表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疾き波は岩をも割き  作者: 吾桜紫苑
6章 『鬼』と『冥府』
117/232

117 管理されるのは

「つーか、だったらあの馬鹿こそ、あんたが上司になった方が良かったんじゃないのか?」


 ふと湧いた疑問を、疾は適当に冥官に投げる。実際問題、それほど厄介な『伊巻』が、あの女狐に対処出来るわけもない。何故かやたらと死なないあの馬鹿は、十分に冥官の監視対象になり得ると思うのだが。


 しかし冥官は、疾の問いかけに目を丸くし、次に苦笑した。


「……成る程な。まだまだ疾には、自覚が薄いようだ」

「は?」


 意味が分からず眉を寄せた疾は、次の瞬間、息を詰めて地面を転がり起きた。片膝を付き、銃を呼び出そうとしたところで、喉元に突き付けられた刃に気付いて動きを止める。


「──っ」

「俺が管理しなければならない能力の持ち主など、そうそういないさ」


 うっすらと口元に笑みを刷いた冥官の瞳が、赤く染まっている。かつて人として生きたはずの彼が、既にヒトならざるものたる証であるそれは、疾の目には酷く不気味に映る。


「なあ、疾」

「なんだ」


 それでも虚勢を張って見返す疾に、冥官は目を赤く染めたまま問いかけた。


「たかだか「死なない」だけの異能が、俺の管理対象だと考える理由は、何だ?」

「人である以上、それは十分に脅威になりうるだろう」

「本気で言っているのか?」


 突き付けられた刃が、すいと動く。促されるままに顔を持ち上げた疾は、視線を逸らしたくなるのを堪えて答えた。


「少なくとも、俺が今戦っている世界において、「そういう存在ではない」不死を体現した存在に、出くわしたことはない」

「不死なんて、大した事ではないさ。ある意味、妖だって不死なんだから」

「……」

「妖は土に還るけど、あれは『死』ではないからな」

「アンデッド以外も、その一言で括るか」


 冥官の言葉に、疾は眉を顰める。死を克服した、あるいは、死から始まる存在たるアンデッドを「不死者」と呼ぶだけでなく、土より生まれ土に還る「妖怪」をも不死と括るのは、些か乱暴に過ぎる。


「疾がそれを言うのか?」

「は?」

「疾の異能は、「ひとならざるもの」全てに通用するだろう?」

「……それがどうした」


 冥官の言葉の真意が掴めず、疾は慎重に問い返す。冥官は僅かに笑みを滲ませた。


「だから、瑠依は管理されず、疾は管理されるんだよ」


 背筋に、氷塊が滑り落ちる。


(なん、だ)


 何か、自分は、とんでもないところに足を踏み入れようとしている。

 このまま行けば、もう、後戻りは出来ない──


「逃げるな」

「っ!」

「逃げても何も変わらない。向き合ってもらうぞ」


 す、と刃が引かれた。切っ先が僅かに肌を切り裂き、血を伝わせる。


「さて、行こうか」

「……どこにだ」


 ゆっくりと立ち上がりながら、疾が問いかける。既に瞳が黒曜色に戻った冥官が、にこりと笑った。


「俺の仕事を手伝ってもらう為に、必要な場所だ」


 それ以上の問答を拒むように、冥官は背を向けて歩き出す。疾は固く目を閉じて息を吸い込み、吐き出しながら目を開けた。


(……選択肢は、ない、な)


 分かりきったことを自分に言い聞かせ、疾は後を追って歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