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「えーと……シロ君?大丈夫なのかな??」
スノウ先生は俺の安否の心配、というよりも俺がさっきの攻撃を受けて本当に何もないのかを確認しに来たようで、俺はスノー先生を安心させようと肩をぐるぐると回してにこりと笑う。
「ぜんぜんだいじょうぶっすよ!こんなかすり傷。唾つけとけば治るっす!」
「えーっと……あ、本当だ、平気だ。」
先生はそのことを確認すると最初にいた場所に戻っていき、豚はというとなんか口をぽかんと開けたあほ面で固まってしまっている。どうしたんだ、あいつ。
「お、おまえ今のは、まともに食らえば肉が裂け、骨は折れる……」
「ああ、それ聞いた。すごいなあんた、風起こせるのか。ちょっとは見直したぜ。」
俺は豚の能力を素直に認める、それなのに豚は理解できないといった顔でぶつぶつと独り言を言い始めた。
「いや、だからなんで全く効いていないんだ……?お前は無能力者で神性Ⅾの落ちこぼれの……」
「いやー、俺昔から体強いんだよなー。大きいけがとかしたこと無いし、だからじゃないの、あんたのその肉とか裂ける風効かないの。」
俺の言葉に再度固まってしまう豚、なんだこいつ、とりあえず殴れば治るのかな。俺は固まってる豚に歩いて近寄って、目の前まできたところで思いっきり殴り飛ばす。
またしても盛大に吹っ飛んでいった豚はごろごろと地面を転がって徐々に勢いを失っていき、三メートルほど転がったところで動きは止まり、ふらふらと立ち上がる。埃まみれの体も口端から流れる血もそのままに、豚は俺に怒気のこもった視線を向ける。いやー、怒ってる、怒ってる。俺はそんな様子の豚を他人事として眺める。
「こ、この……またしても不意打ちを……」
「いやいや、試合中にボーっとしてたのあんたじゃん。」
殴られた左ほほを赤くはらしながら豚は抗議するがそんなこと知ったこっちゃねえ。俺は右肩を回しながらゆっくり豚に歩み寄る。このまま殴ってけばいつかこいつ気絶するんじゃね?
「しょうがない……奥の手を出すしかないようだな。」
「奥の手出すの早すぎだろ」
いつの間にか口に出ていた俺のツッコミを無視して豚の周りに風が集まっていく。
なるほど、なんかさっきの風からもこの豚の特殊能力ってやつは風を操るみたいだ。てことは台風でも起こすんだろうか。俺は能天気に何かをしようとしている豚を遠目に眺める。
「荒れ狂う風の奔流はすべてのモノを粉砕する。」
豚の周りに集まっていた風は一気に霧散すると次は俺の足元に現れた、うわと情けない声を出して足元を見た俺だったが、一気にその風は俺を巻き込んだトルネードに変わり、すさまじい風の流れに巻き込まれて俺の視界はふさがれる。
「これはミキサーの要領でお前を粉々にすりつぶす。一回目は運よく俺が出力を失敗してほぼ無傷で済んだようだが今度はそうもいかねえぜ。」
風に嬲られたり、巻き上げた砂や砂利でなます切りみたいな感じに削られていく中、豚の強気な発言に再度歓声が沸き上がり、豚本人も自身の勝利と俺の死を確信してるみたいだ。でもごめんな、俺全然意識あるんです。そろそろ罪悪感感じてきた。
「さあ、そろそろ風が消える。どんな姿で死んでるか見も……」
やっと風がなくなって視界の先に、見えたものはまたもやドヤ顔のまま固まっちまってる豚の顔だった。俺はというと服がところどころ破れていて少し血が滲んでる部分もあるが軽傷である。
ほぼ無傷寄りの。
「えーっと……どうして白君にヴァレンタイン君の攻撃が効かないんでしょうか?白君攻撃を魔術的方法で打ち消してる様子もないですし、防御をとってる様子もありません。生身で受けきってます。どうしてなのでしょうか。」
スノー先生は不安そうに、というか若干おっかなそうに俺を横目で見る。やめてくださいスノー先生!女神に気持ち悪がられると俺の存在意義が!
