まったのを待って、疾は研究所へ──ではなく、一旦元の世界に戻る。そのまま転移魔術を用いて、ヨーロッパ圏にある魔法士協会関連施設を立て続けに破壊した。

 本部に呼び戻された分だけ警備が手薄になった施設を、魔道具も物理罠も併用して着実に破壊する。時に遠隔で、時に自ら乗り込んで破壊していく疾に、魔法士たちはものの見事に翻弄されていった。


(ばぁか)


 意味を成さないわめき声を上げながらつっこんでくる魔法士達を千切っては投げながら、疾は心底愉快な気分で笑った。計算通りすぎて少々退屈ではあるものの、思い通りに敵を蹂躙できるというのはなかなかに気分がいい。

 一通り魔法士達を蹴散らした疾は、そのまま最奥部まで進んで扉を蹴り開ける。待ち受けていた魔法士達が一斉に魔法射撃を浴びせてくるが、とっくに天井へと飛び上がっていた疾は魔法の余波だけを防いで、魔法が途切れるのを待って床へと降りる。

 疾を視界に入れて敵意を向けてきた魔法士達は、しかし疾が無造作に投げたものを見て表情を凍り付かせた。


「貴様、どうやって!?」

「さあ、どうやったんだろうな?」


 宙に舞う厳重なセキュリティに守られていたはずの魔道具に、疾は無造作に銃口を向ける。疾を阻止しようにも、下手に魔法を放てば魔道具に当たりかねないと、魔法士達が逡巡したそのほんの一瞬に、疾は唇を引き上げて見せながら、引き金を引いた。


「やめ──」


 悲鳴よりも早く、魔道具が異能の弾を受けて破壊される。


 バラバラに砕けて床に落ちた魔道具を見た魔法士達が一様に悲鳴をあげた。衝撃が怒りに変換されるより先に、疾は身体強化魔術をかけた足で思い切り地面を蹴り付ける。

 一飛びで魔法士の包囲を飛び越えて、疾は置き去りにしていた魔道具が発動するのに合わせて思い切り最奥部の柱を蹴り付けた。

 飛び上がった疾を見上げる形になっていた魔法士達は、足元に落ちた魔道具が床に開けた大穴に無様に落ちる。範囲外にいた魔法士達は、しかし落ちた仲間に一瞥もくれず、疾の行動を凍りついたまま見ていた。

 柱に組み込まれていた魔術は、蹴り付ける直前に異能で破壊した。中が空洞になった柱など、身体強化魔術がかかっていなくてもへし折れる。へし折ったついでに、空洞内に安置されていた魔石を拾い上げた。


「さてと」


 魔石をお手玉しながら、疾は振り返る。すでに魔法士達が魔法を放っていたのを、反対の手に握る異能の銃で打ち消す。


「この建物と心中する覚悟はできたか?」

「その時は貴様も道連れだ!」

「はっ、ばーか」


 遠慮なく嘲笑い、疾は魔石をぐっと握った。組み込まれていた建物保存の魔術回路を破壊すると、魔石も自壊した。限界を超えて魔力を注がれ運用されていたのだろうが、もったいない。


「誰がてめえらなんざと仲良くあの世行きしてやるかよ」


 その捨て台詞と同時に、疾は手持ちの魔道具で転移した。





 拠点の一つに戻った疾は、端末でハッキングした衛星画像を開き、先ほどまで自分がいた建物が綺麗さっぱり崩れ去ったのを確認して、笑い声を漏らす。


(これで5つ)


 散発的な、地理的にも魔術的意義としても繋がりのない施設を立て続けに破壊するのもここまで非常に順調だ。疾の損害もほぼ0に等しい。ノワールから手にいれた魔道具が大いに役立っていた。……それでいいのかは、取り敢えず置いておくとして。


「さて次は……」


 独り言を漏らしながら、疾は次の目標を定めようとして、ふと顔を上げた。


「──」


 無言で魔力を広げて操る。最近とみに魔術展開が早くなってきた疾の魔術が起動した直後、大気中の魔力が不自然に震えた。細波のようなそれは、疾の元まで届く前に、展開した魔法陣に阻まれて消える。


(……またか)


 ここ最近、繰り返し繰り返し疾の居場所を探る魔術が展開されている。探査魔術であれば新規に魔術を展開するまでもなくあらかじめ部屋に敷いている魔術だけで防げるが、これは少々別物だ。


(……魔女が行う占い)


 ウィッチクラフトとも言われる、儀式魔術の一種。その中でも、曖昧な直感を浅く薄く広げて拾い上げるような、いわゆる「ひとさがし」の占術に近いもののようだ。

 魔女は魔女でも、紅晴にいる知識屋の魔女ではない。彼女の操る魔術よりも高度で強力だ。そして、疾には心当たりがあった。


 ──魔法士幹部の中に一人、魔女がいる。


(あちらもそろそろ本腰入れ出したか……とはいえ、まだまだ本気じゃないだろうが)


 「当たるも八卦当たらぬも八卦」とはよく言ったもので、今行われている儀式魔術は精度があまり高くない。それでも見当をつけられれば、手掛かり一つない状態では難しい探査魔術を使うことが出来る。

 これはその前段階だが、それにしたってやる気がないように感じる。疾レベルの魔術師が扱う対抗魔術で防げるということは、術者主体の捜索ではなく、誰かに促されて気の乗らぬまま儀式を行なっている。

 そうなると今度は誰が依頼したのかという話になるが、こちらも疾には心当たりがあった。研究メインの魔法士幹部がここ最近コソコソと探ってきていたのは、母親からも指摘されていたし、疾も気づいている。あえて情報を与えぬまま泳がせていたが、ここにきて次の手に打って出たらしい。


(ま、こっちも動くか)


 そろそろ鬱陶しくなってきたことだし、疾の方も下準備は整った。その魔法士幹部の抱えている研究施設はこの世界にある分は全て潰した今、本丸に踏み込むタイミングとしては悪くない。そう思い、疾は口の端を持ち上げた。


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