02
あの日はなんてことのない普通の日だった。
大学に行って普通に帰るハズだった。
しかし、そんな隼人の日常は思ったよりもあっさりと崩れ去ってしまった。
「眠い...。」
大学が終わり、真っ直ぐに家へと向かう隼人の耳に悲鳴のような声が聞こえた。
今思えばここで気のせいだと割り切って普通に帰っていれば、隼人は一般人としての日常を送れていたのだろう。
しかし、ここで隼人は悲鳴を聞いて、悲鳴の原因、音のする方へと向かってしまった。
言ってしまえば隼人の現在置かれている状況は自業自得と言われても仕方がないものだと言える。
悲鳴へと向かった隼人が見たものは血まみれの女性と銃を持った数人の黒服の男たち、そしてその男たちに今まさに殺されようかという二人の女の子だった。
「何やってんだよ...あんたら...」
正直隼人には今の状況がさっぱりわからない。それでも目の前の女の子2人(どちらも高校生くらいだろうか?)が殺されてしまうことくらいは分かった。
「こいつらの母親はなぁ俺たちから借金をしたんだよ。その取立て期限が過ぎちゃったから、少し痛い目を見てもらうだけだよぉ」
黒服の一人が隼人の疑問に答えるように説明してくれる。
「この世界には死体マニアなんて奇特な奴らもいるから最悪死んだらこの女どもの死体を売りさばけばいい。たったそれだけのことだぜぇ」
先ほど自業自得と言ったが、この時にああそうですかと帰るという選択肢もあったかも知れない。
流石に人殺しの現場を見てしまったのだ。
素直に帰してくれるとは思えないが逃げることは可能だっただろう。
それくらいの距離はあったし、そうするのが正解なのだろう。
しかし、隼人はやはり間違える。どこまでも深い深い闇の底へと足を踏み入れてしまう。
「その借金っていくらですか??」
隼人は言う。
「俺がその子達の借金全部引き受けてやりますよ。だから今すぐその子達からその汚い手を離せよ...」
そのまま一気にまくしたてる!
「借金がなんだ。そんなんで人が死んでいいのか?いいわけ無いだろ!その子達はまだこんなに小さい。子供なんだよ。そんな子達をよってたかってこんな大人どもが囲って、恥ずかしくないのかよ。借金?あぁ、確かに悪いよ!でもどうせお前らの貸した金なんて正当な手続きなんてこれっぽっちも踏んでないんだろ?だからこんな真似ができるんだ。誰かを殺したり、そんな平気で人を傷つけるような真似ができるんだよ!そんな奴らが借金の取立てだぁっ!!ふざけんなっ!その子達の借金が、いくらかなんて俺にはわからない。でもそんなの関係ない!例えとてつもない金だろうと俺が払ってやるよ!この子達だけじゃない。こうしてお前たちに殺されそうになっている人たちの分だって俺が全部引き受けてやりますよ。どうせ俺には失うものなんてないんだからっ!家族がいて必死に生きている人達の助けになれるなら俺なんてどうでもいい。」
隼人は幼い頃にそれこそ借金の果てに両親とも自殺、その他親戚も何もかもが借金の果てに自殺した。
旭の家系は呪いのように借金に縛られ続けていた。そんな江戸時代から続く呪いに終止符を打とうと言ったのが隼人の両親だった。その最早どこに返せばいいか分からない莫大な金を、一族全体の死という過激な手段で一括返済してみせたのだ。
旭の一族はほぼ壊滅したと言っていい。
今旭の一族に残っているのは隼人のような未成年のみと言える。
だから今日この日、隼人はこの状況はやっぱり宿命なのだと思った。
俺はやはり借金地獄という呪いに縛られ続けるのだと。
それでもいいと隼人は思った。一族に昔から伝わる呪いを断ち切る手段。
『借金の完全返済』
それを俺がやってやる。
集団自殺のように踏み倒すのではなく、完全に返済しきってやる。
隼人のそんな決断を知ってか知らずか空から声がした。
「よく言った!!少年!!!」
隼人の目の前に何かが降ってきた。
それは、マシンガンやダイナマイト、様々な武装が施された赤髪の女の子と同じように、いや、それ以上に完全武装している眼鏡の男だった。
女の子の方が隼人に向けて一緒に降ってきたコンテナを蹴りとばす。
「その中には君が今必要になるであろう金が入っている。君、私たちから借金しなよ。そこの奴らから借り直すよりは全然待遇はマシなつもりだから。」
そう言って女の子は笑う。
「無利子無期限。その代わりわたし達の会社に入社すること。ねっ?なかなかいい条件でしょ♡」
この瞬間、隼人の日常は音を立てて崩れさったのだ。