表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
7章 『魔法士の天敵』
134/232

134 言質

 僅かに目を細めた総帥は、疾の言葉を反芻するかのようにしばし黙り込むと、ふいにくすくすと笑い出した。


「ふふっ。なるほどねえ。そういうこと? あはは、くっだらない」

「そうだな、くっだらねえよ」


 笑いながら切り捨てようとする総帥の言葉を遮るようにして、疾は返す。肯定の言葉に総帥が、ノワールが意識を向けてしまったその間隙に、疾は密かに後ろ手に回した左手で、最後のスイッチを押しながら、更に一手打ち込む。



「──言葉に縛り付けられて、回りくどくもセンスのない虚勢しか示せないような、気味悪い人外がてめえだ。そんな輩の暇潰し如きに、この俺が釣り合うと思うなよ」



 お前如きが、疾を玩具と呼ぶな、と。

 大上段から、見下して見せた。



「……ふふっ」


 それに対して零れた笑みに比して、漂う魔力は酷く濁っている。


「そっか。おまえ、僕の力も見誤ってるのかな?」

「さあ? 少なくとも、てめえらもいるこの部屋を、「逃げ場のない密室」なんて抜かす、神秘への理解不足著しい間抜け、とは思ってるぜ?」


 言外に、父よりも魔術への造詣が浅いと、嘲笑い。


「──つーわけで、てめえらにはこの程度のイタズラで十分だな」


 そこで、稼いだ時間が実を結ぶ。



『総帥! ノワール殿!』



 魔法による緊急信号が、魔力の揺らぎを伝って場に響く。途端につまらなそうな顔をした総帥が、ノワールにくいと顎をしゃくった。溜息をついたノワールが軽く頷き、通信に応じる。


「取り込み中だ、後にしろ」

『で、ですが! B-1棟に隔離されていた、特AからS級の魔物が、一斉に檻を破壊し暴れています!』

「……何?」


 途端、険しくなったノワールの声。総帥はつまらなさそうだったが、続く通信でほんの僅か、表情が揺らぐ。


『セキュリティシステムが全て破壊されており、魔法人形も何故か機能を停止しています。更に、システムと別個に敷いていたトラップは誤作動を起こし、不定期に起動して魔物と交戦中の魔法士達が負傷しています!』


 ノワールが横目で疾を睨む。無言で笑みを深めて見せた矢先、更に通信が続く。


『ノワール殿! 大変です! A-0棟で封印されていた特S級の魔物が、A棟ごと消し飛ばしました!』

「……あそこにいたのは、確か……魔王級の突然変異」


 ノワールが思わずと言った調子で零すと、総帥の意識が、──逸れた。



「密室どころか、ドアも窓も開きっぱなしだな」



 疾の声に2人が振り返った時には、切り札は発動し終えていた。


「!?」

「んー?」


 ノワールが目を見開く。今回も逃亡防止の魔術を展開していたのは疾も気付いていた。破壊する隙に転移魔術を妨害するつもりでいたのだろう。

 だから、疾も考えていた。同じ手を使っても逃亡を防止できないと刻みつける為の、パフォーマンスを。


(ま、こんなボーナスが転がり込んでくるとは、こっちも予想外だっだが)


 それがあればこそ、今回ここまで深入り出来たのだ。お陰で予定外のものまで釣り上げたが、深入り故に可能だった事前の仕掛けが効いている。


(幸運混じりだってのは忘れちゃなんねぇが……いいパフォーマンスにはなったな)


 疾は内心呟いて笑みを深め、軽く地面を蹴った。後方に展開した「道」に足をかけ、笑って見せた。


「じゃ、頑張れよ。下手すりゃ世界の危機だもんなあ、精々死ぬ気で押さえ込めよ」

「お前……一体……」


 ノワールが眉を寄せて呟く。正体不明(・・・・)の転移手段に動揺したのか、待機させていた拘束魔術の起動が遅れている。


「さあ? ま、一つ言えるとすれば」


 笑みを深め。視線を一瞬だけ総帥に投げ掛けて、疾は続けた。



「こんな小細工で動揺するようじゃ、俺を捕縛しようなんざ10年早ぇよ。──せめて、少しはこっちが楽しめる舞台整えてから出直せ」



 こんなつまらない場で、切り札を切るような退屈な結末はお前も望まないだろう、と。

 毒をもって、人外を誘う。



「……あはは」


 無邪気な笑みが、総帥の顔に広がった。



「面白いね。──舞台くらい、自分でどうにかしたら? おまえ1人の為に、僕たちがそこまで手を掛けてやるわけ、ないだろ?」

「あっそ。んじゃ、これからも楽しませてもらうぜ?」



 自分に今出来る、最高級の笑みを浮かべて。


「じゃーな」



 足に力を込めて、疾は「道」を通り──視界が白一色に塗りつぶされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