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 「それで、この人数をどうやって捌くおつもりで?」


 小夜さんは左手に持った刀の柄に右手を添わすようにして臨戦態勢を維持しながら俺に言葉をかける。いやー、と俺は明後日の方向を向く、でも観念して、俺はありのままを伝える。


 「言いにくいんですけどノープランですね。喧嘩という喧嘩してこなかった人生ですから、正直多勢に無勢、なんであそこで手だしちゃうかな俺」



 俺はあはは、とごまかすように笑う。小夜さんは一瞬目を丸くした後、にやりと笑ってため息をつく。なんだろう、小夜さんさっきよりも機嫌良いな。


「はあ、なるほど。打つ手無い状態であんな啖呵を切ったと、バカですか。しょうがないですね。」


 小夜さんは刀を構えて腰を落とす。眼光は鋭くただ一点をとらえている。息を整えた小夜さんはこちらを向くことなく口を開ける。


「全員斬り殺しておきますか。」


 瞬間、小夜さんは俺の横からは消えて、殺気だち、立ち上がった人の群れの中に疾駆する。

 突然肉薄してきた小夜さんに驚きはすれど反応する暇もなく、周囲の四人ほどがいつの間にか抜刀されていた小夜さんの刀によって吹っ飛ばされていた。何斬り抜刀斎だ。


 「お、おまえなにもんだ!!ただのサーヴァントが、人間が、こんな芸当できるわけが……」


 一振りで人が飛ぶ光景を間近で見せられた金髪豚は恐怖からか顔をこわばらせながら小夜さんに問う。俺はというとぽかんと口を開けている。圧巻である。


 「私ですか?傭兵集団“咬み切り鬼”が一人、源小夜と申します。この学園でランキング一位“全能の一”のサーヴァントの“聖母の輝夜”の妹、と言えばいいのですかね。」



 小夜さんは表情を崩さずいつもの無表情で豚に応答する。応答された豚はというと口を開いて、目を見開いて震えちまってる。怯え方が尋常じゃない、どうしたのだろうか。



 「“咬み切り鬼”っていえば最強の傭兵集団。一人一人が天使団の幹部と同等とか言われてるやつらじゃない。」


 「いやそれだけじゃない、“源”っていえばたしか“咬み切り鬼”の頭首の苗字と同じだし、あの輝夜の妹だってんなら相当の化け物なのかもしんねえ」


 さっきまで殺気立っていた奴らだが小夜さんの素性を知った瞬間、完全に士気が落ちてしまったようで、それを感じ取った小夜さんもつまらなさそうに、臨戦態勢を維持したままため息をついて肩を落とす。

 うん、完全に俺置いてけぼりである。小夜さんに全部持ってかれた。


 「もー、みんな喧嘩はだめです!まだ続けるようなら実力行使で止めさせてもらいますからね!!」


 出席簿を思い切り教卓にたたきつけて、ぷんぷんと怒るスノー先生。席を立っていた奴らはその声を契機に不服そうに自身の席に戻っていく。

 小夜さんも臨戦態勢を解いて、刀を鞘に納める。吹っ飛ばされた四人も、いててとよろよろと立ち上がって、恨めしそうに小夜さんを睨むと、席に戻っていく。よかったさすがに峰打ちってやつだったか。


 「いや、先生おかしいぜ。」


 そこで空気を読まずに発言したのは金髪豚。豚はにやにやとまたも醜く口を歪めながら先生に意見する。なんだよ、まだ何かあるのかよ。俺はうんざりしながら豚をねめつけるが、豚は構わず続ける。


 「えーと……何がおかしいのかな。ヴァレンタイン君。」



 スノー先生ははあ、と小さくため息を漏らしながら豚の言葉の真意を聞く。豚は得意げに、そして気持ち悪く腰をくねらせながら自身の不遇を先生に主張する。



 「いやね、俺は何もしてないのに殴られたんですよ。それに四人だって何もしてないのに斬られたんです。それは、すこーし、いや、かなーり筋が通らなくないですかねえ」


 豚は嫌味たらしく俺を横目で見ながらにやりと笑う。腫れぼったい唇が歪んだのを見て、俺はカブトムシの幼虫を土から掘り返した時の光景を思い出す。タラコ唇がさらに進化すると幼虫になるんだな。


 「えーと……うーんと……」


 スノー先生が困ってしまう。とことんゲスイやつだな金豚。正義のかけらもない、ヴァレンタインって名前が泣いてるぜ。



 「確かに今回の事件、俺にも非はありますよ、そんなつもりはなかったのに挑発と受け取られること言っちゃったんですから。

 でもねえさすがに一方的に手を出されて、出してきた相手に何のお咎めもなしで終わりは、何か違うと思うんですよねえ……そこで、です。」


 豚はそこで教室の生徒の方に向き直り、手を広げて自分が舞台役者にでもなったかのように語り始める。


「俺とそこの神崎白人の一対一のランキング戦で白黒つけようと思うのですがどうでしょうか!」


 一瞬の静寂、そのあとには教室は割れんばかりの声援が巻き起こる。ああ、面倒なことになりそうだ。


 「えっと、えっと、それはえっと」


 スノー先生はあわあわと俺と金豚、そして他の生徒たちを交互に見る。完全に混乱しているようで涙がうっすら目に浮かんでいる。俺が口を開こうとした瞬間、ドアのほうから凛とした声が響いた。


