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「ギルドは主に我々の世界で我々の世界の住人を守護する存在という認識で構わない。まあそこには金銭による雇用関係が存在するけどね。君たちの世界でいうギルドが一般企業、神や天使団が公職であると思ってもらうとわかりやすいかもしれない。」


なるほどなるほど、さすがミレイさんだ。違う世界から俺に合わせてわかりやすい説明を入れてくれる。どっかの怪力女にも見習わせたいもんだ。くしゅん、というかわいらしいくしゃみが隣から聞こえたが無視して話を聞く。



 「そしてここからが重要な事なのだが」


「……どうしたんですか、また改まって。」



 打って変わって二度目の申し訳なさそうな表情になるミレイさん。またもや衝撃の事実の予感、というか不幸の予感。俺は自分の嫌な予感がどうか外れてくれ思いながらつばを飲み込む。


「その…最後の年というのが今年の事なんだ」



……はい?



「うちの学園は神を育てるのが目的だといったね。だから、次の神が選ばれるとき、というのが卒業のタイミングなんだよ。普通の一年生や、三年生というものは仮にしかない。全員が一斉に卒業する。神が生まれたその瞬間に、ね」


 ミレイさんはバツが悪そうに顔を手で覆う。思えばさっきからミレイさんには気まずい顔ばかりさせている、申し訳思うがそれはそれだ。襲い掛かる不幸に落ち込みっぱなしで気遣う余裕はないんだ、ごめんなミレイさん。



 そしてまたしても俺の悪い予想は当たってしまったようだ。つまり俺の学校生活はあと一年で、就職についてとか未来の事についてもこの一年で全部決着つけろってことかよ!!?冗談じゃあ、ねえ!!!



 「いやいやいや、俺元の世界だとあと二年ぐらい高校生っていう青春時代があってですね?そのあと順調にいけば四年間大学生っていうキラキラ時代が待ってるはずなんですけども!???」


 「すでに高校をおやめになった白人様の学歴は中卒です。その青春やら、キラキラやらに到達するためには道が遠すぎますね。ざまあです」


「ざまあも何もお前とあのくそ親父が原因だろうが!」


 はて、ととぼけた表情をする小夜さん。そんな小夜さんにがるる、と吠えながらねめつける俺。この女は毒舌というかなんというか、性格がひん曲がってやがる。


「あはは、災難だったね。……ではどうだろうこの学校で本格的に神を目指してみるというのは?」



 ミレイさんは俺と小夜さんのやり取りを苦笑いで流した後、にやりと口端をあげて思い切った提案をする。神かー、確かになれって言われてここまで連れてこられたけれど。さしあたっての問題があるのが現状だ。

 俺は申し訳なく思いながらその問題というのをミレイさんに打ち明ける。まあミレイさんも知ってのことだと思うけど。


「でもミレイさん、俺Ⅾクラスですよ?」


 俺がすこし罰悪げにミレイさんにいうとまたもミレイさんは優しい笑顔に戻って微笑む。


 「Ⅾクラスから神になった者はたしかに少ない。でもね、Ⅾクラスにはその状況を覆す特権があるんだよ。」


「特権、ですか。」


 俺はミレイさんが得意な顔でそう言い切るのを見て不思議そうに頭をかしげる。ミレイさんはさらに得意顔になって仰々しく続ける。



 「ああ、神性というもので大きくハンデのあるⅮクラス。それを覆すためにある権利が保障されている。それは“下剋上”。Ⅾクラスの人間のランキングにおける挑戦はどのクラスも拒否することができない。

 ランキングというのはね、この学校で言う成績の序列のことを言って、ランキング戦という模擬戦によって主に決定されている、一部例外はあるけどね。ランキング戦で勝てば、勝った者の序列を自分のものとできるんだけど、ランキング戦で下位の者が上位の者に挑む場合、その挑戦を受けるか受けないかは上位の者に選択権があるんだ。

 しかし、Ⅾクラスにおいてのみそれは適用されない。Ⅾクラスだからと言ってチャンスがないわけではないのさ、弱者のほうが成り上がれるチャンスは往々にある。」



 なるほど、Ⅾクラスは大富豪でいうところのスペードの3、Eカードでいうところの奴隷、ようはジァイアントキリング、窮鼠猫を噛むといった大番狂わせや大物食いをするチャンスに富んでるってことか。


 「そしてもう一つ、ランキング戦において欠かせないのがサーヴァント制度です。」


 さっきまで黙っていた小夜さんが自分の番だとばかりに話に入ってくる。なんだかテンションの高い小夜さん。


 「サーヴァントとはその名の通り生徒にとっての従者の役割を持つものです。いろいろな能力、魔術がありますが、そのすべてが戦闘向きとは限りませんし、発動までに大きな時間を要するものもあるでしょう。

