【紫音編】第二話
――――その日の昼休み。学校、屋上にて。
俺は、転落防止用のフェンスにもたれ掛かるようにして座り込み、バカ見たいに青い、春の空を見上げながら、
ズズッとでかい音を立てて、紙パックのいちごオレを啜った。
このわざとらしいイチゴ味とカルシウムが、午前中の授業で疲弊した脳みそに心地よい。
「あー……」
誰に聞かせるでもない、溜息を吐く。さっきまで友人の中原と平井が居たが、
委員会の仕事だと言うので先に別れてしまった。つまらない。
くたびれた学生鞄には、今日、午前の授業で返却された数学の答案用紙が入っている。
そこから覗く点数は赤点だ。
「なんでいつもこうなんだろうなぁ……」
思えばいつもそうだ。俺は、望もうと望まざろうと、いつも貧乏クジを引く。
何故か優秀な家の中では俺だけ成績が悪いし、お正月のお神籤は大抵『凶』だ。
自販機に入れたまま、コインが返ってこなかったこともあるし、家に帰るときは
必ず近所の大きな犬に吠えられる。
そんな人生を歩んできた俺だが、時間だけは、誰にも平等に訪れるらしい。
俺も今年中三となり、受験を考える年齢になった。なってしまった。
進路を考えろと急に言われても、正直良く分からない。そもそも俺の成績で卒業できるのだろうか……?
(中学で留年は嫌だなあ)
青い空に一つ、白い飛行機雲が突っ切って、空を割って行った。
「空はこんなに青いのに、俺の人生お先真っ暗」
自嘲気味に呟いてみる。目の前に広がる青い空は何も返してくれやしない。
――――そう言えば、今朝は変な夢を見たなぁ……。
ふと、朝見た夢を思い出す。夢の中でも、俺は青い空を見ていた気がする。
空に近い屋上に降り注ぐ、春の光は心地良く、なんだかうとうとしてくる。
チャイムが鳴るまで、少しだけ怠惰を享受しても良いだろう。
俺はそう思って、フェンスに寄りかかった儘、そっと目を瞑った。
――――その日の空は、何処までも青く澄み渡る。