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疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
8章 「伊巻」という一族
138/232

138 待ち伏せ

 先に言葉を取り戻した疾が告げたのは、実に率直な意見だった。


「おい女狐。これ、首にした方がいいと思うぜ」

「……私もそう思うのだけど」


 やや萎れたようなフレアが、虚ろな目で疾の意見に答える。


「無理ね」

「じゃあ現状維持」

「貴方はこの子にかけた教育予算を棒に振れというの? そもそも、働く気のない鬼狩りを抱えていられるほど、うちの人手不足は安くないわ」


 ……これ以上の問題を起こされたら、余計な人材を割くばかりだと思うのだが。疾も今のままの方が余程きちんと仕事が出来る。


「というわけで。瑠依、貴方はまず、遅刻をしたら地獄を見ると身体に叩き込んであげる」

「ひっ!?」

「今晩は帰れないものと思いなさい?」


 にっこりと威圧的な笑みで瑠依を見下ろしたフレアが、次いで疾に向き直る。


「で、貴方は今後の巡回、手段選ばずこの子を連れ出して頂戴。犯罪行為でも一切構わないわ」

「出すもん出せばな」

「…………」


 フレアの額に青筋が浮かんだが、ただ働きさせられると思われた疾の方が心外である。時間も体力も気力も、ついでに魔力も無駄遣いでしかない。


「……いいでしょう。追加としてこのくらいでどう?」


 立てられた指で示された額は、疾が先日出した請求から割り出したのだろう、妥当な額だった。ここで安くふっかけない辺り、割りと本気で瑠依の扱いに困っているらしい。少しでも安く買い叩こうとしたら断ろうと思っていたので、当てが外れた。


「しゃあねえな、呑んでやるよ。じゃ、これで」


 瑠依の折檻などという心底どうでも良い、かつ自業自得な代物に付き合う義理も義務も無い。疾も暇じゃないのだ、とっとと帰るに限る。


「……貴方って本当に良い性格しているのね」

「どーも」


 皮肉混じりのフレアの言葉に小馬鹿にしたような笑みで答え、疾は一足先に帰った。



「わーい、波瀬君が出て来たー♡」



 はずだった。



「今晩はー! 瑠依のお馬鹿さんは、まだ帰ってこないの? おばさんがそろそろ心配してるんだけどー。このぐにゃっとしたのの先に行ったら、連れ返せる? あっ、それよりそれより、筋肉すりすりしてもいい??」


 この、満面の笑みで疾ににじり寄ってくる崎原常葉(変態)がいなければ。


(……どーすんだ、これ)


 多分、フレアに引き摺られていく瑠依が尾行されていたのだろうが。当たり前のように六道を知覚できている点含め、これを放置するわけにもいくまい。


「おい、変態」

「常葉って呼んでくれたらうれしーな☆」


 笑顔で抜かされた戯言は当然無視して、疾は問い詰めた。


「なんでここにいる?」

「瑠依と波瀬君が知り合いみたいだから、瑠依を尾行してたら波瀬君に会えないかなって思ったの。そしたら瑠依が美人さんに誘拐されちゃったから、後追ってみたら消えちゃうしー。そこで私の筋肉センサーがびびっと反応したんで、張り込みしてみました♡」

「なんでこんな変態が大手振ってんだろうな……」


 最初から最後まで一般人の常識を蹴り飛ばしている変態の言動に頭痛を覚えた疾だが、やっぱりこれは放置できない案件だ。


「はあ……。付いてこい」

「いいの? わーい♡」


 取り敢えずこの変態は、一応お世話係らしい馬鹿に押しつけることにする。



「お邪魔しまーす! あっ、やっぱり瑠依ってば、いたー」

「待って何で常葉がここにいんの!? 意味分かんないんだけど!?」


 鬼狩り局の訓練場に舞い戻って一番、テンションの高い変態と、ズタボロながらまだまだ元気いっぱいな馬鹿の応酬が響きわたった。うるさい。


「……で。今度は何なの?」

「そこの馬鹿に聞け」

「うきゃっ!」

「ふぎゃっ!」


 物見遊山顔の変態を、瑠依の方に蹴り飛ばす。瑠依をクッションにして倒れ込んだ変態は、当然のように痛み一つ感じていない恍惚顔で、両の指を組み合わせた。


「あぁ……っ。本当に、波瀬君って最高……動作に一切の無駄がなくて美しい筋肉の躍動を感じるっ! パーフェクトだよね!」

「ああもうこの変態ハウス! というか人を下敷きにして変態発言かますな、どいて!?」

「…………。これ、何なの?」

「見ての通り、救いようのない変態」


 引き攣った顔で固まっていたフレアが、辛うじて問いかけを絞り出す。端的に疾が返した答えに、今度こそどん引きした。


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