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目を覚まして最初に見たものは知らない天井だった。
またこの天井だ、ということもなくやけに高い天井を見ながら俺は寝る前の記憶をたどってみる。
たしかエキドナさんに会って悪魔の血を飲んだら頭がふわーってしてその浮遊感と幸せな気持ちのまま眠ってしまったんだった。
俺はいまだにだるく重い頭を無理やり起こしてベットから立つ。
うん、服装はそのまま。
本当にそのまま寝たからか、体が汗で少しべたついて気持ち悪いなぁ。
そのままドアまで移動してドアを開けるとそこは見覚えのある中央に長い机の置かれた部屋だった。
そしてこれも昨日通り、真ん中の大きな椅子にエキドナさんが座って、
両サイドに均等に並べられた椅子の一つに小夜さんが座っていて、二人は食事をとっていた。
「お、よく寝ていたね。もうすっかりお昼だよ。」
「本当に、のんきなものですね。」
食事をとっていたエキドナさんは俺が来たことに気付くとその手をいったん止めてこちらを見る。
小夜さんはというとこちらを見もせずにステーキを切っては口に運んでいる。その横には大量の食べ終わった後であろう皿が。
この人あんないっぱい食って食ったもんどこに行くのだろうか。
ああ、胸か。
「起きたてだけど何か食べる?今日のメニューはステーキと少しへヴィーだけれど」
「いや、あんまりおなかすいてないんで大丈夫です。」
俺が断ると、成長期なんだからちゃんと食べなとエキドナさんは小夜さんの対面の席にふわりふわりと空飛ぶ食器を着地させて、
スープくらい飲めるでしょ。と断れる状況ではなくなったので俺はスープのおかれた席に座る。
「さて、君をそのスープと同じような感じに昨日ベットに移動させている最中ににね。もっと詳しく君の体を見てみたのだけれど。
うん、結論から言おう。
君は防御面に関してだけでなく、免疫、適応力、身体能力面すべてにおいて常人をはるかに超えている。
おそらく普通の人間と同じように暮らしていたなら、君は最長寿の人間となっていただろうね。」
エキドナさんはまあその機会はもう失われたんだけどねと笑う。
笑い事じゃねえよ。
「君の記憶を見せてもらったけど、ずぶの素人が人を思いっきりぶん殴ってあんなにぶっ飛ぶわけがないんだよ。
ね、小夜ちゃん」
「はい。大体半年は修業しないと人を殴って吹っ飛ばすことはできません。」
エキドナさんの質問に小夜さんが無表情ながらどこか誇らしく答える。
なんて物騒な解説なんだろうか。
「そこで当初の申し出通り、私の魔法を君に教える
その前にだ。
君はどんな痛み、要は反動、副作用に耐えうるだけの天性の体をもって生まれた、というと微妙なところだけど、とりあえず君の体ならあらゆる痛みに耐えることができる。」
エキドナさんは目をキラキラと輝かせて、にやりと笑う。
エキドナさんみたいな美人なお姉さんに微笑みかけられるのは男冥利に尽きることだけど今回ばっかりは冷や汗が止まらない。
「つまり……?」
「うん、君の体をね。私の黒魔法と開発した数々の薬剤で開発……おほん、改造してあげようと思ってね。」
「いや、フォローになってない!!???小夜さん何とかしてください!!!俺が死んだら、小夜さんお姉さんと戦う機会が!!!!」
じりじりと席を立って歩み寄ってくるエキドナさんから逃れるために、俺は目の前に座る小夜さんを見る。
が、しかし。
「昨日私も白人様のステータスを見たのですが、正直どうすればあなたを殺すことができるのか見当が付きませんでした。
老衰以外で。
だからですね、安心して逝って、いや、行ってください。
最初のころに言ってたではないですか。
楽に強くなる方法はないかーって。
これがあなたが望んだ答えです。」
俺を完全に突き放した小夜さんを涙目で見ていると、俺の肩ががしりとつかまれる。
ゆっくり振り向くと。
「だーいじょうぶ、普通の者が死んだり、廃人になったりするものが君にとっては少し痛いか、つらいかってくらいだ。
じゃあ、普通の人間が即死するぐらいのだと君にとってはいたーいって感じでしょ?
大丈夫、痛みは人を成長させるよ?」
エキドナさんのかわいいウインクの後、俺の決死のもがきも虚しくエキドナさんに引きずられて、俺がもと来たドアとはまた違う数あるドアの一つに連行される。
俺の裏切り者という叫びを聞きながら小夜さんは最後の肉を口に入れていた。
あの、大食い暴力女絶対許さないからなーーーーーーーーーー




