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 「しかし、あのバカ姉あろうことか前一位を裏切り、現一位の神かみ垂だれ叉さ昼ひるに契約を乗り換えました。我々“咬み切り鬼”の掟に、“主君への裏切り”はご法度というものがあります。




現当主である父親は年齢制限で雇われることができませんので、私があのバカ姉を打ち取るためにここに来たのです。」




小夜さんはいつになく多くの事を語った。しかし、そこでおれはあることに気が付く。あれれー、おかしいなあ。




 「あー、なるほど身内の不始末を清算しに来たわけですね。でもそれだと俺がその一位と戦うことになるんですが??」




俺は小夜さんの話を最後まで聞いて、至極まっとうな質問をする。え、だっておかしいよね?




「そうなりますね、でも安心してください。たとえあなたが殺されても私は姉を打ち取れば試合に負けても満足なので。」





「いやいやおかしいだろ!俺殺されるの前提じゃねえか!!???いや、ちょっと待てよ、俺の耐久なら殺されずににげきれるんじゃ……」




俺がそういうと申し訳なさそうな顔で五月雨が真実を告げる。



「その……現一位の攻撃は“概念攻撃”って言ってね。防御とか全く意味ないんだよね。だから多分普通に一方的に殺されるん……」




五月雨は少し考えて、またも申し訳なさそうに言った。




「やめてー!!この暴力女の口から殺されるとか出てもまだ耐えられるけど五月雨の口から出たら避けられない事実だって実感しちゃうからやめてーーー!!!」




俺は半べそかきながら耳をふさいで机の下に隠れる。いやー、現実が殺しにくるー!!




 「それからね、一つ言っておかないといけないことがあって……そのー、“信仰者”の件なんだけどね。うん、“信仰者”がね、神崎君を狙っているらしいんだよ。」





え?





 「こういうチラシが校内に貼られていてね。」




五月雨が見せてくれたチラシをふんだくるようにして見てみると、そこにはこんなことが書かれていた。





 “神崎白人の先のランキング戦、我々への宣戦布告と受け取った。身分もわきまえず上位の人間に刃向かったことその身で思い知るがいい”




「け、けど、お、俺戦闘手段確立するまでランキング戦で、できないしー」





 「戦闘手段獲得の定義は確か二週間授業を受けること。つまり二週間の授業期間が終われば戦闘手段獲得になりますね。一応白人様授業休んでいることになっていますし。ほら。」





 小夜さんはさっきまで読んでいた授業要項と書かれた漬物つけれそうなほど太い冊子の戦闘手段の欄を開いて渡す。




うん、確かに書いている。




「た、確かⅮクラスは拒否できるだろ?それなら拒否し続ければ……」



 「その場合一生ランキングは上げることはできませんよ。ほらここに。」




 そういうと小夜さんは俺の持っていた要項のあるページを開ける。




そこはⅮクラス処置の欄で、“Ⅾクラス生徒は拒否を行っている間相手の申請が消えるまで他の人間にランキング戦申請をすることができない”と書かれている。




 詰んだ。




どうして俺の人生はこんなにすぐ危機に瀕するのかなぁ。




 「どっかに早く強くなる方法をーーーーーーー!!!!!」



俺が半乱狂で図書室の床を転がりまわっているのを華麗に無視して出した本を本棚に直していく小夜さん。




小夜さん最近無視多いなぁ、いや、最初からか。




 「こら!図書室でなに騒いでるんですか!って……白君じゃないの。」




床に転がりまわる俺を叱りに来たのは司書さんなどではなくスノー先生だった。スノー先生にこんな情けない姿をーーーーー




 「ち、違うんですスノー先生!!これはですねえ、そう、自分の体を使った新しい形のそうじ……」





「楽に強くなる方法をのんきに探していたところ八方ふさがりの状況に絶望して床を絶叫しながら転がっていました。」




 「どうしていっちゃうかなぁーーーーーーー」




小夜さんはスノー先生にありのままを告げる。レットイットゴー。




俺はまたしても絶叫してスノー先生にこっぴどく怒られたのだった。でも怒ってる先生もかわいいのぅ。



 「それで、図書館で騒いで楽に強くなる方法を探していたの?一週間も?」




スノー先生は俺へのお説教を一通り終えると話題を俺が図書館に来た理由に変える。



スノー先生は若干あきれ顔。



俺はしどろもどろになりながら言い訳を試みる。




 「違うんですよ、スノー先生!


