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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
10章 「鬼」
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160 訓練の誘い

 無事自室に辿り着いた疾は、ひとまず情報を漁るべくパソコンを立ち上げた。

 どうやら狭間に落ちている間に、例の研究施設は見事瓦礫と化したらしい。柱の破壊と爆発が重なった結果、かの幹部だけでは後始末が追い付かなかったようだ。


(ザマーミロ)


 シンプルな感想だけを抱いて、疾は思考を切り替えた。ノワールについては、ひとまずフージュについて情報をもう少し集めてから今後の方針を煮詰めるべきだ。そちらについては、この間の襲撃で確立した魔力波長をいじる技術を盛大に利用させていただく。

 そのほか、何か魔法士関連で新たな動きがないか一通りチェックした疾は、一つ伸びをして立ち上がった。とりあえずは問題はなさそうなので、少し休憩を挟むことにした。


(魔力は問題なさそうだが、流石に色々あったしな)


 これだけの情報を一度に処理すれば、それなりに頭も疲れる。そこそこの修羅場もくぐり抜けたわけだし、特に急ぎの用件もないのならのんびりするのも悪くない。……そろそろ春休みも終わるわけだし。


「……」


 そういえば、馬鹿の頭を弄る予定があるのを思い出した。明日明後日あたりで遭遇したら拉致して処理しておくか。と、まるきり犯罪者のような思考を巡らせてから、疾はシャワールームへ向かった。






 そして嬉しくもなんともないことに、翌日とりあえず食料の買い出しに出たところで、件の問題児に出くわした。


「お、いたいた」

「すげー、本当にいた。竜胆の鼻スッゲー」

「…………」


 しかも、どうやら竜胆の嗅覚で探し出されたらしい。魔力の痕跡や気配については気を配っていたが、流石に疾の知覚外からの五感頼りでの捜索は想定していなかった。疾が警戒するのは人間であって、こういった人外じみた能力持ちではない。

 と、いうか。このコンビ、疾の意表をついて訳のわからない行動をすることに全能力を注いでもいるのだろうか。


(……まあ、一応、対策しておくか)


 五感を極力強化させた魔法士が今後出てくる可能性もあるし、と前向きに思考を立て直し、疾はすいと目を眇めた。


「なんの用だ」

「いや、俺は今すぐにでも帰りたいんだけどっ」

「訓練の誘いだ」


 瑠依がいつものごとく空気の読めない返事をしようとして、竜胆に頭を押さえつけられつつ遮られた。すでにこの馬鹿の取り扱いに慣れつつあるらしい。


「はあ?」


 とはいえ、この馬鹿と訓練をする必要性も価値も感じない。ジャミングに妨害されながらの負荷訓練なら出来はするが、そんな疲れて体調を崩すだけの訓練はしたくもない。

 そう思って顔を顰めた疾に、竜胆はなぜかため息をついた。


「あのな……一応、俺たちとお前は仕事を一緒にするんだろ。互いの動きくらい確認しておかねえと、合わせられねえだろうが」

「合わせる? お前らと、俺が?」


 何を言っているんだと疾は眉を寄せる。竜胆が何かいうより先、疾は視線を一瞬だけ瑠依に向けて言う。


「そんな高等技術を、そこの馬鹿がこなせるわけないだろうが。俺がその馬鹿に合わせるのに訓練する意味はねえ」

「ねえなんでいきなり全力でディスってくるの帰りたい!?」


 なにせ、大体がやる気がないまま無意識に不具合をばら撒くばかりだ。訓練したところで予想の斜め下から邪魔されるだけである。ショックを受けた顔で喚く瑠依は無視だ。竜胆も微妙な顔をして瑠依の抗議は受け流した。すでに何かしらやらかしたらしい。


「……。いや、その、ほら。俺も入ったわけだし」

「竜胆がここで第一に求められるのは、そこの馬鹿のサボり癖矯正兼お守りだろ」

「いや、マジで、んな理由で契約したとは流石に思いたくないっつうか、そのままっつうのはあんまりだから少しはそっちと連携できるようにしたいっつうか……」


 事実を突き付けたら、竜胆に哀愁の漂う眼差しで懇願されてしまった。まあ、疾としてもあまりに虚しい役割を押し付けた自覚はある。反省も後悔も罪悪感も欠片もないが。


「この間の件で見たけど、接近戦もこなしてただろ? ちっと手合わせしてみねえか。3人でやるとき、前衛後衛はある程度役割分担しておいた方がスムーズだろ」

「……」


 別に前衛も後衛も必要性は感じていないので、疾としては瑠依を連れて疾にとっての安全確保だけをしておいてほしいのだが。竜胆が案外に好戦的な性格をしているのはもう知っているし、ガス抜きがわりに訓練に付き合ってやる必要はあるのかもしれない。


 ……あと、初めて鬼狩り関連で提案と申し出という手順を踏んで真っ当な訓練の提案を受けたことに、少しばかり付き合ってもいいかという気になった。


「少しだけな」

「お、そう来なきゃな」

「そこの馬鹿は竜胆が連れてこいよ」


 嬉しそうに笑う竜胆を一瞥して、こっそり逃げようとしている瑠依の逃げ道を塞ぎつつ、疾は踵を返した。


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