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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
1章 はじまり
18/232

18 代償

「うん、綺麗に取れた。見る?」


 引きつけのような呼吸を繰り返す疾の惨状など頓着せず、子供は気軽な声で尋ねて、疾に手の中のものを突き付けた。ぶよぶよとしたゼリー状のものに覆われたそれに、疾はまたえずく。


「う、ぇっ」

「あれ、酷い反応。自分の一部分だよ?」


 くすくすと笑って、疾の眼球を弄んでいた子供は、それをどこかへ消し去った。疾のぐちゃぐちゃな顔を覗き込み、子供は、とても楽しそうに告げる。


「さあて、ゲームオーバーだ」

「は、……!!!」


 ひゅうっと、疾の喉が鳴った。大きく目を見開き、先程までとは別の理由で全身が震え出す。


 そうだ。この化け物は、自分に何と告げていた?

 自分は、さっき、──何を、言った?


「ま……っ、て」

「だあめ。ルールはちゃんと守らないと、ね。僕もここまで、守ってあげたでしょ」


 くすくすと笑って。子供は、視線を画面へ向ける。

 そこにずっと、映っていた少女へ。


「たの、む……まって、お願いだ……やめ、て」

「ほおら、よくご覧」

「やめ、とまれ、ち、がう」


 疾の懇願を、身を乗り出そうともがく様を、嬉しそうに眺めて。


「違わないでしょ」


 子供は──この場の絶対者は、無邪気に告げる。


「おまえが、我が身可愛さにゲームを投げ出したツケは──あの子が、払うんだよ」

「やめろぉおおお!」


 疾の絶叫は、届かず。

 子供の振り下ろされた手が、少女を絶望へと突き落とした。

 甲高い悲鳴が、疾の鼓膜に突き刺さる。


「アリス! アリス!!」


 その時見た光景を、疾は、最低の悪夢として脳裏に灼き付けた。

 未成熟な少女を、汚らしい大人の欲望が蹂躙し、壊していく様を。ただただ、疾は、見ていることしか出来なかった。 


 何度も吐きながら、叫んで。けれどその声は、何ら力を持たず。もがいても、拘束1つ振り解けず。悪夢以下の残酷な現実を、疾はただ見ていた。


 否。見ていることすら、出来なかった。


「さて、ショータイムは終わりだよ」

「がぁ!? あ、ぎ……っ」

「基礎データも集まったし、始めようか」


 心胆寒からしめる宣言により、再び、疾自身を襲う苦痛に呑まれた。


 これまでが遊びだったとでも言うのか。体をただ傷付ける苦痛はなくなり、代わりに様々な薬品が、得体の知れない力が、疾の体に流し込まれた。その度に疾は異常な感覚に苛まれ、悲鳴を上げさせられる。


「う、ぐ……いった、冷た、ひっ……!」

「ふうん、この力、魔力とは違うんだ……性質は冷感を覚えたって事は、こっちの薬剤と合わせれば──」

「あ、が……っあぁああぁあぁぁ……!」


 段々と、声が遠のく。

 他人の声も、自分の声も、等しく、分からなくなって。

 疾の全てが苦痛だけになるまで、さして時間はかからなかった。




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