prologue 2
家は木造のつくりらしくリビングには6人の男女が集まっていた。
俺は5人用のテーブルに座っており、隣にはレウスが座っている。
正面には茶髪の女性と金髪の女性が座っており、暖炉の前にある椅子に本を読んでいる少女、そしてキッチンらしき場所でトカゲ人間がお茶を用意していた。
「えっと・・・あの・・・」
「まぁ、お前の言いたいこともわかる。聞けば異世界人らしいではないか?」
口を開いたのは正面に座る茶髪の女性であった。
「その異世界人ってのはどういうことなんですか? ここは地球じゃないんですか?」
「ここはスカイオールという世界だ。そちらの世界・・・えっと、地球だったかな? そこには異世界人は来たりしていないのかな?」
俺の疑問に至極末等というかのように答える女の人は真面目そうで嘘をついてるように感じなかった。
「んじゃ・・・本当に異世界なんですか・・・」
「ということはそちらの世界とだいぶ違うようだな?」
「おそらく・・・そうだと思います」
「どのように違うのかな?」
「そう言われましても最初は言語もわからずに、攫われて牢屋に閉じ込められたんで・・・あっ、そう言えば言語が通じるようになっているんですけど日本語がわかるんですか?」
「日本語? それが君の使う言語なのかな? 君にはそこで本を読んでるマリーの魔術で言語を統一しているから話が通じるのだと思うが・・・」
・・・魔術? なら本当に魔術があるということなのだろうか? さっきレイアに聞いたときも魔術って言ってたよな?
「えっと、魔術なんてあるんですか? 自分の国では魔術ってのはおとぎ話の世界でしかなかったんですが?」
「そうなのか、君には大量の魔力があるからてっきり存在しているものだと思ったのだが・・・」
本当に魔術なんかあるのか?しかも俺って魔力があったの!?
まぁ、気になるところだが今は話を進めよう。
「えっと、出来れば簡単なもので良いので証拠を見せてもらっても良いですか?」
「わかった」
茶髪の女性は頷いてから右手の指から火の玉を出す。
その熱風は近くにいる俺にまで感じられる。どうやら嘘じゃないらしい。
「すみません・・・正直いま気が動転しています」
「そうだろうな、顔が青ざめている」
「・・・いや、冷静に言われましても」
「とりあえず決めておきたいのは君をオークションで落札した理由だ」
「えっと、バビーさんでしたっけ? バビーさんが落札したってのはわかっているんですけど・・・やっぱり奴隷とかにされるんですか?」
するとトカゲ人間ことバビーさんが人数分のお茶を配り始めた
「いいや、奴隷にするつもりはないよ?」
バビーさんは優しい口調で答えながら手際良くお茶を配る
「あぁ、私たちは君にお願いがあるのだ」
「お願い?」
「まずギルドという言葉に覚えはあるのかな?」
「えっと、チームみたいなものですか?」
「まぁ、そんな感じだろう。 我々は人助けを生業としたチームみたいなものなんだよ」
「・・・人助けですか?」
「あぁ、この世界には魔物と呼ばれる異形のバケモノや山賊など弱き物が簡単に虐げられることが当たり前なんだ。私たちはそれが許せないんだよ」
「・・・魔物?」
今の言葉が本当なら俺はそんな世界で帰る方法を探さなくてはならないのだろうか?
「そこで君が望むなら私たちの弟子にならないかい?」
「弟子?」
「あぁ、私たちは才能のある弟子を求めていたんだ。君はおそらくレイアと同じ5歳ぐらいだろう? レイアも私たちの弟子なんだが競い合う人間がいたほうが人は成長するというものだ。レイアが修行する5年間だけでも私たちの弟子にならないかい? 勿論、嫌ならこのまま解放するつもりだがそれはあまりオススメしない」
「自分が弟子ですか?」
「あぁ、君には才能がある。弟子になるなら語学やこの世界の知識も教えるし衣食住も保証しよう」
「それは・・・自分にとってはありがたいですが、自分はオークションで買われたんですよ? それで良いんですか?」
「べつに構いやしない」
「なら・・・お願いします」
こんな上手い話があってもいいのだろうか?
