13 理想
昼食は、園内のファーストフード店に入って取った。
「流石のデザインだよな」
「そりゃあね、これが売りだもの」
2人の前には、イメージキャラクターをこれでもかと主張する器に盛られたハンバーガーとフライドポテト。中身はハンバーガーが通常よりやや豪勢だろうか。
そして。こういう場所の食事が割高なのも、もはやお約束だ。
「アリス、ファストフードで良かったのか? 他にも色々店があったのに」
「んーん、これで良い。私ああいうところ、なんか苦手なの」
「へえ」
意外に思った疾が声を上げると、アリスは眉を寄せた。
「可愛いものは好きだけど、可愛いものに囲まれて食べてると、こう……落ち着かなくて」
「そうなのか。いや、俺もそうだけど」
アリスが自分と同じ感性を持っているのは、疾には少し意外だった。気が楽だと、ハンバーガーにかぶりつく。
「……ところで、アリス。こんなタイミングで何だけど」
「なあに?」
本来なら出会ったその時に言うべきだったのだろうが、アリスのはしゃぎように切り出しづらかった案件を、このタイミングにと出しておく。
「その……最近、妙な連中に絡まれたりはしてないか?」
「? いいえ。何もないわ……アヤトは相変わらずなの?」
「ああ、いや……」
ユベールが世話役だった関係で、アリスも当然、疾が狙われやすいのは知っている。だからこそ隠さず肯定しつつ、少し迷いながら疾は告げた。
「それが最近、ちょっと厄介というか、ヘンな奴らにも絡まれがちなんだ。今の所、周りには影響ないけど……アリスと一緒にいる時に、狙われるかもしれない」
「そうなのね……」
「だから、その時は迷わず逃げてくれ。俺も逃げるのに必死で、アリスまで手が回らないかもしれない」
疾の言葉に、アリスは不満げな顔をする。
「そこは、俺が守るくらい言って欲しいのに」
「責任が取れない。父さんからも有事は全力で逃げろって言われてるくらいだから、本当にやばい連中みたいなんだ」
「そんなに?」
疑わしげなアリスに、疾は頷いて返す。
「俺が捕まっても、見捨てて。その分、父さんや警察に直ぐに連絡して、助けを求める体勢を整えてくれた方が助かる。俺達はまだ子供だから、無茶しないで逃げて、助けてもらうべきなんだ」
「……」
言い聞かせるような疾の言葉に少し俯いて、アリスは考える様子を見せた。やがて顔を上げた時には、真剣な表情を浮かべていた。
「アヤトがそれだけ言うのなら、信じる。私も、アヤトも、互いを守りあうんじゃなくて、一目散に逃げるのね」
「……うん、そう」
少し、ほんの少しの逡巡を見せながら、疾が頷く。父親に強く言われて、納得はして、それでも僅かに残っていた躊躇いを、アリスは正しく読み取った。
「うん、分かった」
「……ごめんな」
「なんで謝るの? アヤトが悪いんじゃないのに。ありがとう」
唐突なお礼に、疾が瞬く。アリスは、にっこり笑って見せた。
「ありがとう、アヤト。迷ってくれて、嬉しかった」
「……あ、あ」
気付かれていた事に動揺して、疾の返事がぎこちなくなる。それにくすっと笑って、アリスは身を乗り出して疾にキスをした。
「でも、今まで黙ってた分、これはもらっていくわね」
そう言って笑うアリスに、疾は今度こそ言葉を失い、そして。
「……アリス、ありがとう」
「どういたしまして」
2人、笑い合った。
──この、ほんの少し後に、その決意を試されるとは、思いもせずに。