 「いいんじゃないかな、やらせてみれば。」


その声の主は先ほどぶりのミレイさん。ここの学園長の姿だった。


 「え、でもミレイ先生……」


 「ふふ、だってそうじゃないとこの騒動は収まらないさ。それにそこの神崎白人君は神になりにきたんだよ?これぐらいの障害乗り越えてもらわないとね。」


 ミレイさんは意味深な目線を俺とスノー先生に送る。スノー先生はほんとうですか、と心配そうにミレイさんの意思を再度問う。しかしその返答は豚によって遮られる。


 「つまり、ランキング戦を許可なさるということですね学園長。」


 「ああ、ヴァレンタイン君。君は確かこのクラスで四年間も辛酸をなめ続けてきた古株だ。Ⅾクラスのルールを彼に叩き込んであげるといい。」



 ミレイさんは腕を組んで意地悪く、くくと笑って豚に発破をかける。あー、なんとなく最後の笑顔の意味が分かった気がする。


 「つまりこの勝負、俺は受けなきゃいけないんですね。いやいや、本当に一杯食わされたって感じです」


 ミレイさんをジト目で睨むが、たいして気にした様子もなくくくく、と笑う。 


 「ふふ、受けなきゃ男が廃るってもんだよ。白人君、君へのアドバイスなんだが、さっき義経に君のことを聞いてね。

 まあ詳しく言うのはだめらしいから一つだけ言っておこう。物理的に君が負けることは無い。けど君が物理的に勝つ方法は無い。そのことを肝に命じてベストを尽くしなさい。」


 いまいち意味が分からないけれど、うん、一応覚えておこう。それにしても盛り上がってんな、最初に来た時のかび臭さが嘘のようだ。





 教室の中ではダメだと校庭に移動した俺たち。俺と豚は真ん中に立ったスノー先生を境に向かい合う。豚は変わらず額からダラダラと汗を流して、下品な笑みを浮かべて俺を見ている。なにこの人、気持ち悪いんですけど。


 「これよりランキング324位ヴァレンタイン・フライと、ランキング未登録神崎白人のランキング戦を開始します。

 勝利条件は対戦選手の敗北宣言か、対戦選手の気絶などの戦闘続行不可が我々教師から判断くだされること。今回審判を担当するのは私、スノー・レイムとミレイ・マーリン教諭。両者前へ。」


 スノー先生の凛々しい宣言を合図に前に出る俺と豚。

 いきなり校庭に出されたからだろう、校舎の窓のところから野次馬が思い思いに騒いで観戦している、見世物小屋のライオンかなんかにでもなったみたいだぜ。


 普通なら緊張でもいそうなもんだけど、まったくもって緊張しない。冷静だ、平常時とまったく変わらない。奇妙な感覚の中俺はゆっくりと豚を視界にとらえる。

 そんな俺の表情を察してか豚は変わらぬニヤケ面で話しかける。その顔は完全に俺の事をなめきっている顔で、収まった怒りがまた沸々と沸いてきそうだ。



「ほー……緊張してないようだな、度胸だけは一級品か?」



「いや、そんなことは無いだろうぜ、実際あんた殴ったので人生二度目の喧嘩だし。なのになんでだろうな、一回目もそうだったが全く緊張しねえ。まるで試合慣れしたプロボクサーとか戦場慣れした軍人みたいな超クールなおもむきだぜ。」


 俺の言葉を聞いて、なのかは分からないが豚はニヤケ面をやめて表情をこわばらせてこちらを睨む。そういうまじめな顔もできるんだな、と俺は少し感心する。


 「宣言しておく、俺の能力はあのクラスの中じゃあ破格のレベルだ。

 そのおかげで俺はランキング上ではBからCクラス相当の位置についている、今日来たようなひよっこが勝てるわけがない。お前はもう終わりだ。」


 豚はさっきとは打って変わって低く、俺にやっと届くような声量ではっきりと言う。俺はそうかい、とつぶやいて豚の言葉に、不敵ににやりと笑って返す。


 「ようはお前があのクラスの親玉ってことか。さすがお山の大将、だからお前が殴られたらあんなにわらわらと出てきたわけね」



 俺はあくまで飄々と豚を煽り立てると、豚は苦虫を噛み潰したような表情で俺を睨みつける。太って細くなっているのであろう目が怒りでさらに細くなるのがわかる。



 「いつまで軽口たたいていられるかな、お前なんてあの傭兵女いなくちゃただの雑魚だろうに」


 豚はそういい終わると後ろにとんで俺から距離をとる。豚の癖にジャンプできんのか、今度木にでも登ってもらうか。



 「それではランキング戦スタート!!」


 スノー先生の掛け声と同時に試合開始の合図であるらしい緑の光弾がミレイさんによって空に打ち上げられる。野次馬たちの地面を揺らすような歓声が校庭に響き渡る。

 俺が息を吐いて気合を入れた瞬間、荒れ狂う突風とともに左肩に痛みが走る。


「まずは一本いただきだ!!」


 校舎の方からさらなる歓声が起こる。大気をも揺らすその歓声の中、俺は痛みの元の左肩を見る。服の袖は強引に引きちぎられたようになっていて、その中からは赤く染まっている俺の方が見える。まあ出血とかはないんだけど。



 「これを受けてただで済むやつはいねえ。肉が裂け、骨は折れる風の刃さ。あるやつはそのまま風にあおられてよろけて倒れたと思って、よーく見てみたら腕がなかったってパターンもあったぜー!さあお前はどんな感じに……」


 豚は目をカッと見開いて反乱狂で叫び、俺の様子を興奮冷めやらぬ様子で見つめる。


「……まあ打ち身って程もないけど……。昔スクランブル交差点で全方向からダンプに追突されたときのほうがいた痛かったわ」


 俺は赤くなっている肩に手に付けたつばを塗っていると、さっきまで沸いていた歓声は急に鳴りやみ、俺たちは静寂の中に放り込まれたことに気付く。あれ、俺またなんかまずいことしちゃった……?



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