いやね、あと一週間じゃないですか、俺がランキング戦デビューするの。



だからですね、その前に何とか戦えるくらいにはなっとかないとなーなんて。」





「Cランク程度になら私一人で勝利することは可能ですけどね。それでもBランクの人たちには私一人、というか足手まといありのハンデではなかなかきついものがありますし。」





 小夜さんは足手まといの部分で俺の事を一瞥する。



Aランクに行くためには俺の戦闘力アップが必須だし、例の信仰者の中にはBランクの奴もいるのだろう。



小夜さんが止められて、俺一人にされたとき戦えないと待っているのは公開処刑。




うん、たしかに足手まといだ。



 「でもねぇ、そんなすぐに強くなる方法なんてあるわけがないわよ?みんな努力に努力を重ねて今の実力があるわけだし。」




「だって、今の状態じゃあ努力もクソもないじゃないですかぁ!魔法も武術も今更じゃ焼け石に水だし。神性Ⅾで能力無いし!!!それに努力は嫌いなんですよーーー」




 俺は今日二度目の現状に対する絶叫を敢行する。うん、我ながら良いスクリームだと思う。




「あのね白君、今の状況が散々なのはわかるけど、努力をすることを拒絶するのはダメ。そういう生徒は決まってある日どこかにふらっと行って、そのまま帰ってこなくなるの。」




「“落第隠し”ですね。それ。」





 先生が拗ねた子供をなだめるように俺に話したかと思うと、その先生の話に五月雨が同調する。





せっかく俺が先生と楽しくおしゃべりしてるのに。





 でもその“落第隠し”ってのはいったい何なのか。俺の興味はそちらに向いた。





「なあその、“落第隠し”ってのは?」





「うん、あのね生徒たちの間では有名な話なんだけどさ、この学校の塔を出て少し行った先に一つの館が見えるんだ。



それはどこから出てもどの方向に歩いて行ってもいつの間にか目の前にあるらしいんだ。条件は一つ、力を切に願うこと。



そうしてついた館には鬼、だか悪魔だかが住んでいて、力を授けてくれるんだけど。



その力は強すぎて、みんな耐えきれずに廃人になったり、ひどい場合は死んでしまったりするらしいんだ。」





「眉唾ですね。廃人になったり、死人になるのにどうしてここまで帰ってこれるのですか、その館から。そしてそんな状態なのにどうして力を授けてなどわかるのでしょう。」





 俺の代わりに小夜さんがもっともな質問する。でも小夜さん、こういうオカルティックな話にそういう現実的な話は興ざめってもんだぜ。





「それがね、置かれているのよ、ある日その生徒が学校の前に。



教員側もおかしいと思っていろいろ調べてみたんだけどね、今まで被害にあった生徒は11人。





その全員の魔力数値が失踪前の非にならないほど上昇していて、それが原因で精神に異常をきたしていたり、体が耐えきれずに命を落としていたりだったの。




私たちもその館に向かおうとしたんだけどね、どうしてもたどりつけないの。うん、だから教員側の対策としてはそこに行かないように注意を促すっていうことにしてるの。」





「それでも、どうしてたどり着く条件が力を求めることなのかが広まったのかがわかりませんが、ふむ、面白い話ですね。」



 小夜さんは冷静にこの噂の矛盾点をつくが今までの小夜さんらしからぬ興味の持ち方だ。俺はというと今のスノー先生と五月雨の話を聞いてある一つの案が思い至った。

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