 そのため生徒は外部の者を一人につき一人雇うことができるのです。しかしその者は自分の歳以下の者に限る。生徒が自分の親なりを雇って順位を上げる、というのを防ぐためでしょうが面倒な決まりです。」


 小夜さんは、やれやれといった具合にため息をついて、両手をあげる。ミレイさんは、ルールは必要だからね、と苦笑いをする。


 「そしてサーヴァントにもランクがあってですね。私のランクはA。つまり最高ランクのサーヴァントとなります。」


 小夜さんは無表情に言い放っている風を装っているが胸を張っているからかさっきよりおっぱいが強調されてるし、鼻もひくひくと大きくなったり小さくなったりと忙しそうだ。


 というかその前に


「え……小夜さん17以下なの……?」


「はい、今年で17になりますが……?」


 俺は改めて小夜さんの体を見る、ぷっくり柔らかそうな唇、ライダースーツの中ではち切れそうな胸、きゅっとくびれた腰、成熟した張りのあるヒップ、と完全に完成された体の小夜さん。いや、高校生の体つきとは思えない。



「俺てっきり21ぐらいなのかと。」


「はい……?」


 俺は小夜さんから発せられた尋常じゃない殺気を感じ取って下を向いて黙る。だらだらと額から汗がし滴るが前を向いてはいけない。目を合わすと殺される。


 俺と小夜さんの微妙な間を感じ取ってミレイさんが話を変えてくれる。グッジョブ、ミレイさん!!


 「うん、とりあえず白人君は神を目指しなさい。色々困難はあるだろうがこれからこの学園で過ごしていくためにその目標が一番勝手いいと思うからね。」



「まあ、はい。夢はでっかくですよね。とりあえず目指してみます。」


 話の流れ上、一応俺はミレイさんの話に乗ってみる。少し気になったのはミレイさんが一瞬にやりと笑ったことだったが、別に流してもいいだろう、この人からは悪意を感じない。



「うん、これで私からの説明は終わりだ。いまから教室に行ってもらうわけだけど、その前にこれを君に渡しておこう。」


 ミレイさんは最初に出していた赤い液体の入った瓶を机の中にしまうと、代わりに違う瓶に入った赤い液体を俺の前に置く。さっきの小瓶が親指ほどの大きさだったのに対して今回の小瓶は小指ほどのものだった。


俺はその瓶をみて、うぐ、と情けない声を出してしまう。だって怖いもんなぁ。


 「大丈夫だよ、味はリンゴジュースだし、中身はⅮクラスように一番濃度を薄くしているやつだ」


 苦い薬が飲めない子供に平気だよと伝える女医みたいなミレイさん。想像したら結構様になってるなーとか思っていたら


 「早く飲んでください、まどろっこしい」



 いつの間にかふたを開けて瓶を片手に持っていた小夜さんに無理やり口の中に瓶の中身を流し込まれる。俺は反射的にそれを飲んでしまいむせながら口を拭って、小夜さんに抗議する。


 「ゲホッゲホッ、まだ心の準備できてなかったんですけど!?」


「あなた様のようなチキン、いつまでたっても自分じゃ飲まないでしょう。感謝してほしいぐらいです。」


 まったく悪びれた様子のない小夜さんは、むしろどうだとばかりに胸を張っている。覚えてやがれと心の中で悪態をついたところで俺は赤い液体を飲んでしまったことを思い出す。



 俺は自分の体をぺたぺた触ってどこか変化している部分は無いかを確かめる。うん、全く変化はない。というか本当にリンゴジュースだった、後味すっきり。


 「何か変わりはあるかい?」


「いや、全然実感がなくて。あれですかね、能力に覚醒してないとかなんとか」


 俺がそういうとミレイさんは頭を左右に振りながら俺の希望的意見を否定する。


「いや、能力を得た場合その使い方と能力は頭の中に自然と浮かぶはずだ。しかしそれがないとなるとおそらく能力は無く。身体能力が向上したといったところだろうか。」


 つまり完全に外れひいたってことね。あらー小夜さんも半目にあきれ顔。こりゃ先が思いやられるな。俺はすでに自身の不幸に開き直っていた。なんて日だ!



