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「なるほど、あんたが俺のオヤジか」
「おう!初めましてに近い久しぶりだなバカ息子よ。それでお前ダチ思って人ぶっとばしたんだろ?やるじゃねえか。」
親父に悪びれた様子は全く無く、ぐしゃぐしゃに丸めて捨てた手紙と同じようなことを言い始める。なんかこういうところマイペースなもころ俺似てる気がするわ。我ながら。
「まーそうだけど、だからって今まで養育費だけ振り込んでた育児放棄パパがなんでまた退学なんて勝手なことしてんだよ。」
別にあの学校に未練は無い、というか今まで暴力沙汰とか起こしたこと無かったから停学開けて戻ってもみんなの見る目変わってクラスで浮きそうだしな。
特別仲のいいやつは留年してひきこもっちまったから別に学校で会うこともない、会いたいときに連絡すればいい。
そんなこといいつつも、さすがに高校くらいは出ときたいもんだなぁとは思う
「あー、まあ育児放棄は否定できんがお前のことはたまに見てたぞ、まあこっちの仕事が忙しくて全く会いに行く暇がなかったが」
やだこわい、ストーカー案件かしら。ていうか約十五年間忙しいとかありえないだろ。異議ありって感じだ。一応気にはしてないけど事情を聞いておこう。いや、ホントに事情はないからな!
「なーおっさんよ。十五年間も息子をほっといて仕事忙しいは言い訳下手すぎんだろ。なんの仕事が十五年間も忙しいことと関係があるんすかねぇ」
「あれ、手紙に書いてなかったか。俺の職業は神だ。」
……俺の中で沈黙が流れる。
もーこのおっさんなにいってんだろ、やっぱり頭おかしい女よこすおっさんも同類なんだろうな、じゃないとこんな女よこさないもんな
俺があきれた目で小夜さんを見ているとその視線に気づいた小夜さんが不服そうに口をとがらせて俺に抗議する。
「なにか不本意な感想を抱かれた気がしました。」
……察しだけはいいんだな。俺は適当に首を横に振ってあしらっておく。
「まああれだけの養育費振り込める足長おじさんだもんな、神とか言っちゃうぐらいの職種なんだって勝手におもっておくぜ。」
「その言い方、しんじてないな?信心がたりねえぜ、まあ願いをかなえたりとか天罰下したりって神じゃないけどな。俺あくまで守り神だし。」
なんかたまにウチに来る危ない宗教の匂いがするなぁ、そういうのうち結構です。俺が露骨に胡散臭そうな顔をしていると親父は、あ、と間の抜けた声を出して話を続ける。
「そうそうそれとな、お前の退学した後の件だが俺のほうで手配させてもらった。」
「たしか、他の学校にってやつか。あれマジだったのか。」
「おう、お前には神楽神学校に通ってもらう。」
「神楽?神学校?????」
まーたなんか変なこと言い始めたよこのおっさん。さっきの神発言といい、今の神学校発言と言い新手の勧誘かな。
神学校ってのはたしか社会の授業で聞いた事があるな。神学習うための学校じゃなかったか。冗談じゃない俺神父になるつもりないぞ。俺がうーん、と提案された学校について思慮を巡らせていると小夜さんが後ろから出張ってくる。
「その件に関しては私の方から説明させていただきます。」
さっきまで玄関口にもたれかかるようにこちらの様子を見ていた小夜さんがこちらに歩み寄ってくる。これは話がややこしくなりそうな予感……
「とりあえず、いきましょう。」
「いや、説明しろよ!」
俺の目の前にまで来て、手を引いてどこかに行くことを提案する小夜さん。まあこの流れ上そのなんとか神学校のことなんだろうけども。
「えー…だって面倒ですし。実際行って目で見ていただいた方がいいと思いますし。」
説明って言葉を辞書を開いて調べることをお勧めしたい。小夜さんはそれなら、とポケットの中から黒い札を取り出すとそれを指さす。
「これ、壁につけますね。」
「え、何それすごい不気味なんだけど」
俺の不安もなんのその。小夜さんは黒色の紙に赤い文字で何か文字が書かれた不気味な札を壁に貼る。すると壁に黒い穴が現れる。その中から誰かが出てくる。ていうかあの穴何?ブリーチ?
