表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
1章 はじまり
13/232

13 理想

 昼食は、園内のファーストフード店に入って取った。


「流石のデザインだよな」

「そりゃあね、これが売りだもの」


 2人の前には、イメージキャラクターをこれでもかと主張する器に盛られたハンバーガーとフライドポテト。中身はハンバーガーが通常よりやや豪勢だろうか。

 そして。こういう場所の食事が割高なのも、もはやお約束だ。


「アリス、ファストフードで良かったのか? 他にも色々店があったのに」

「んーん、これで良い。私ああいうところ、なんか苦手なの」

「へえ」


 意外に思った疾が声を上げると、アリスは眉を寄せた。


「可愛いものは好きだけど、可愛いものに囲まれて食べてると、こう……落ち着かなくて」

「そうなのか。いや、俺もそうだけど」


 アリスが自分と同じ感性を持っているのは、疾には少し意外だった。気が楽だと、ハンバーガーにかぶりつく。


「……ところで、アリス。こんなタイミングで何だけど」

「なあに?」


 本来なら出会ったその時に言うべきだったのだろうが、アリスのはしゃぎように切り出しづらかった案件を、このタイミングにと出しておく。


「その……最近、妙な連中に絡まれたりはしてないか?」

「? いいえ。何もないわ……アヤトは相変わらずなの?」

「ああ、いや……」


 ユベールが世話役だった関係で、アリスも当然、疾が狙われやすいのは知っている。だからこそ隠さず肯定しつつ、少し迷いながら疾は告げた。


「それが最近、ちょっと厄介というか、ヘンな奴らにも絡まれがちなんだ。今の所、周りには影響ないけど……アリスと一緒にいる時に、狙われるかもしれない」

「そうなのね……」

「だから、その時は迷わず逃げてくれ。俺も逃げるのに必死で、アリスまで手が回らないかもしれない」


 疾の言葉に、アリスは不満げな顔をする。


「そこは、俺が守るくらい言って欲しいのに」

「責任が取れない。父さんからも有事は全力で逃げろって言われてるくらいだから、本当にやばい連中みたいなんだ」

「そんなに?」


 疑わしげなアリスに、疾は頷いて返す。


「俺が捕まっても、見捨てて。その分、父さんや警察に直ぐに連絡して、助けを求める体勢を整えてくれた方が助かる。俺達はまだ子供だから、無茶しないで逃げて、助けてもらうべきなんだ」

「……」


 言い聞かせるような疾の言葉に少し俯いて、アリスは考える様子を見せた。やがて顔を上げた時には、真剣な表情を浮かべていた。


「アヤトがそれだけ言うのなら、信じる。私も、アヤトも、互いを守りあうんじゃなくて、一目散に逃げるのね」

「……うん、そう」


 少し、ほんの少しの逡巡を見せながら、疾が頷く。父親に強く言われて、納得はして、それでも僅かに残っていた躊躇いを、アリスは正しく読み取った。


「うん、分かった」

「……ごめんな」

「なんで謝るの? アヤトが悪いんじゃないのに。ありがとう」


 唐突なお礼に、疾が瞬く。アリスは、にっこり笑って見せた。


「ありがとう、アヤト。迷ってくれて、嬉しかった」

「……あ、あ」


 気付かれていた事に動揺して、疾の返事がぎこちなくなる。それにくすっと笑って、アリスは身を乗り出して疾にキスをした。


「でも、今まで黙ってた分、これはもらっていくわね」


 そう言って笑うアリスに、疾は今度こそ言葉を失い、そして。


「……アリス、ありがとう」

「どういたしまして」


 2人、笑い合った。



 ──この、ほんの少し後に、その決意を試されるとは、思いもせずに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