オークに転生したけど荒ぶらず穏やかに暮らしてゆくつもりでした
続・オークに転生したけど荒ぶらず穏やかに暮らしてゆくつもりでした
短編なのに続き作っちゃってました。
シリーズ構成してありますので、前編もどうぞ!
それが一月前のこと。
けれど今になって発見されてしまった。
かわいいリリとプリムローズさんにじゃない。
故郷のオークたちに。
「兄貴ぃぃ、会いたかったぜぇぇ……」
「く、来るなっ、寄るなっ、てかお前らのがずっと年上じゃん?! 身体でかければ兄貴とかっ、今さらそれどーいう文化ですよぅっ?!」
身長2mを超える横長の巨体が三つ。
それが俺の左右正面を囲んでいる……。こいつら臭い!
「そんなこと言わないで里に帰りましょうぉ兄貴ぃ~」
「そうですよぉ兄貴ぃ~、兄貴がいれば里も安泰だぁ~」
「へへへ、里長が知ったら喜びますよぉー、うわーぃ、今夜はガチムチパーティだぁー!」
そりゃそうだ、歯も磨いてないし風呂も入ってないしコイツら!
あえて言うなら臭いのがコイツらの文化だし!
「そーいうのヤダから里出たの俺っ! 人間の女の子に酷いことするのもヤダしっ、味付けしないで謎肉食うのもどうかと思うっ! だから出来ればこう、一人で平穏に慎ましく暮らしていきたいのっ!」
「あ、兄貴ぃは難しい言葉、いっぱい、知ってるんだなっ。よ、よくわかんねぇよ、えへへ」
「んぁ? つまりガチムチパーティで決定ってことよ! なっ、そうだよなっ兄貴ぃっ!」
「全っ然っ通じてねーしこれっ!!」
これは無理矢理連れ帰るしかない。そう判断したんだろう。
ガチムチたちが俺の左右の腕を引っ張り背中を押し始める。
「兄貴の腕……ふ、太いんだな、えへへぇ……」
「またメロメロにさえちゃったら困るしよぉ、ソフトなタッチで里までエスコートするゾ、俺」
「押すなよ引っ張るなよやだーっ!」
彼らなりに学習してしまったのだ……。
このくらいならカウンター・チャームも発動しない。
だからなんかこう、怪しいキャバクラに連れ込まれるサラリーマン的に……俺は里へ里へと引っ張られてゆく……。
「た、助けてーっ! 誰か助けてーっ! ガチムチランドはもういやだぁーっ!!」
オークたちの筋力は凄まじく、ぐいぐいと4名分の足が地震となって穏やかな湖水を揺らす。
「待てっそこのオークども!!」
そこに颯爽とヒーローが現れた。
「そうですぅ~! そうはさせないっスですぅっ!」
高い女性の声に背筋が震える。
それが感動なのか戦慄なのかはわからない。
「そのオーク、ヒデブゥ殿をこちらに渡してもらおう!」
「ああっ、助か……っ、ってないじゃんこれぇ?! き、君ら何しに現れましたのんっ?!」
結果どうなったかといえば、オークと騎士様らがガチモンの奪い合いを始めた。
でも結局、いや予想通り? 黄金騎士プリムローズの圧勝で俺奪還。訂正、強奪された。
「兄貴ぃを返せぇ……あいたたたっ、兄貴ぃ~!」
手とか切り落とされちゃって酷い有様だ。
でも大丈夫、しばらく傷口同士くっつけておけばすぐ繋がるんだコイツら。うーん怪物。
「あ、あで? そ、それ俺の手だよぉ、違うよぉ返せよぉ……っ」
「あ? ぉぉっ俺の手こっちかぁ、んじゃぁ交換なぁ。あだだっ、くっつきかけてるの取ると痛ぇよなぁ、へへへ……ほい交換だぁ」
何ていい加減な生き物だろう……。
神はもう少しこいつらにINT的な何かを与えるべきではないか……。
「じゃこれ持って帰るっス。奪い返そうとしたら殺すからバイバイ~♪」
「ヒデブゥ殿、さぁこちらへ……」
二人の妖精に左右の手を引っ張られて、状況もわからず俺は泉から街道へと連れ込まれた。
そこには三頭立ての荷馬車が待っており、その荷台に俺というオークが積載される。
従者リリが御者でブロンド騎士様が見張りとなって、あれよあれよと人間の都市へと馬車が進んでゆく……。
「何が狙いなんですか……」
「はい、実は決闘して欲しいお方がいるのです」
以前はあんなに厳しい口調だったというのに、姫騎士プリムローズは俺に対し丁寧で丁重だ。
チャームの効果も絶対切れてるはずなのに、親愛の情が怖いくらいに溢れていてただ不気味と言う他なかった。
「やだよそんなの! そもそも何でさ?!」