「よし、久しぶりの人間界だ!それにしても派手にぶっ壊したなぁ。小夜。」
「開かない扉が悪いです。」
その穴から出てきたのは戦国武将のような鎧を着た、背中まで伸びた黒髪長髪が特徴的な眼帯の男だった。男は小夜さんの肩をばんばんと叩きながら笑う、その男を一瞥もせずにどこ吹く風で扉に罪を被せる小夜さん。
ていうかこのおっさんの声聞き覚えあるし、なんか俺の持ってる携帯の方からも遅れて同じ声とセリフ聞こえるんですけど。
「さあ行くぞバカ息子!おまえにも神になってもらう!」
なるほど……、どうやらこのおっさんが俺の父親らしい。
違う、ここでかんがえるべきはそこじゃない!
「な、ななななな、なななななななな!!」
「どうしたんだこいつ、面白い顔して」
俺の顔を差してゲラゲラと笑う眼帯のおっさん。小夜さんはさあー?、と肩をすくめて困惑顔だ。
「わかりません、キチ○イです。」
「ひどい言われようっすね!?」
俺は思わず声を荒げてしまう。目の前で壁から人出てきたらそりゃおどろくだろ。そんな俺とは対照的に顔色一つ変えない目の前の二人。なに、おかしいの俺なの!?
「それだけ声出せてるなら上等だな」
「それよりも、アンタ、今壁から!!」
親父と思われるおっさんは能天気にうんうんと一人で納得した様子で頷く。小夜さんも全く、といって呆れたように頭を左右に振る。なに?俺が外でてない間に壁から人出てくるのは当たり前になっちゃったの?急に技術進みすぎじゃない?
「だって空間つなげたからな、あたりまえだろ?」
「本当に、頭悪いというか常識がないですね。」
おっさんと小夜さんは至極当たり前の事を聞かれて困っている様子。いや、小夜さんに対しては俺への蔑みも含んでるな。常識のなさをドアを蹴り飛ば女に指摘される時が来るとは思わなかった。
ちくしょう、ツッコミが追い付かねぇ。
「いやいや、空間つなげたとか生まれてこの方漫画の中でしか聞いたことねえよ。」
「あー……、なるほどな、物心ついて見るのは初めてか。でも生まれたころ何度も見せたはずだったけど、覚えてるわけねぇか。じゃ、まあ驚いてるついでにいろいろ説明させてもらおう。」
「あー……そうですね。はあ、めんどくさい。」
俺が戸惑っている理由がやっとわかったおっさんは、そのついでにと俺にいろいろ説明してくれる気らしい。ようやっとまともな説明が聞けるわけか。でもな小夜さん、最後の言葉は小さい声で言ったつもりでもばっちり聞こえてましたぜ。
「改めて名乗っておこう。俺は神崎義経、お前の父親だ。お前らでいうところの神。主に人間を超常的な存在から守る集団の長をしている。」
自称オヤジは胸を張って、よろしくな馬鹿息子、と挨拶するがそんな涼宮ハルヒばりの自己紹介誰が信じるんだ。と以前の俺なら言うだろうが……
「いや、神とか言われて信じるわけが……いや、さっきよりはしんじるかも……」
壁から出てこられちゃなあ、マジックみたいに種や仕掛けがあるとは思えなかったし。あの穴はどこにつながっているんだろうかとかいう知的好奇心はここではおいておこう。話は進んでいく。
「話を進めさせてもらうぜ。それでな、俺の神としての任期はもうじき切れる。だから次の神を決めなきゃいけないんだが、まあぶっちゃけ言えば今の候補全員気に食わないんだわ。俺の後釜として。」
「だからだ、うん、お前がなれ」
……はあ?
