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この世界の異物ども  作者: へるしぃーぼでぃ
第一章:脱出編【異世界召喚】
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禍福は糾える縄の如し⑧

「ヤナッ!」


連れ去られる親友に、戦闘能力の無い玲はただ叫ぶ事しか出来なかった。


「おい佐藤、明日香を頼む」


「え?ちょっと馬場君!?」


茂が背負っていた明日香を佐藤さんに預けると、柳沢を引き摺って運ぶ化け物に向かおうとした。

だがその目の前に2つの仮面が立ち塞がる。


「クソ!どきやがれテメェらァァァッ!!」


茂は柳沢の様にケンカの経験こそ少ないが、アスリートとしては一流の域である。お嬢様の明日香と庇護欲をそそる玲2人の幼なじみだった茂は何かとトラブルに巻き込まれる為、その対処法として身体を鍛えるという選択をした。


その結果様々な競技で才能を見せた茂は、当然格闘技系にもその花を咲かせており、学校の中でも上位の実力者である。


茂の雄叫びに反応した仮面男が前に出る。仮面男はその人間離れした膂力を遺憾無く発揮し、茂に拳を振るった。


「そんな大振りじゃあ…」


しかし、いくら人間離れした力を持っていても当たらなければ意味が無い。茂は相手の攻撃の軌道を読み、その拳を受け流し懐に入った。


「当たんねぇぜ!」


そしてガラ空きの胸に肘を打ち込んだ。見事にカウンターを決められ、衝撃で後ろによろめく仮面男に追撃を加えようとした茂は、ギョッとして真横に飛んだ。


ボッ!と風切り音が鳴り、続いてグチャッと嫌な音が聞こえた。


茂の視界には、仮面男の後ろで足を振り上げ、まるでボールを蹴るような姿勢の巨体仮面が映っていた。


茂が起き上がり顔を上げた時には仮面男の姿はなく、代わりに巨体仮面の拳が迫っていた。


「クソッ!」


茂は悪態をつきながらも受け流そうとするが、今まで経験したことない体格差故に流せず吹き飛ばされた。


「ガハァッ!!く…」


受け身も取れず壁に激突し、激痛に呻く茂。だがその攻防の隙に玲が柳沢の下へと走り寄る。


「ヤナを離せ!バケモノォッ!」


玲は全力で相手に殴りかかったが、特に鍛えているわけでもないその拳はアッサリと弾かれた。

そして化け物は空いている手で玲の細い首を掴み、自分の顔まで持ち上げると、何故かジーッと玲を見つめた。


「あが…っ!?はな…せ…バケ、モノッ」


首を掴まれ苦しそうに呻く玲に、何を思ったのか化け物はワニ口をガパッと開いた。


「ひっ!?」


すわ食べられると思った玲は短く悲鳴を漏らし目をギュッと瞑るが、玲に触れたのは鋭い牙ではなく生暖かいヌメっとしたモノだった。


何事と思い目を開けたが、そのヌメっとしたモノが顔を下から上へと通り過ぎた為再び目を瞑った。一瞬見えた光景で、今ワニの舌で舐められているという不可解な出来事に困惑する玲。


「ーーー!ーーーーーー!」


玲を舐めた化け物は何故かテンションが上がった様子で何かを叫んだ。

するとさっきよりも明らかに傷が多くなった茂を持った巨体仮面が化け物の元に戻ってきた。


「なっ!!茂!?大じょっうぷっ!」


茂のその状態を見て声を掛けようとするが、再度化け物に顔を舐められ言葉を遮られた。

巨体仮面はボロボロになった茂を捨てるように化け物の足元に投げると、低い声で何かを喋り始めた。


「ーーー」


「ーーー!ーーー!」


巨体仮面と化け物は何かやり取りをし、そのまま化け物は柳沢と玲を持ったまま裂けた空間へと入っていった。


「こ…のっ!離せ、バケモ」


玲の必死な声も裂けた空間に入った瞬間途切れ、消えてしまった。


「がはっ!くっ…玲ーーーッ!!」


横たわったままの茂はギリッと奥歯を噛み締め、連れ去られる玲に向かってただ叫ぶ事しか出来なかった。


「オイ!【柳ニ風】と玲のファンクラブ共!!テメェらのアタマがヤられてんのに何して…ッ!?」


自分が動けない状態ならば他の人を頼るしかないと思い、声を張り上げそちらに視線を向けた茂は絶句した。


「ダメなの!さっきから皆急に苦しみだして…!?」


「おい!大丈夫か、しっかりしろ!」


佐藤さんと篠木先生、他数名を残し、ほとんどの生徒と教師が苦しそうにして蹲っていた。


「何だよ…これ…」


その異様な光景に愕然とする茂。そんな茂の前に巨体仮面が近づき胸ぐらを掴んで再び持ち上げると、化け物同様に縦に裂けた空間へと向かっていく。


「クソがっ…っな!?」


裂けた空間を(くぐ)る直前、そこから何人もの灰色の角が生えた男達が突如として現れた。

その男達が巨体仮面の前で整列すると、巨体仮面が指示を下すように話し始めた。


そして巨体仮面が蹲っている学校の面々に人差し指を向けると、男達はそちらに向かい始めた。


「な、何するつもりだ!?オイ!明日香に手ぇ出したら殺」


茂の叫びも空しく、巨体仮面と共に裂けた空間へと消えて行った。残された者達は原因不明の息苦しさに呻き、無事な者も新たに現れた角付き人間に拘束されていく。


「ちょっ!?触んないでよ変態!あんた達なんかに明日香ちゃんは渡さ、なぎゅっ!?」


抵抗を見せた佐藤さんは腹を殴られその場に蹲る。そのせいで背におぶさっていた明日香が地面に落ちた。


「うぅ…のり…ちゃん」


明日香は、謎の苦しさに呻きながらも殴られた佐藤さんを守るように抱き抱えた。


佐藤さんを殴った角付き人間は邪魔だと言わんばかりに明日香にも暴力を振るおうとするが、その間に篠木先生が2人を守るように割って入りその攻撃を受けた。


「がふっ!?…これ以上、生徒達に手を出すな!皆も、もう下手に抵抗せず大人しくしてくれ…」


先程の柳沢や茂が傷つくのをただ見ている事しか出来なかった篠木は、せめてこれ以上怪我人を出さない為にも抵抗しない事を選んだ。


篠木先生は両手を上げ、抵抗しないとアピールが伝わったのか、多少乱暴ながらも背中を押され裂けた空間まで進まされた。それを見た無事な者達も次々と両手を上げ角付き人間達に誘導され裂けた空間へと向かう。


「のりちゃん、立てる?」


「う、うん。明日香ちゃんこそ平気?」


2人も抵抗せずお互いを支えあって歩く。明日香は正直限界だったが、何でもないように装い歩いた。


「…私たち、これからどうなっちゃうんだろ?」


「分からないわ。けど…」


2人の歩いている様子を見ている角付き人間たちの目線が、侮蔑や卑しさを纏っているのを感じ嫌悪感から身震いする。


言葉の続きは無かったが、明日香のその様子と、同じ視線を浴びている佐藤さんは察してあえてその先は言わないようにした。


それで現実が良くなるわけでもないが、言ったら更に悪くなる様な気がしたからである。


そうして誰もが望まない裂けた空間への道を潜り、残されたのは潰れた遺骸だけになった。

















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