月の導き7
突然、首が落ちる
そんな謎の死に方で盗賊団は壊滅しつつあった。無論、ミツキの仕業である。
初めは、認識阻害で悠々と近づき、首を落として、幻術に切り替え、その場を脱出、少し離れるとまた認識阻害。とその繰り返しをただ行うだけ。ミツキには、それで十分だった。
なぜ、二つを取っ替え引っ替えしなければいけないかは、先ほど述べたそれぞれの特徴ゆえだ。
人の死は、少なからず、というか、かなり注目を集める。その場にいると、認識阻害をしていたとしても防げるものではない。
かといって、幻術では、呼吸、足音などの通称《気配》というもので居場所がばれてしまう。これは、達人になればなるほど顕著であるが、逆に認識阻害を用いれば、不意打ちに加え、動揺も誘えるというおまけ付き。使いこなせれば、とても心強い二つだ。
そのせいで、盗賊団は、続々とその数を減らしていった。
ミツキは、ある部屋の前に建っていた。まわりの警戒はしていない、というか、必要ないのだ。すでに、ここにいるであろう親玉を残して他に生存者はいない。真っ先に救出した女の子達はすでに、洞窟の前に落としておいた。
ただ一人、そうただ一人、今ミツキの隣にいる少年の姉を除いて、すべて助け終わったのだ。先ほど調べたところ、
姉は既に手遅れだったのでとっておいたのである。少年には、内緒である。
「覚悟はいいか、少年」
うん、とうなずいた少年の手には、ミツキがテキトーに買った短剣が握られている。ここで言う覚悟は、つまりは、そういう覚悟だ。
少年を一瞥すると、扉にてをかけ、勢いよく開けた。そこには、ポカンとした汚い顔と生気を失い精気まみれの少女立ったものが一つ。
少年からは、資格になるように立つ。少年には既に助けたと言ってあるからここでばれるわけにはいかないのだ。
「な、なんな『黙れ、動くな』……」
騒ぎそうだったので早々に動きを止める。そして、お前の出番だ、と目で促す。復讐の始まり
な、なんなんだこの状況は
せっかく女でスッキリしていたのに、いきなり現れたガキに何かされた……のか、とりあえず体が動かねぇ、声もでねぇ
お、おい、ガキ。てめぇなんで、ドスなんてもってんだよ。く、くそっ動かねぇ、体さえ動けばこんなガキっ、くそっくそがぁぁぁ!!
僕は、初めて人を殺した。
やる前は、殺ったらスッキリすると思っていた、けど、全然そんなことはなかった。おねぇちゃんをおねぇちゃんを、ぼくのおねぇちゃんをよくも。そのくせ、一回で死んじゃうなんて。あーあ、心臓はやめとけばよかった。いや、まだ、からだがあるじゃん、くふふふふふ、あはははははは
二人に何かしらのドラマがあり、それぞれが終わった頃、少年が壊れて死体を壊し尽くしているのをみて、このまましばらくは収まらないなと勝手に結論付けると、後ろに振り返った。
そこにあるのは一つの死体。
そして、今回の依頼は、コレの救出である。あんな風に啖呵を切ってきた以上、「救出目標が死んでました」なんて無様な結果は見せられない
「久しぶりにやるか」
そう、ひとりごちると、呪力を溜める。いつもなら、練ってそのまま使っている呪力を、体に留めながら、循環させるように、増幅させながら、もともと莫大な量がある、ミツキの呪力が、洗練されさらに、恐ろしいものへとその姿を変えていく。
理には、程度がある。それに付随して、理をねじ曲げるにも、その理によって、必要な力は様々だ。大魔法には、大量のMPが必要なように、地球から出るためには、秒速7㎞が必要なように、理の規模が大きくなるのに比例して必要な呪力も多くなる。
『黙れ』
といって、黙らせるのは少し
『動くな』
といって、動きを止めるのには、それよりはちょっと多く必要
記憶を失わさせるには、さらにもうちょっと多く、違う記憶を定着させるにはもっと。
………………じゃあ、
死者を甦らせるには?
それは不可能だ。人間が手を出せる領域出はないし、出していい領域でもない。死んだ人間は生き返らない、そんなのは当たり前のことで、必然の《理》だ。
でも、それでも、
羽柴満月の辞書に不可能は無かった。
ありがとうございます