 俺と小夜さんが失礼しましたと学園長室を後にして、廊下に出てみるとそこには一人真っ白いローブを纏った、これまたローブに負けないほどの真っ白な髪を腰まで伸ばした優しそうな女性が俺たちを待っていた。


 白亜の髪はさらさらと流れて、雪のような真っ白な肌は対照的な真っ赤な瞳によく映えている。少し丸みを帯びた顔はその女性の聖母のような優しい表情をさらに際立たせている。あえていおう、めちゃくちゃタイプです。


 「初めまして、神崎白人君、源小夜さん。この学校で白魔法を教えていて、Aクラスの担任をしています、スノー・レイムといいます。私があなたたちをⅮクラスまで案内しますね。」



 スノーという目の前の女神は、にっこりと笑顔を絶やさずに言い切るとじゃあついてきてねと俺たちの前をゆっくりと進んでいく。俺たちもそのあとをついていく。



 俺は初めてこの世界にヴィーナスを見た。



 「ごめんなさいね、Ⅾクラスには担任がいなくて……この学園にはいろいろな先生がいるんだけど担任ができるのは魔女だけで、いまこの学園に魔女は学園長を入れて四人しかいなくてね。学園長が担任をするわけにはいかないから私が臨時でたまにⅮクラスの朝礼をしたりしているのよ。」


 スノー先生は頭を傾けながら優しく微笑みかけてくれる。俺ははう、と情けなく胸を押さえながら悶える。その様子の俺に小夜さんは養豚所の豚を見るような視線を送る。


 なるほどなるほど、とスノー先生の話を大げさにうなづいて聞きながら俺は先生をまじまじと観察する。


 まつ毛も髪と同じ真っ白で長いからか神秘的な雰囲気が漂う。それにローブ越しでもわかる胸の大きな盛り上がりは小夜さんに匹敵……いや、ぎりぎりの差でスノー先生のほうが大きいかな。スタイルはローブで隠れていて確認できないが、おそらく抱き心地抜群のわがままボディーだろう、そうに決まっている。



「スノー先生はAクラスの担任ってことはエリートクラスの先生?みたいなかんじっすかね!」



 俺は少しでもスノー先生と話していたくて、さっきスノー先生が言ったAクラスという単語で話を広げる。小夜さんが浅ましい愚者を見るような目で見てくるがその通りなので直視できません!



 「うーん、一応そうなんだけど。Aクラスの子は個性的な子が多くてね。あんまり登校してくれなくて少し寂しいかな。」


 そういうとスノー先生はしゅんと少し寂しそうに肩を落とす。守ってあげたい小動物教師。いやほんと、絶滅危惧種なんじゃない?こういう小動物系、横に縦横無尽魔王系女子がいるけども。ううんと小夜さんが大きく咳ばらいをしたのでびくりと肩を震わせてしまう俺。


 「俺がもし先生のいるクラスなら毎日絶対登校しますよ!!でもまあ、実際はⅮクラスなんですけどね……」



 さっきまでⅮクラスになったことに不平不満を感じていたがA以外ならⅮだけが唯一スノー先生に会えるクラスだ。俺はその幸運に感謝した。神様ありがとう。


 あ、そういえば神様親父か。


 「ありがとう、うれしい!それなら白人君には頑張ってランキング一桁になってもらおう!」


 スノー先生は立ち止まってくるっと半回転して嬉しそうに俺にウインクする。誰かこれ録画取ってない?死ぬまで見てたいわ。


 「ら、ランキング一桁になるとどうなるんですか?」


 俺は自身のやましい心が悟られないように平静を装ったつもりだったが、声が上ずって逆に気持ち悪くなってしまう。しかし、スノー先生は気にせず話を続ける。天使、万歳。


 「今年からなんだけどね、ランキング一桁の子は例外的にAランクに入ることができるの!!だから白人君には頑張って私の生徒になってもらいたいなーって!」


 俺の夢が決まった瞬間だった。


「わかりました、なりましょうAランク。」


 即答である、そしてちゃっかり俺はスノー先生の手を両手で握る。後ろで小夜さんの大きなため息が聞こえる。


「ほんと!?冗談じゃない??私本気にしちゃうよ!」


 スノー先生は気にした様子もなく、にこりと笑って俺の手を握り返す。もう、この手洗いません。


 「ええ、盟約に誓って。なんなら僕神だって目指しちゃいますよ。」


 「うわぁ!シロ君ほんとかな??もしシロ君神様になったら私、神様の先生になっちゃうんだね!」


 「はぁ、単純ですね。」


 俺と先生の夢の語らいを横目に流して嘆息する小夜さん。いいだろ!やる気出たんだから。と心の中で一喝して、長い廊下を進んでいく。


 よし、俺神なるわ

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