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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
8章 「伊巻」という一族
141/232

141 合同任務

 仕事の後に適当な報告をし、何故か瑠依が局長室に呼ばれるまま顔を出すのを横目に、疾はさっさと戻って休養を取ったのだが。

 勤務態度に問題ありとして、翌月の定期巡回の後で引き留められ連れて行かれたのは、個人鍛錬用の訓練場。


「合同任務?」


 胡乱げな声で局長の言葉を繰り返したのは、竜胆色の瞳をしたガタイの良い青年。以前、疾に声をかけてきた鬼狩りだ。


(こんな所でまた会うとはな)


 疾が適当に聞き流していた局長の言葉をきっちりと聞き取った後で、青年が顔を顰めて疾と瑠依を見遣った。


「……合同任務つーなら、もうちっと慣れた奴にならねえんすか。新人庇いながら任務って、そりゃ合同任務じゃなくて新人教育じゃねえすか」

(へえ)


 何故か瑠依が真っ青になるのを横目に、疾は小さく口元を持ち上げた。局長に反抗的な態度を取る青年に小気味よさを覚えたのもあるが、局長相手に明確な反抗を顕わにする感情的な部分と相反した、本質を突く発言に意識が向く。


「新人教育も兼ねての合同任務よ。人手が必要なのも確かだから」

「だったら、もっと慣れた奴……」

「ちなみに」


 青年の反論を遮り、フレアが剣呑な目を疾と瑠依に向ける。


「そこにいるふたりは、色々と問題行動が多いけれど、実力はあるわ。ツェーンとファルなら、鬼狩りの常識というものをたたき込んでくれると期待しているの」

(必要か、それ?)


 常識の枠内に入るのなら、疾は鬼狩りに選ばれなかったと思うのだが。何だかどうでも良い話の流れになってきたなと、疾は軽く欠伸を漏らしながら思う。


「……いや、つか、その辺は研修の時にやるんじゃねえんすか」

「研修してもダメな子と、そもそも研修すらしていない子の組み合わせなのよ」

「なんで、んな組み合わせなんすか……?」

(本当にな)


 のっぴきならない事情を理解していなければ、どう考えても人事ミスである。胡乱な顔で局長を睨んだ青年が、尚も何か言おうとしたのを、もう1人の青年が引き留めた。


「もう良いだろう、ツェーン。局長のご命令なら仕方がないさ。君なら、足手纏いがいても余程の鬼じゃなければどうにかなるだろう?」


 やや口内で粘り着くような発声をする青年に、ツェーンと呼ばれた青年はまだ言い足りなさそうな顔をしながらも大人しく口を閉じる。その様子を見た疾は、こっそりと口元を歪めた。


(ツェーン、ねえ……)


 他意があるのか、無いのか。おそらく前者だろう名前に不快を覚える。

 そして、おそらくこちらがファルというのだろう、ツェーンの口を閉じさせた青年が疾と瑠依に向き直った。黄土色の瞳が探るように疾を覗き込む。


「初めまして。僕はファル、適正は調教……妖を使役して敵と戦う。こっちはツェーン、僕が今契約している強化体だよ」


(──……)


 その説明を聞いただけで、疾はこの男と会話をする気を失った。鬱陶しげに顔を背ければ、何故か瑠依が投げやりな声を出す。


「ああもう帰りたい……。俺は瑠依、こっちは疾です。えっと、なんつーか、よくわかんねーけど、よろしくお願いします?」


 これを初対面の挨拶でしでかすのだから、これ以上ないほど局長の言いたい事は伝わっただろう。ファルが暫く黙り込んだ後、ツェーンを振り返った。


「ツェーン。彼らに色々教えてやる役を任せるよ」

「俺が?」

「術に関しては僕も教えられそうだけど、鬼狩りとしての常識というなら、ツェーンの方が適任だろう?」

「はあ……ま、いいけど」


 声に胡乱げなものと面倒臭げなものを織り交ぜつつ、ファルが話をしている間は1歩下がる姿勢を見せていたツェーンが、改めて口を開く。


「んで? お前らの武器って何だ?」

「あ、えーと……俺は呪術です。疾は銃」

「呪術に、銃? 珍しいな」

「へ? 銃も?」


 素っ頓狂な声を上げている瑠依には悪いが、疾には意外性の欠片もない。古来から知識を積み上げていく魔術界でも日本の術の世界でも、古い武具ほど魔術具として愛用されやすい。比較的新しい──といっても、大戦前から存在するのだが──武器である銃を魔術具にする術者は、案外に少ないのだ。


(便利なのにな……構造の知識は要るけど)


 一般の世界で利便性を評価されて市民権を得ているのだから、魔術の世界でも活用されていいと思うのだが。懐古主義と言えば聞こえが良いが、要は怠惰なだけだろうと疾は思っている。


「呪術も大抵変わってるよな。呪って鬼を払うっつーことだろ?」

「いや、そんなおっかないことしませんって。呪術とはいえ呪うなんて帰りたいことしないし」

「……ん?」

「……は?」


 ツェーンとファルが思考が停止したらしく、一音だけを発する。疾がうんざりと溜息をつくのと、フレアが手を叩くのは同時だった。


「瑠依が意味不明なのは今更だし、その子の問題点はそこじゃないわ。これ以上私の頭痛を悪化させる前に、ひとまず見回りに行ってらっしゃい。仕事内容はツェーン達が把握しているから」


 半ば追い出されるようにして、疾達は冥府を後にした。





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