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売れない魔女と成り上がり

 「あのー……白人様。」




「なんすか、小夜さん」




「たしか、強くなるんですよね?」




 「そりゃそうでしょうよ、戦闘手段を身につけない限り俺次のランキング戦できないうえに前のランキング戦未登録だったから順位に反映しなくて現在ぶっちぎりの最下位っすよ。



しかも昨日部屋に備え付けてあるパソコンで“神楽ちゃんねる”なるもの見てたらですよ?



“神崎白人対策板”ってのができててなんかすごい俺対策練られてたんですけど?なんすかあれ、昔はやった学校裏サイトってやつじゃね?教育委員会さーん、仕事してくださーい」




 「はあ、まあ教育委員会はこの学園には存在しないのでそのようなサイトも存在できるのでしょう。それよりも、強くなるなら修行なり、授業に出て魔法などを習得するべきだと思いますが……?」




 「いやいや、だから勉強してるじゃないっすか。図書館で、楽して強くなる方法。」




「……」




「……」





 小夜さんは無言で俺が座っていた椅子を蹴り飛ばす。支えを失った俺の体は、けられた衝撃のまま勢いよく転げ落ちる。



いくら体は丈夫でも感覚はあるんですからねー!



 「この一週間ぐらい授業や休んで図書館にこもってしていたことがそれですか……」



「だって今更授業とか受けても無駄だったじゃないすか!今年が最後の年だから今更入学する人はいないだろうって魔法の授業は全部中級以上だし!



武器使う授業も魔法と同じで中級以上だし!!能力使う授業はそれ以前に能力ないし!!!じゃあもうなんか楽な方法探すしかないじゃないっすか。



それにスノー先生の授業は上級だから中級終わらせないと取れないし!!!!」


俺は若干涙目になりながら反論する。だって人生詰みかけてるんだもん!!!



 「俺は諦めないって言ったのはどこの誰ですか……」




「諦めてませんー、諦めずに楽に強くなる方法探してるんですー。というか努力するのがいやなんですー。」




俺が駄々っ子のように言い訳をすると小夜さんははあ、とため息を漏らして近くの席に座る。その顔には完全にあきれた表情があらわれている。





 「あ、あのー……」




俺が小夜さんにぎゃあぎゃあ騒いでいると、赤い目をうつむきがちにした少年が本を持って俺たちの前に立って遠慮がちに話しかけてくる。あ、そういえばここ図書室だった。




 「あ、ごめんなさい。静かにするんで追い出すのだけはやめてください。ここしか残り希望がないんです。最後のきぼうなんです!!」




「努力してください、そうじゃなければ死んでください。」



小夜さんが俺の足をげしげしと蹴りながら何か言ってるが聞こえない。聞きたくない。




すると少年はくすっと笑うと、それを俺たちが見ていたのに気づくとすぐに表情を戻す。




 「いえ、僕司書さんじゃないから安心してください……。それにこの時間帯は司書さん職員会議で出払ってるんですよ。じゃなかった!え、えと、初めまして僕、名前は五月雨輝って言います。一応神崎君と同じクラスなんだけど……。」




 五月雨という少年は申し訳なさそうに言う。五月雨、五月雨……。あ、あの時豚にからかわれてた奴か!




 「ああ、あの時の!かみきったのか。前はその赤い目髪で隠れて見えなかったもんな。」




「はい、あの時は助けられなくてすいませんでした。神崎君がバカにされてるのに止められなくて。そんな自分を変えたくて切りました!」




今日で決意表明のために髪切る人間なんかいるんだな。




「いや、いいんだ、悪いのは豚の方だしな」




俺は立ち上がりながら体のほこりを払う。派手にこけたから結構汚れちまったな。




「え、えと、今日は神崎君にお礼を言おうと思って。」




 「お礼?」




「うん、神崎君があの時みんなにあきらめるなって言ってくれたから、みんなの前で神になるって言って見せたから、僕は諦めかけていた夢をまた頑張って目指してみようって思えたんだ。」