スノー先生の疑問を聞いたミレイさんはにやりと笑うと、ああどうやらね、と続ける。
「彼の父親であり、現神であるところの神崎義経に彼の神性がⅮであることを報告するとある重大な事実が分かった。彼は、まあ、手違いでね。生まれるときに神性がほぼ無い状態になったらしい。
彼が生まれるころ、義経と静の部下たち。有名どころでいうと武蔵坊弁慶たちだね。彼らがずいぶん浮かれ喜んだらしくてね。それで赤子になる前の彼のステータスをいじりにいじって、その結果防御力、再生力のみ人間のそれを完全に凌駕したらしい。
その無断改良の弊害で神性が著しく低下したというわけだ。今まで人間世界で平穏に暮らしていたところを義経によって拉致、そして今に至る。うん、不運としか言えないね。」
ミレイさんの声が沈黙の中に響く。あっけらかんとして肩をすくめるミレイさんを呆然と眺めていると、気づけば周りの野次馬から、うわぁ……という俺への同情の目が俺に向けられる。
やめろ、俺に同情するな!余計悲しくなるから!!俺ははんば強制でも自分の意志でここに来たことにしてるの!!!
目の前を見ると豚がまたもや現実を受け入れられずフリーズしている。こいつよく止まりすぎだろ。昔のパソコンかよ。もう一発叩き込んでやるか、俺は豚に向かって歩いて距離を詰める。
しかし豚ははっとして、前回よりも早くにショックから回復すると、またも後ろに飛んで俺から距離を取り、さっきと同じような口上を述べ始める。こいつ自分の事でいっぱいいっぱいでミレイさんの話まるで聞いてなかったな。
「ま、また運が良かったようだな。でも次は無いぞ!荒れ狂う風の奔流はすべてのモノを粉砕する。」
またも俺の視界をふさいでトルネードが俺を巻き込む。その先の展開はまるで同じだった。
技がおさまる、俺は無傷、そのまま豚に接近、殴る、トルネード、おさまる、無傷、豚に接近殴る。
これを十回ほど繰り返したあたりで豚は完全に起き上がってこなくなる、白目をむいて顔をぱんぱんに腫らした豚はぴくぴくと動きながら最後には気絶した。その惨状を見ていた野次馬の中には豚に黙とうをささげるものまでいる始末だ。完全なる泥仕合である。
「勝者、神崎白人。白人君は後でミレイ先生から話があるからミレイ先生のところに行くこと!以上です。」
豚が気絶したのを確認して、スノー先生が俺の勝利を高らかに宣言する。でもまあ、試合内容と呼び出しのせいで勝利の達成感はまったくと言っていいほどなかった。はあ、と俺はため息をついてがっくりと肩を落とす。
野次馬からは俺たち、というか豚を心からたたえる拍手が巻き上がる。スタンディングオベレーション、ここはミュージカルか何かか
・今回のランキング戦によって得た傷……打ち身(一時間後にはどこにあったのかもわからなくなる)
擦り傷(薄皮を少し切ったぐらいで血がほんの少しだけ出ていたがすぐに止まった)
服(破れた)
後日談を語っておこう。
試合が自分の負けに終わったにも関わらず豚はやり切ったという安らかな顔をして倒れる。そのあと二週間ほど学校を休んだ。うん、なんというか精神疲労と身体ダメージが大きすぎたのか、申し訳ない。
俺はというと明確な戦闘方法が確立しない限りランキング戦の禁止をミレイさんから言い渡された。そうじゃなきゃ俺の試合のたびに泥試合が始まっちまうもんな。
教室ではみんなが俺に優しい気がする。強く生きろよって目が物語っている、自分よりも不遇なものの登場でみんな頑張ろうって気が沸き上がったのか、授業に対するみんなの熱意が上がったとスノー先生が喜んでいた。とてもとても、よいことだ。
そしてミレイさんの微笑の秘密は荒んでいたⅮクラスの意識改善の契機になればいいと思ったのと単純に俺が何か問題を起こしてくれるのを見て楽しむのもあったとミレイさんは俺を呼び出した時に語ってくれた。しかし今回のパターンは予想のはるかかなた上空を行ったとケタケタ笑っていた。この人意外とダメな人なのかも。
そのこともあって俺は自身の戦闘力の向上を急務として図書館にこもり始めた。
今回のは到底戦闘とは呼べるものではなかったと小夜さんには散々嫌味を言われた。でもなんだかんだ俺の図書館での資料探しを手伝ってくれる小夜さんはどこか最初の時よりもつっけんどんしていない。
こうして俺の神への道、いや、Aクラスへの道は始まった。