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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
8章 「伊巻」という一族
145/232

145 序列一位の特権

 当然の帰結としてファルのプライドを叩き折った疾だったが、その後で更に面倒事に見舞われるのは計算外だった。


「……序列争い、ねえ」


 ファルをボコした辺りで、何故か傍観していた鬼狩り達がいきり立ち喧嘩を売ってきたので順番に伸していった過程を称す言葉を、疾は白けた気分で繰り返した。

 どうやら疾を使役しようと企んだ大馬鹿野郎は、鬼狩りとしては実力は確かだったらしく──実際、鬼の元である妖を従えられるのは強みだろう──、序列1位という肩書き持ちだったらしい。序列を決定する基準は幾つがあるが、少なくとも序列1位が鬼狩り同士のタイマンで一方的に伸された場合、肩書きは失効し、新たな序列争いが生じるらしい。


(それで鬼狩り達が一斉に殺気立って喧嘩売ってきたのか、なるほどな)


 単に脳筋揃いなのかと思っていたが、一応ルールに従った行動だったらしい。どのみち疾の行動は潰す一択で変わらないが。

 で、結果的に全員伸した疾が序列1位となるわけだが、その結果にはなにやらオプションがあるらしく。


「で、俺にそいつと契約しろって?」

「そうよ。それが序列1位に与えられる特権」


 顰め面で立つツェーンを顎で示して聞けば、フレアが簡単に頷いた。序列1位になれるだけの実力を持った鬼狩りが、ツェーンと契約する権利が与えられる、という事らしい。なるほど、それでファルがツェーンと行動を共にしていたのか、と疾は納得した。ツェーンがあれほど気乗りしない様子なのにおとなしくファルと契約して働いていた理由はこのルールのせいだったらしい。

 で、今度は疾にその権利が回ってきた、ということらしいが。


「知るか、いらん」


 これ以外に出てくる台詞が見つからなかった。思い切り頬を引き攣らせるフレアに構わず、疾はツェーンに目を向ける。むっつりとやり取りを聞いていたツェーンは、視線に気づいて疾に向き直った。


「つうか、それでいいわけ」

「……まあ、そういうもんだし」

「思考停止した奴が真っ先に言う台詞だな」


 ありありと納得していないという顔で口にされた返答に、冷めた気分で吐き捨てる。こんな、条件次第でいつ敵に回るかわからないやつと行動を共にする趣味はない。

 だが組織に所属する以上、組織の決まりを無視するにもある程度の建前は必要なわけで……とそこまで考えて、ふと振り返る。死んだ目でぼけっと突っ立っている瑠依を見て、良い案を思い付いた。


「そういや、序列って基本、普段仕事してる組に与えられるっつってたな」

「ええまあ……待って、まさか」

「なら話は早いな。そいつでいいだろ」

「はい???」

「は?」


 お荷物はお荷物同士で仲良くやってもらえばいいのである。その場にいた全員がやかましくなったが、疾は既に人事権を持つ人間を納得させる為の理論武装済みだ。


「今後も俺に毟り取られるより、勤労意欲に溢れてる奴に馬鹿の面倒見させれば良いだろ。一緒に住まわせればサボりもねえぞ」

「……はあっ!?」

「…………とんでもない台詞に頭が痛いけれど…………ありね」


 なんだかんだ言って、ツェーンの経験値は買いである。そして職務に対しては従順で、鬼狩りの仕事というだけで生真面目に遂行するたちであることは初対面の時に把握済みだ。と、なれば、能力はあれど死ぬほどやる気がなく、当たり前のようにサボる瑠依とはある意味相性がいい。疾も毎回瑠依を引っ張り出すのも面倒だなと思っていたところだ、押し付ける相手がいるなら万々歳である。

 ツェーンは何やら文句を言いまくっていたが、フレアが納得してしまえばもはや決定事項だ。大変不本意そうだったが、最終的には引き下がった。瑠依に至っては苦情を喚こうが誰も耳を傾けなかった。

 というわけで、瑠依とツェーンが契約を交わした。何故か「名前と血を与える」という手順を踏んだ瑠依が、ツェーンを「竜胆」と名付けたのは、相変わらず訳分からないけど悪い案では無いとは思う。


(さて、どうなるかと思ったが……なんとかなりそうだな)


 暫く2人を観察していたが、竜胆が日に日に気配を落ち着かせていったので、一応は成功だろう。あれほど神力が不自然な乱れ方をしていては、近いうちに本人が制御を手放してしまっていただろうが、契約者を瑠依にし、瑠依が「名」で縛ったことでどうにかなったらしい。……本人の体調や精神状況がこれほど契約に強く影響を受けているところを見るに、ファルが一体どんな契約をしていたのか、考えたくもない。

 瑠依が呪術をこねくり回して偶然出来た──断じて作ったとは認めない──、身体強化を向上させる謎の呪術具で竜胆に挑みかかり、竜胆にじゃれつく猫のようにあしらわれているのを傍目から眺めながら、フレアが死んだ目でぼやいた。


「何だかとても複雑だわ……」

「そうだな。名前と血という最大限にコスパの悪い契約の癖に、あの馬鹿の血色が無駄に良い所とかもな」


 竜胆ほどの実力を持つ妖の契約を血で維持するとか、それこそ吸血鬼なみに血を与える必要があるはずなのだが、何故あの馬鹿に貧血の気配ひとつないのか。そしてそれだけ互いに影響を与えかねない契約の組み方をしておいて、瑠依への影響がこれっぽっちもない上、竜胆の神力だけでなく気質すらもしっちゃかめっちゃかにしているというのだから恐ろしい。そのうち瑠依レベルの駄目人間になられては目も当てられないので、疾は1つだけフレアにアドバイスをしておいた。

 結果、来年度から竜胆が高校に通うことになった。何から何まで意味不明だが、ここまでくればもうどうにでもなれと傍観していたところ、何故か疾に学校への編入手続きだの瑠依の家族への言い訳の作成だのと仕事が回ってきたので、適当にこなして恩を着せておいた。


(……んなことより、良いのかこれで)


 何だか竜胆の……というか、鬼狩り局が抱える暗部が大変しょうもない流れで解決されていっている気がする。が、深く考えると頭痛がしそうなので、大体瑠依のせいということにしておいた。


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