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魔導學校第六十六期生活動記録〜常闇より降誕す〜  作者: 甘木人
第1章 たそがれ
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1-2 たそがれ

 昼休み、のんびりと中庭で食事をとっていた。

 学食は安価であるが、案外味は悪くない。対象が育ち盛りであることから栄養価も高く、腹持ちもいい。


 教室で昼食を取ると、取り巻き達が煩わしくなる。決して彼女らを嫌っているわけではないが年中付きまとわれ、お姉様お姉様と言われるのは少々疲れる。こういった一人の時間は、心を休めるためにも必要だった。


 魔導學園は森林地帯を切り開いた場所に建っており、この中庭はその面影が残っている。多少の手入れはされているとしても、學園内にいるとは思えない、木漏れ日輝くここはお気に入りだ。

 だが、その穏やかな時間を乱す者が現れた。


「隣いいかな?」


 そう言ってきたのは、級友の男子だった。名前は覚えていない。

 取り巻きの一人が、格好いいと言っていた気がするが、正直及第点にも満たない。

 

「……」


 無言でいると、返事を待たずに私の領域に入ってくる。


「今日は一人なんだ?」


 どこかの誰かのせいでそうではなくなってしまった。


「涼風さんさ、前の件考えてくれた?」


 前の件。言うまでもなく、この男が交際を申し込んできたことだろう。


「俺たち、相性いいと思うんだよね。実戦授業でも息があっていたし」


 息が合っていただと。あれは、私が合わせてやっていただけだ。

 その言葉に思わず吹き出してしまう。

 

 男はそれを良い意味と捉えたのだろう。

 随分と女慣れした対応である。確か、女好きという噂も聞いている。振る舞いを見ている限り、相違ないのだろう。


「相性、ね」


「そうそう、だからさ」


 距離を縮めようと、腰に手を伸ばしてくる。それを払いのける。


「身の程を弁えろ」


「……え?」


「交際だと? 貴様風情が私と同等だと思っているのか?」


 長椅子から立ち上がると、男を見下ろす。


「不愉快だ。特に、貴様程度の人間がこの私から特別に想われていると勘違いしていることが、だ」


「え、いや、だって」


「近寄っても拒否されなないから、か? はん、羽蟲の事など気にかけんさ。ただそれが、目の前をうろちょろし始めたら話は別だ。まあ、私に非がなかったとも言い切れんか。こんな矮小な存在を勘違いをさせるとは」


 ちょうど予鈴が鳴り始める。男は驚きを隠せないといった顔をしている。それがまた癪に障る。   


「二度と私に話しかけるな」


 そう吐き捨て、その場を後にする。背後でなにやら激昂する声が聞こえているが、気にすることもあるまい。

 貴重な休みを妨害され、気分は最悪であった。


 裏口から校内に入り、教室に戻ろうとした時、向こうから凸凹として二人組が姿を見せた。

 凸、金色の髪をした大男は、掛坂雲雀。他者に興味のない私でも知っているほどの有名人である。見てくれもそうだが、成績や振る舞い、何から何まで派手な人物だ。その傍らにいる凹は、紺髪に紫陽花のような紫の目をした、私よりも一回り小さな中性的な少年。

 先日、思わず助言をしてしまった彼であった。


「今日のお前、一人でもいい感じだったじゃねーか」


「そうか? ふふ、それは嬉しいな」


「伊達に隠れて特訓してないってか」


「な、なんで知ってるんだ?」


「はは、お前のすることくらい手に取る様に分かるんだよ。それにしても、特訓とはまた古風だな、嫌いじゃねえぜ?」


 がしがしと押しつぶさんばかりの力強さで頭を撫でている。大型犬と小型犬のじゃれ合いのようなやり取りだった。それを見て少々驚く。

 掛坂雲雀は、一匹狼のような人間だと思っていたが、どうも違ったらしい。


「あ」


 小柄な彼がすれ違う直前にこちらに気が付く。


「ありがとう」


 特筆すべき点もない、ありふれた、聞きなれた言葉。だが、不思議なことに荒んでいた心が癒されるような錯覚を受けた。理屈ではない、ただ、それが本心からのものだと察した。 

 振り返ると彼は角を曲がり、もう姿は見えなくなっていた。 


 彼の名前は、なんというのだろうか。


 周りの人間に興味などないのだが、不思議とあの少年について知りたく思ったのだ。

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