「実は自分たちの国……って言っても一国一城の田舎国家だけど、最近国王様が崩御したんス」
「それでその娘、世継ぎの王女というのがまた困った野心家でして、はい。中央の戦乱に参戦するのだと言い出したのです」
じゃあこんなヒデブゥなオークなんか捕獲してないで、もっと色々説得してみたらどうですか。
とか言いたくなったけど我慢した。
「わからないでもないっス。でも戦争になったら人がたっくさん死ぬっス」
「戦火がこちらにまで及ぶかもしれません。そんな野心のためだけに戦うだなんて世を乱すだけです。意味が無いと思うのです。さらに言えば中央の戦いに大義なんて元よりありません、ただの権力争いなのですヒデブゥ殿」
「だから頑固なうちの王女様と決闘してねっス♪ オークちゃんならできるっスよ♪」
それいいんだろうか……。
だってそれ俺が善人だってこと前提の作戦なんじゃ……。
あ、でも戦争になったら里の連中も死ぬのかな……長もバカだから良いように利用されそう……。
人が死ぬのはヤダよね、悲しいし畑が焼かれたらひもじいし。
「わかったよ。あの元の河原で静かに暮らせるなら、君らの代わりに俺も戦うよ。ただ静かに慎ましく暮らすために」
信頼に対して信頼で返そう。
彼らの力になると熱い感情を混じらせ宣言すると、二人の乙女が憑かれたように俺を見つめた。
きっとこれはチャームの力じゃなくて信頼関係ってやつだ。
……そういうことにしておこう。
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――決闘場――
「こやつさえ屠れば貴様も我が大望の序曲に付き従うと言うのだな、よかろぅ、そこで見ておれぃ!! この程度のヒデブゥちゃんなぞちょちょいのちょいの真っ二つにしてくれようぞ!!」
「あの……よろしくお願いします王女様……」
王女様がどんな方かと思いきやこれがすごい小柄ロリツインテ。情熱の赤毛が鮮やかに映える強者だった。
だってほら、身の丈以上の両手剣とか抱えちゃってそりゃもう力持ちさんです。
年齢も従者リリとそうかわらない15くらいなんじゃないかと思う。
「ククク……オークのくせに利発な言葉を使いよる。だがそんなものは我が眼中に無い! 我が求めるは覇道、勇躍、血しぶきが舞い散る漢の世界! 強者が鋼を撃ち鳴らしその雌雄を決する、闘争の時代! さあ新たなる時代の幕開けをその贅肉と鮮血をもって贄とするがよいっ! 我は女王アリーゼ・カーリスっ、ゆくぞヒデブゥよっっ!!」
「えっあのっテンポ早いっ?! ……あれ、オークソードどこっ?! あ、あれ、落とした? ない? あれ、嘘ぉーっ?!」
戦闘狂系王女様とかどんな教育したらこうなるし!
野望と決闘に酔いしれた彼女に、武器無くしたから代わりを下さいとか言っても通じるわけなかった。
つまり、素手で戦います。ナニソレ。
「チェェェィストゥゥゥーッッ!!」
「武器くださっ、ひぃぃぃーっ!!」
容赦なくツヴァイハンダーが振り回される。
それは鍔の辺りに刃の無い両手剣で、片手がそこに配置され重心の安定した剛撃が飛び交う。
「誰か武器っ、武器っ、ちょっ汚いっ、女王汚いっ!」
「クククッ……汚くて上等よっ、戦場で武器を失えばこうなるということであるっ!!」
「決闘ですってコレっ、超ずるいっ!!」
避けて避けて、避けまくる。
何だこの太刀筋、両手剣なのに全然ブレない。
それなのに小柄なりの身のこなしで次々とラッシュが飛んでくる。
「やるではないかヒデブゥよ、こんな出会いでなければ下僕として鍛え上げてやったというのに、惜しい、実に惜しいのぅ……! クカカッ!」
うん、食らえば[ガードカウンター・チャーム]は発動する。
でも死ぬじゃんコレ!
手とか切り落とされるのもヤダ痛いっ、他の方法希望っ、ヤダーっ!!
「ぎゃっ?!」
避け続けられるわけもなく俺はズデンと白土の地面に転んでいた。
「死ねぇヒデブゥっっ!!」
もちろん情け容赦も無いです。
尻餅ついた醜いオークに袈裟懸けのツヴァイハンダーが、正位置の握りで振り下ろされる。
(ぎゃー死ぬぅ! こんなことなら勇気出して指一本くらい斬られておくんだったーっ!!)
