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ヴィクター(1)

お久しぶりです。非常に短いです、すみません。


 氷の王と噂されるハーフェン王国国王、ヴィクター=アシュフォードの執務室。そこには吸血鬼のような容姿の美青年と、不遜な態度で彼と対峙する男。男はまだ17,8歳ほどのあどけなさを残していながらも、かの吸血鬼王を前にこう宣う。


「最近、すっごい面白いおもちゃ見つけたんだよねぇ。ヴィーも見てみたくない?」




 父にも母にもそのどちらの血筋にも現れていない銀髪に、血のように赤い瞳。俺が生まれたときはそれは大変な騒ぎだったらしい。呪われた赤子だ、吸血鬼だと。しまいには母の不義が疑われる始末。まぁ、あの両親に限ってありえない話だが。母を吊し上げようとした貴族たちは失脚したし、俺を殺すように進言した宰相はその職を追われた。このような容姿でも全く動じない両親であったことは幸いだった。

 ただ、俺の異常さは容姿だけではなかった。魔力量は5歳の時に王国一になってしまった。それでも魔力を扱う術などは身についておらず、教育係として22年前にどこからかやってきた超人的な男は、あの頃の見た目のまま今も目の前にいる。

「ねぇ見てみたいでしょ? きっとヴィーも気に入るよ」

 俺のことをヴィーと呼ぶこの男は、どこからどう見ても17,8の少年にしか見えないが、現在王国騎士団の副隊長である。

「超間抜けで可愛くてさぁ」

「仕事をしろ、サイアス」

 年齢不詳のこの男は、おそらくこの国の誰よりも強い。俺も剣や魔術はそこら辺の騎士や魔術師よりも強いし、何なら騎士隊長のヒューイとタメを張るくらいだ。しかし、サイアスに至ってはもはや争えるレベルではない。この男こそ俺なんかよりよっぽど「化け物」なのだ。

 そうして何よりこの男、究極の自由人なのである。俺の教育係を終えてからは、城に残って勝手に騎士団に入隊するし、いつの間にか副隊長になっている始末。もう誰にも止められはしないのだ。

「仕事ー? 仕事ならしてるじゃない、退屈な国王陛下の話し相手」

「俺は退屈などしていない。むしろ仕事に追われて過労死しそうなのだが」

「息抜きも必要だよ? 何ならヴィーが過労死しないように俺がいるみたいなものだし」

「いや、お前のせいでこの状況なんだ。自覚してくれ」

 俺の苦言も軽くスルーしたサイアスは、執務室の窓から中庭に目をやる。

 中庭には若い騎士とヒューイが子猫と戯れている。

「ヒューイは猫嫌いではなかったか」

「あぁ、あの子相手なら大丈夫だよ。それよりほら、あの猫をよく見てごらんよ」

 楽しそうに目を細めるサイアス。この顔をするときは碌なことが起きない。

「べつに、普通の猫じゃ……」

 ちょろちょろと動き回る小さな子猫にじっと目を凝らす。

 あれは、もしや……!

「俺と、同じ――?」

 銀色の毛並みに真っ赤な瞳。その呪われた色は人間に限らず、全ての種族において現れるはずのない色。

「そう。びっくりでしょー? 騎士団で飼うことになったから。あ、名前はミラね」

 何故、あの色が。俺だけではなかったのか。

「どこにいたんだ?」

「路地裏で死にかけていたところをうちの若いのが拾ってきたんだよ。いやぁ、いい拾いものだったよねぇ」

 死にかけていた。それはそうだろう、あの色では。俺が幸運だっただけで、あの猫は捨てられ虐げられてきたのだろう。その色を持って生まれただけで。

「そうか。ちゃんと世話しろよ」

 この城の中なら迫害されることもあるまい。俺の見てくれにも動じないやつらばかりだ。

「もちろん、当番制でシフトもちゃんと組んであるよ。ほら」

 机の上に差し出されたシフト表には、騎士団の連中に交ざって俺の名前が。

「おい、なんで俺の名前が」

「だってほら、最近のヴィーお疲れじゃん。アニマルセラピーだよ」

 なにを企んでいるんだサイアスは。

「あ、ヴィーの当番早速明日だから。ガンバ!」

「おい、待てサイアス!」

 俺の制止も空しくサイアスは執務室を後にした。


 

 そうして翌日、シフト通り執務室にやってきたのは銀髪赤眼の子猫だった。

 

  

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