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私がさっきの大男を打ち負かしたのを見て怖気づいたのかあからさまに士気が下がったのがわかる。
本当に性根からの臆病者ですね。
「来ないならこちらから行きます。」
私は軍団の中に突っ込んでいき、一人二人と切り伏せていく、どんなに反撃してきてもそんな速さじゃあ私をとらえることはできません。
いつしか私の周りには大小さまざまな武器の残骸と、気絶した人々。
まさに死屍累々と言ったところです。
「それにしても守りが多すぎますね。さっさと周りを片付けてあそこで大魔法打とうとしている連中を片付けようと思ったのですが。」
私はまたも威勢の良い掛け声とともに直進してきた男の攻撃をかわして打ち落とし、ひとりごちる。
しかしその瞬間、砂埃に紛れて影が一つ私に肉薄する。私はその影の攻撃を刀の刃で受ける。
ガキン、という刃同士のぶつかる音が響いたかと思うとその陰の正体は回転しながら後方に着地する。
「いやあ、さすがに強いねえ。完全に虚を突いたはずだったんだけどなぁ。」
口を包帯で覆った小柄な男はへへへと薄ら笑いを述べて臨戦態勢を解く。
「今日に限れば一番いい攻撃でした。名を聞きましょう。」
「ほー、俺の名を聞くかい?俺の名前は蜥蜴。少しは聞いたことがあるだろう?」
蜥蜴と名乗る男はサーカスのピエロがするようにおどけて挨拶をする。
蜥蜴といえば、最近有名な暗殺者じゃあなかったでしょうか。
なるほど、先ほどの天狗の彼も悪くわなかったですがこの人はさらにできそうです。
有名な暗殺者の名は伊達じゃあないようですね。
「その蜥蜴が何の用なのでしょう。誰かに雇われでもしましたか?」
「まあそれも一つの理由だが、もう一つは名を上げるためさ。
聞いた話じゃあここには傭兵二大組合の“噛み切り鬼”と“切り裂き天狗”の次期頭領候補がそろい踏みって聞くじゃありませんか。
なら刈らない手はないでしょう?この世界で名をとどろかせるためには。」
蜥蜴はにやにや笑いながらそう説明した。
まあ傭兵、暗殺者にとって成り上がる一番手っ取り早い方法はビッグネームの殺害ですからね。まっとうな考えです。
「だからさぁ、死んでくれよ。もう武器はねえんだし、おとなしく首を差し出してくださいや」
蜥蜴が私の刀を指さす。右手に握られている刀を見ると刀は刃が徐々に崩れていって見る影もなくなっていた。
「なるほど、これがあなたの能力ですか。」
「いや、これはこの刀の呪いさ。
“腐海刀”この刀を作った刀鍛冶は日の目を見ることなく死んだらしくてなその恨みがこの刀に宿って相対した刀を使い物にならなくさせちまうのさ。
そんな風にな。」
蜥蜴はニヤケ面で私の刀を指さす。
なるほど“妖刀”の類ですか。私が持っていないタイプのものですね。
私は使えなくなった刀を放り投げて念のため蜥蜴にくぎを刺しておく。
「武器が使えなくなったからって勝負が決したとは思わないことです、ね。」
私は新たな刀を構えてトカゲに肉薄する。
「ち、もう一本あったか。でもそんな突っ込んできても無駄だ。また終わらせてやるよ」
私の一太刀目を自身の刀で受けた蜥蜴。するとまた私の刀はボロボロに崩れていく。
なるほど、強度や鉄の純度によって崩壊にかかる時間が変わるわけではないようですね。
刀という“モノ”自体に作用しているようです。
私ははあ、とため息をついて使えなくなった刀を捨てる。
「本当に、面倒な相手です。」
私はまたも蜥蜴に疾駆する、その手にはまだ何も握られていない。
「馬鹿が、血迷ったようだな!」
蜥蜴はきゃはははと下品な笑い声を響かせ私に向かって凶刃を振り下ろそうとする。
しかし、その刃を私は左手に現れた刀で受け止める。
「な、さっきまで刀なんて持ってなか……」
「はい、いま転移しました。」
驚く蜥蜴に私は左手に出した小刀を差そうとするが蜥蜴は間一髪のところで私の刀を体をひねって回避する。
そして距離をとる蜥蜴に対して私は両手の刀を投げて牽制し、その間に私は距離を詰める。
「くっ」
蜥蜴が焦って刀を構えた瞬間、私はまたも両手に持った刀で蜥蜴に切りかかる。それを間一髪で受けられ、私は両手の刀を捨て、新たな刀二本で切りかかる。
とうとう捌ききれずに蜥蜴の胸にバツ印の刀傷がでかでかと刻まれるが斬られるタイミングで後ろに体をそらせていたので手ごたえがない
「なかなかの実力者であるあなたに敬意を表して教えておいてあげましょう。
私のこの刀も妖刀、“標準オール・刀スタンダード”という業物でしてね。
この刀はオリジナルを破壊しない限り無限にオリジナル以下のクオリティーの刀を生成する妖刀なのですが。
オリジナルは私がよく使う空間にしまってあるので破壊することは不可能となります。」
私がそういうと自身の妖刀と私の妖刀の相性の悪さを悟ったのか、蜥蜴は苦虫を噛み潰したような顔する。
まあ、これでチェックメイトですね。あとは白人様に任せておきましょう。




