表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の異物ども  作者: へるしぃーぼでぃ
第一章:脱出編【異世界召喚】
4/141

禍福は糾える縄の如し③

「おはよう、秋月。今日は随分ゆっくりだな」


コーヒーを飲み終えた玲は教室に戻る途中で、担任の篠木先生に声を掛けられた。無精髭が目立ち中肉中背な体格という、THE中年と評判の先生だ。


「おはようございます、先生。ちょっと友達と話してて飲み物奢ってもらったんですけど、俺飲むの遅くて」


「はっはっはっ。朝から奢ってもらうなんて相変わらずの人気ぶりだな」


なんて他愛ない話をしながら教室まで足を運ぶ。そして教室に着き何の気なしに扉を開けると、そこには…


「この腐れヤンキー!!玲ちゃんを何処に置いてきやがったんですかー!?」


「だからすぐ来るっつってんだろ!過保護にも程があるわこの腐った変態が!」


見た目ヤンキーと真性の変態が言い争っていた。今聞いた会話から推測すると、玲を置いて先に戻ってきた柳沢に対し、変態が何先に戻ってきてんだせめて一緒に行動してボディガードしろ、とそんな感じだろうか。

玲はボディガードなど要らないし、そもそもガードする対象はその変態本人が筆頭候補なので、柳沢は見事にボディガードを達成していた。


「はいはい、ケンカはそこまで。それと今日は全校集会で朝礼するから皆体育館に移動してー」


その光景に慣れた様子で篠木先生が手をパンパンと叩き注目を集めると、2人を宥めてそう言った。それを皮切りに次々と教室を出ていくクラスメイト。その中から茂と明日香が玲のもとへと集まってきた。


「柳沢君と何話してたの?またアレ(・・)関係?」


「うん。そんな感じ」


「またか。あんまし危なそうな事はして欲しくないんだけどな、玲」


そして当たり前のように頭を撫でてくる2人。傍から見たら若い夫婦が子供をあやしている風にしか見えないが、実際茂と明日香は付き合ってる。そんな2人に挟まれている玲はそのルックスから癒し的ポジションな立ち位置でいるため、この3人をまとめて呼ぶ時は「家族」と言われる始末である。


撫でてくる手を軽く払い除けながら、玲は答える。


「危なくないよ。って言いたいところだけど、今回は何か起こるかもしれない。ヤナが『嫌な予感する』って」


「マジか。あいつの悪い予感って本当に当たるからな。ていうかこの学校で?」


「分かんないけど、多分そうじゃない?俺もちょっと思うところあるし」


「玲君も?・・・・不吉ね」


2人は玲と柳沢の関係を知っているため、また危ないことに首を突っ込んでいないかと思ったのだが、まさかの学校ぐるみだという話に驚いている。


ちなみに2人に霊感は無いのだが、小さい頃から玲と一緒で不思議な現象などに巻き込まれたりしている為、そういう話をしても信じてくれる。


「それはそうとして、何で学校では大人しく撫でさせてくれないんだ?」


急に話題が変わったが、校門に続き今回も手を払われたせいなのか、若干気落ち気味な茂。


「え。いやだってホラ、周りの目とかあるし?そもそも何でことある事に撫でてくるのさ?」


「そんなの、可愛いからに決まっているじゃない」


それに答えたのはいつの間にか玲の背後に周り、高速でナデナデを繰り出す明日香だった。玲の払い除けは明日香には効果がないようだ。


玲はジト目で後ろにいる明日香を振り返らず見上げると、目が合った明日香はニッコリと微笑んだ。ご満悦の様子である。

玲は諦めたようにため息をつくと、そのまま観念したように大人しく撫でられる。


ちなみに周りで会話が聞こえたクラスメイトは、じゃあ学校じゃなければ大人しく撫でられてるのか、と心の中でツッコミを入れていた。


そうして柳沢との会話を共有しながら、一行は体育館へと向かった。










朝礼というのは、やはりどこの学校も校長の話が長いものなのか。

少し肌寒い体育館にて、全校生徒と教師陣が集まり校長の長話がその場に響いていた。


玲は若干船を漕ぎながら、寝る人特有のガクンッという現象にならないよう1人戦っていた。


『はい、ありがとうございました。これにて朝礼は終了です。それでは各クラスは担任の指示に従って教室に戻ってください』


校長の話が終わり、進行役の生徒指導の先生がそう言うと途端にザワザワと喋り出す生徒達。


その雑多な生徒の中、玲はハッと意識が戻り周りをキョロキョロする。少し寝惚けているようである。

そんな様子の玲に茂が苦笑しながら声を掛けた。


「玲、お前寝てたろ?」


「ん〜、なんの事?・・・・っくぁぁ」


噛み殺す気もない欠伸をつき、手の甲で目元をさする玲。「ほら、行くぞ。」とその声を頼りについて行こうと歩みを進めた時、異変は起きた。


『が…!?ぐゴ…!』


不意にスピーカーから、誰かの呻き声が響いてきた。スピーカーから声が聞こえるという事は、今マイクを握っている人物に限られる。この場で声が拾われるとすれば、生徒指導の先生ともう1人。