俺はあまりの突拍子のない展開に声を出すのを忘れる。すでに目の前の光景に対する現実感は喪失していて、もうどうにでもなれって感情さえ芽生えはじめているが、微かに残っていた理性がおっさんの発言で奮い起こされる。
「ちょ、ちょっとまて、あんたが神なのはこの際よくわからないから考えないとして、どうして俺が神なんかに!」
俺の言葉を聞いて不敵にニヤリと笑うおっさん。俺はその笑顔に絆されまいと咳払いをしてキツく睨みつける。
「俺からも推薦者を出さなきゃいけなかったんだが、いままでこれってやつがいなくてな~、まあ?お前学校の奴ぶん殴っちまって気まずいだろ。どうしてって、理由が必要なら俺が神に必要だと思うものをお前は持っていると思ったから俺はお前を推すのさ。」
「いやいや、いきなりそんなこと言われても。」
「まあとりあえずは入学してみろよ。学校生活の中で決めればいい。俺がそうであったようにな。」
お前のせいで退学しちまったんだけどな、というツッコミはあえてしない。なぜなら俺にはもう行くしか選択肢はなさそうだからだ。
よくよく考えてみると気まずくて学校に行きづらくなった俺にとっちゃあ渡りに船って感じもしないことはない。あのまま復学したとしても辞めてしまう可能性は低くなかった、と思う。
でもまてよ、俺が一緒に学校についていって退学を申し出たって話のタネが聞かされてなかったな。この際だ、全部の謎の答え合わせといこうか。
「なあおいクソ親父よ。俺そっくりの人間が学校に小夜さんと一緒に行ったらしいんだけどよ。」
「ああ。」
親父は俺の質問の意図を探るように俺に笑いかける。小夜さんは既に興味をなくしたのか端にもたれて欠伸をして目をこすっている。構わず続ける
「どうやって気づかれずにそんなこと出来たのかがわからない。変装か、それとも幻覚かなにか?」
俺は今まで培ってきたマンガ、小説、アニメ脳をフル回転させたがこの二つぐらいしか思い浮かばなかった。変装だと口調とか態度で誰かに気付かれそうなものだし、幻覚っていうのが一番あり得そうだと俺は考えていた。
俺の言葉を聞いてまたニヤリと意地悪く笑ったクソ親父は首を左右に回して、ボキボキと首の骨を鳴らす。
じゃあ、見せてやるよ、と手を地面にかざす。周りの空気が異様な静けさを帯びたのが俺にもわかる。
「“万物創造”」
親父の手が緑色に光る。そこを中心に室内であるにも関わらず風が吹き荒れる。俺はその風のせいで目を細めながら、起こっていることを届けようと手で風を遮って親父の手の先を見る。
瞬間、目の前の空間が青白く発光し、何かが見る見るうちに出来上がっていく。その何かは人の形をしていて、頭までできたころにはそれがいつも朝、鏡で見る自分の姿と全く同じであることに気が付く。
俺はあっけにとられて、何度も目をこすって確認する。しかし、俺そっくりの何かは目をつむって俺の前にいつまでも存在していた。
「こういうことだな。俺の神力は“万物創造”俺が考えたもの全てを創ることができる。まあこれは精巧なほとんど見分けのつかないAI搭載のロボットだが、もちろん生物だって、それこそ人智を超えたものだって創れる。」
なるほど、こんなものを見せられたら確かに神だということは疑いようがない。俺は試しに指で目の前の俺そっくりの人形の頬をつつく。かすかに冷たいけれど質感は肌そのものだ。俺は自身の肌とつつき比べながら確かめる。
「神力ってのは神に近いもの、生まれ持って神性を持つものが、ある液体と訓練によって得ることができるものだ。学園にいる人間にも持っている人間は多いと思うぜ。」
俺は人形をぺたぺた触りながら親父の話を半分、というかほとんど聞き流す。すごいなこれ、パーマンのコピー人形みたいだ!
「まあ、こんな能力も魔法もある世界だ。行ってみて損はないと思うぜ?難しく考えず、新しい環境で一から学校生活を始めるって考えればいいんじゃねえか。」
そういうと親父はそそくさともと来た黒い穴の中に帰っていこうとする。新しい環境か。それに魔法もこんな能力もあるっていうんなら行ってみたい気はする。
「それじゃあ、今更行くとこもないし、行ってみるか。」
俺は決心してそのクソ親父の言うファンタジーな世界に行くことを承諾する。この物事を軽く決めてしまうのは俺の悪い癖だがしょうがない。好奇心のほうが勝った。
「やっと決まりましたか。というか義経さま、送って行ってください。最悪私だけでも。」
それだと俺がこのドアつぶれた部屋で取り残されるんですが。せっかく決心したのに置いてけぼりとかお前ら何のためにここに来たんだよ。
「えー、まあいいか。じゃあさっさとついてこいよ。」
親父は面倒そうに頭をかきながらその穴の中に入っていく。俺はというといまいち決心がつかず二の足を踏んでいた。だってこの穴に入ってなんかあったらいやだしなぁ。
そんな感情を察してか、それとも単純に邪魔だったからなのか小夜さんは俺のすぐ後ろまできて小さくしかし俺にはっきりと聞こえる声で低く囁く。
「早く行ってください、チキン野郎様」
「全く敬語の意味がないんですけど!」
俺のツッコミもむなしく小夜さんは俺を後ろから蹴り飛ばし俺はその穴の中に吹っ飛ばされる形で入っていく。これが俺の物語の幕開けだった。