思わず目をつぶってしまう。
それで他に自分が何をしたかと言えば、ただガムシャラに斬撃を両腕で防ごうとしただけだった。
「危ないっス!」
「ヒデブゥ殿っ!」
ズンと重い感触が全身にかかる。
重いに決まっている。
両手剣だ、全力のツヴァイハンダーだ。
「ぬ、ぬぅぅ?!」
たまたまだ。無我夢中だったんだ。
運良くもその刀身を白羽取りしていた。
どうもオークの超ガチムチ近接特化ボディがそれを可能にしていたらしい。やった、なんかまだ生きてる!
となるとつまり……。
「ひっひぁっ、あっああっ、あっ、あっあっあっあっあっ、な、何だこれはぁぁぁっ、ぬっぬぁっぬぉぉっ、きゃっ、きゃぅっ、きゅぅぅんっ!♪ こ、こんなの我に効かぬぁっ、効かっ、ひっ、ひでぶぅぅぅっっ?!!」
攻守が綺麗に逆転してそうなった。
強力な攻撃であればあるほど反動となってチャーム効果が激しくなる。
小柄でかわいいアリーゼお姫様がプルプルと内股となり、ちょろりと決闘場の白土に水滴が飛び散った。
「ふ、ふぁ……ぁ……ぁぁ、ぁぁぁぁ、ぅぁぁ……っ、ぁぁぁぁぁぁぁ……♪♪」
その声たるや貴族重役らの観戦下だというのに、まるで気でもふれたか疑うほど色っぽい。
というかそのままバタンと前のめりに倒れてピクンッピクンッし始めた。
そりゃそうだ。
ザワザワ……。
ザワザワザワ……。
ってな感じで決闘場も騒然となる。
何が起きたのか。
アリーゼ新女王は無事なのか? ある意味で無事じゃありません、生まれて来てすみません。
「この戦いっ善良オークのヒデブゥ殿の勝利である! しいては盟約通りこのたびの派兵は再考となった! ヒデブゥ殿のご活躍に総員、高らかな拍手を! 拍手で迎えましょうっ!」
ともかく意味のない戦いが回避される。
そのことに気づくや否や、大喝采と賞賛が俺という蛮族に浴びせかけられた。
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、よくやったヒデブゥ! オークでありながら我が国を救ってくれた恩人よ!
この日、あれよあれよと俺に名誉貴族権と城の一室が与えられた。
ついでにその……。
ああ、どうしてこうなったんだろ、頭痛ぁい……。
チャームがかつて無いレベルで発動したわけで……。
結果、目覚めたロリ女王様からのゾッコンな愛もぶっ飛んで来たんです……。
しかもなにせ田舎なもので皆のんきものんきで。
野心家アリーゼの暴走が戦争ではなくオークに向けられるならまあイイや。
いや良くないよっ、良くないよっ?!
良くないけどそんなはた迷惑な妥協をしてくれていたのです……。良くないよっ!
うん、では話をまとめようと思います……。
自分はかねてよりずっと思っていました。
これは世の中をかき乱す悪い力、だから一人で慎ましく静かに生きていこうと。
でも結果として、姫騎士プリムローズの策略通りに一国の平和を守ってしまいました。
だからやっぱり良かったのかもしれない。
そう思うことにします。
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「ヒデブゥよっヒデブゥはどこぞにおるかっ! 再び熱き血踊る死合いとゆこうではないかっ! うむっガードしているだけで良いぞっ、今こそ我の魅了耐性が貴様に打ち勝つ時であるっ!!」
「もうやだーっ、河原に帰してよアリーゼ女王様っ!!」
「却下っ!! 平たく言えばうむっ、ダーメッ♪ えへへっ♪」
今日も彼女がツヴァイハンダー両手に大歓喜で襲いかかって来ます……。
やっぱり川に帰りたぁい……。
誰もいない世界に行きたぁい……。
「陛下! このリリが居場所を知っておりまするっス!」
「ここは順番と行きましょう陛下。我々でヒデブゥ殿の退路を封じ、平等に斬り刻むのです」
「うむ、よきにはからえ。我は良き臣下を持ったものぞ! ならばゆこうっ、狂乱の死合いへとっ!」
誰か助けて、助けて?
このハーレム展開なんかメッチャ鋭利なんですけどっ?!
『パンパカパーンッ!!』
>ガードカウンター・チャーム(パッシブ)がランク2にレベルアップ!
>ボーナスによりヒデブゥは[ハーレムリンク・C(パッシブ)]を手に入れた!
>メロメロにした相手が多ければ多いほど、生命力と筋力にボーナスがかかります。
なんでここで場違いな追加スキル来るのっ!!
いらんしコレ!!
完
↓先日始めた新連載作もぜひごひいきに! 似た性格のキャラ出てくるよ!