ーーー何故か未だステージから降りず、マイクの前で固まったままの校長しかいない。


おしゃべりに夢中な大半の生徒はさっきの呻き声どころか、微動だにしない校長にすら気付いていない。だが、玲はその喧騒の中ハッキリ聞こえたその呻き声に、背筋にゾクッと冷たいものが走った。


さっきまでの眠気は完全に抜け、バッと視線を校長に向ける。


そこには、目の焦点が定まらず血走り、歯をギリギリと鳴らして口から泡を吹いている校長の姿が目に入った。


いつまでもステージから降りない校長を不審に思ったのか、生徒指導の先生と教頭がステージに上がり、その校長の状態を見て悲鳴をあげた。


「うわぁぁぁ!?こ、校長ッ!!」


「きゅ、救急車を呼べ!明らかにヤバイ状態だぞ!」


校長のマイクはオフになっていない為、体育館中にその悲鳴が響き渡る。そしてようやく生徒達も「うわ、校長顔ヤベェ」「何だアレ?マジヤバくね?」とその事態に気付いた。


「オイオイ、校長マジでどうしたんだ?て、玲どうした!?」


そんな中玲の視線の先を捉え、他の生徒達より早く校長の異常を把握していた茂は、不意に玲がガタガタ震えているのに気付く。


「分かんない。けど何か・・・・何かが来る・・・・」


「ーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」


玲がそう呟いた瞬間、ステージにいた校長がこの世のものと思えない声で叫んだ。その場にいた全員が耳を塞ぎ、それでも防ぎきれない音量に立っていられず、中には吐く者もいた。玲も立っていられず、その場に蹲った。





















一体どれほど耳を塞いでいたのか、感覚が曖昧になりながらも叫び声が止まったと感じた玲は、顔を上げる。


第1印象は、薄暗かった。


さっきまでは朝日が差し込んで明るかった体育館が、今は何故か薄暗かった。朝日が差し込んでいた窓は、その先が奈落かのように真っ黒で染まっており外の景色すら見えない。


だが、玲はすぐに間違いに気付いた。


外が暗闇で照明も付けていないはずなのに、何故視界が確保出来ているのか、ふと何かを感じて上を向くと、天井付近に炎が浮いていた(・・・・・・・)


「なに…アレ…」


そのありえない光景を目にし、段々と玲の目に現実が映ってくる。


まず、今いる場所は体育館ではなかった。窓だと思っていた所に窓は無く、黒い壁が自分たちをぐるりと囲んでいる。床も、体育館特有の滑りにくい材質ではなく、大きな石を敷き詰めた無骨な作りになっていた。


そんな劇的な変化にも関わらず「体育館にいる」と思ったのは、周りに他の生徒が変わらず(蹲ってはいるが)居る事と、蹲っていただけで場所が変わるわけがないという常識により、脳が「体育館にいる」という錯覚を起こしていたのだ。


玲が目の前の変化に困惑している中、近くにいた茂もようやく動き出した。


「頭いてぇ…おい、玲は大丈夫か?…て、なんだココ?体育館じゃない?」


玲とは違いすぐに周りの状況の変化に気付くが、やはり困惑気味の茂。


「分かんない。…とりあえず、他の皆を起こそう?」


「そうだな。…っとと!?ヤベッ、足がふらつくわ」


まだ先程の叫び声のダメージが残っているのか、歩きにくそうにしながらも近くのクラスメイト達に呼びかける茂。


玲は何故かそこまでダメージを受けていないので、同時に周りの状況を確認し始める。


少し離れた位置に、柳沢と佐藤さんが茂と同じように周りに声を掛けている。他の学年や他クラスにも何人か動いている人がいるが、数えられる程度である。


「明日香っ、おい、大丈夫か?」


その声を聞いて玲はハッと茂の方を向く。見ると、横たわっている明日香を軽く揺さぶっている茂がいた。


「…うぅ…しげる…くん…?だいじょぶ…だよ?」


途切れながらも返事をした明日香を見て、2人はホッとしたのも束の間。


「キャアアアアアアアアアッ!!!」


突如上がった悲鳴に、今度は何だと動ける者はそちらを見た。


その悲鳴を上げた女子生徒の視線の先には、場所的に校長が居たと思われる位置に、誰の目から見ても明らかに死んでいる人の姿があった。


その姿は、顔全体が内側から爆ぜた様にめくれあがり、顔のパーツは一つも見当たらず喉の奥が(・・・・)直に見えていた(・・・・・・・)


「アアアアアアアアアアアアっ!!!?あっ」


ショッキングな光景を目の前にし、パニックを起こした女子生徒はただ叫び続けていたが、それが不意に止まった。


一体どうしたのか。一同は女子生徒の方を見て絶句した。


首から上が存在していないのである。


『ーーーーーー』


その言葉は、誰も聞き取れなかった。いつの間にかその女子生徒の隣に、得体の知れない何かがいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