「いや、俺ただおちょくられたのに腹が立っただけなんだけ……」


俺の話を聞かずに五月雨はキラキラした目でズズイと俺に詰め寄る。なんか、怖い。



「君がヴァレンタイン君の攻撃に必死で耐えながら諦めずに立ち向かう姿に励まされたからそのお礼を言いに来たんだ!」




五月雨はさらにキラキラした目で俺を見つめる。これあれだ、特撮ヒーローショーを見る子供の目だ。




そんな目で俺を見るが、うーん、なんというか……



 「いつか高いツボか絵画でも買わされそうですね。」


「やめろ、思ってもそんなこと言うな……」


「……?」


五月雨輝。うん、こいつは馬鹿正直という奴だろう。



 「それで、神崎君はどうしてずっと図書館にこもりっぱなしなの?クラスも最初はどうなるかと思ったけど今なら誰かが突っかかってくるような事もないし。」





「あのな、五月雨。あいつらのあれは俺を同情してなの。普通神の子ってなったらみんなうらやましがるとかビビるとかないのかよ。」





五月雨は俺の愚痴をあははと遠慮気に笑う。いつの間にか五月雨、俺、小夜さんの三人で話の輪ができていた。




 「義経様は特別だしね、あのひとより前の神は基本的に厳かで、あんまり僕たちと関わろうとしなかったんだけど。義経様はほら……思い付きでいろいろしちゃうから……ね?」





その言葉ですべてを察した。





「ある時は面白そうって理由だけで当時最強の一角だった魔物の封印解いちゃうし、めんどくさいってだけでクラス間の確執無くさせるためにランキング戦を導入したしね。




そのおかげで前半の二年までは学校全体がみんな切磋琢磨しあってたんだ。クラスなんか飾りに過ぎないって、みんながみんな一位を目指した。」





 なんか途中めちゃくちゃなくだりもあったけど親父の導入したらしいランキング制度は結果的に功を奏したみたいだな。ん?でもそれならなんで最初あのクラスあんなに卑屈になってたんだ?





「けどね、ちょうど半年前事情は変わった。“全能の一”、現ランキング一位、神垂叉昼が当時の一位を殺害してランキングトップに立ったことで校内の空気は一気に今のものに染め上げられたんだ。」





五月雨はつらそうな顔で拳を強く握る。小夜さんの目もいつもより鋭いものになる。





「彼はまず各クラスのトップにランキング戦を仕掛けた。



そしてそのことごとくを再起不能にした。前一位のように殺害するのではなく再起不能。あくまで恐怖を植え付けるための公開処刑だ。拒否はできない、だってⅮクラスでない限りランキングが自分よりも高い相手からの挑戦は受けなければいけないのが普通だから。もちろんⅮクラスのトップは拒否したよ。だって受ける意味は無いからね。」




「そして彼は言った。



“生まれながらにして勝敗は決している。どんなに努力をしても勝てないものは勝てない。弱いものは夢を見るな。力に震えて明日を恨め。この世は力、才能こそが全てだ”



実際に彼は武器、魔法、能力全てにおいて規格外。それを入学してすぐにやってのけた。生まれながらの天才。



そしてその姿はある種のあこがれを抱かせた。“信仰者”と呼ばれる集団が現れたのはそれからすぐの事だよ。



信仰者は一位に習ってランキング下位の者を狩り始めたんだ。そうすることで自分も一位のように才能を持つ事ができると思い込んでね。」



 「そんなことあるわけねぇじゃねえか。才能が後天的につくなら俺は神性元に戻したいわ」



俺は感想を今現在の願望に乗せて五月雨に吐き出す。いや、真剣に。



 「そんなこと彼らにだってわかっていると思う。でもね、神垂の圧倒的な力とあんな惨たらしい試合を見せられたらおかしくもなる。



信仰者は上に上がろうとする者を叩きつぶしては自分たちの優位性を維持しようとする、それでぎりぎり心の平静を保っているんだろう。




これが今この学園を取り巻く一番の問題、“異端狩り”




だけどⅮクラスはランキング戦の申し込みを拒否できる、だからこそ他のクラスからは、疎まれ、蔑まれ、嘲笑されている。Ⅾのトップは神垂との戦いからも逃げた。腰抜けどもの集まりだってね。



まあ、それでⅮクラスもあんなに卑屈になっちゃったってわけなんだ。ほら、よく言うだろ気が滅入るってやつさ。今まで仲良かった人たちが急にクラスがⅮだってだけでいろいろいやな事言われるんだから。」





 「なんだそれだっせえな、ただの弱いものいじめじゃねえか。




そんでみんなその一位が怖くて一位の真似して取り入ろうとしてるんだろ。滑稽この上ない」




今にも泣きだしそうな顔で話し終わった五月雨に俺は率直な感想を述べる。すると五月雨ははっとした顔で俺を見上げる。いやいや、そんな驚くような事でもないでしょ。




「本当にその通りですね。因みに私が義経様の依頼を飲んでこの低能雑魚と組んだ理由もそれに関係しています。」




 「まて、雑魚は認めるが低能は抗議する。」




「私の姉、輝夜は当初死亡した元一位と組んでいました。」



俺の意見は華麗に無視される。ほんと話聞かねえなコイツ。


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