まぁ、知らないところに放り出されるよりかはマシだ。
それに俺の取り柄はどんなとこでも環境に適応できることだ。
昔は色んな親戚にたらい回しにされてた経験がここで役に立つとは思わなかったぜ
「では、自己紹介をしよう。私の名前はジェラルドだ」
先程までずっと喋っていた茶髪の女性が右手を差し出す。
「自分の名前は黒瀬 迅って言います。こんな見た目ですが年齢は19歳です」
「19歳? どう見ても子供にしか見えないが・・・」
「それがこの世界・・・えっとスカイオールでしたっけ? に来てから身体が子供になったみたいなんですよね?」
「ふーん、それは面白いわね」
会話に入ってきたのは先程まで本を読んでいた少女だった。
「あっ、私の名前はマリーよ? あなたがこうやって私たちと話せてるのはこの天才魔術師マリー様のおかげって訳よ。つまり敬いなさい」
「あっ、はい!」
俺は目の前で腕を組みながらドヤ顔するマリーさんに押される。
「別にマリーのことは敬う必要はないぞ」
「ちょっとジェラルド! 何言ってんのよ! この家の上下関係をしっかりとこのガキにわからせないとダメじゃない!」
「まぁ、この通りマリーは若干めんどくさい女だが君に魔術を教える講師だ。それなりに敬ってやってくれ」
「それなりってなによ! めんどくさいってなによ! ってかこのガキに私が魔法を教えるですって? 嫌よ、めんどくさい!」
「これはギルド全員で決めた取り組みだ。異論は認めない」
「なによ! バビーが勝手に決めたことじゃない!! ってか一匹子供拾ってきたらまた拾ってきて! うちは孤児院じゃないっつーの! まぁ、ガキ一匹増えるのはいいけど私が認めない限り魔術は教えないからね!!」
「それについては申し訳ないです。ごめんね、マリーちゃん」
バビーはトカゲの頭を下に垂れて落ち込んでいる様子であった。
以外に彼は優しいのかもしれない
「気にするなバビー」
何やら三人が言い合いを始め、俺は救いを求めるようにレイアのほうを見るとレイアはゲラゲラと笑っているだけだった。
「あっ、これはいつものことだから気にすんな! マリーねーちゃんは単純だからちょっと耳貸しな!」
俺は言われるが侭に耳を貸す
「えっと・・・これで本当に機嫌が治るのか?」
「あぁ、大丈夫! 絶対に効果覿面だからやってみな!」
本当にこれで大丈夫なのだろうか?
「だいたいアンタたちのせいで私の仕事が増えるのが気に食わないのよ!! 私はアンタたち脳筋と違って魔術の研究もあるの!!」
「あのぉ・・・自分、偉大なる魔術師であるマリー先生に魔術を教えて頂けると嬉しいです」
「なっ・・・えっ・・・うっ、しっ・・・仕方ないわね! そこまで言うなら考えてあげなくもないわ! あんた、ガキのくせに魔力量も多いし魔力の質も高いから基礎だけなら教えてあげなくもないわよ!!」
うわっ、本当に先生って言うだけでええのかよ。チョロッ!!
「ごめんねマリーちゃん。ありがとう」
バビーさんが更に申し訳なさそうに言う。
あっ、もしかすると。いや、もしかしなくてもバビーさんめっちゃええ人だ。
「なっ、言ったろ? マリー姉ちゃんは単純なんだよ」
横で笑いながらレイアが囁く
なるほど。
確かに病的に単純である。色々とちょろくて残念な人なのだろう。
「あの・・・そろそろ私の自己紹介もしてよろしいですか?」
「あっ・・・」×3
恐る恐る手を挙げたのはジェラルドの横に座っていたブロンドの女性であった。
どうやら他の三人はすっかり存在を忘れていたみたいだ。確かに彼女は影が薄い気がする。俺はここで生活してて大丈夫なのだろうか?
「すっ、すまんアリシア」
「いいえ、慣れているんで別に大丈夫です・・・はい」
「ごめんって、アリシア! そんなにショゲないでよ!!」
「ウッ・・・私はアリシア・ドラゴネスと申します。 以後お見知りおきを・・・まぁ、どうせすぐに忘れられちゃうんですけどね」
「えっと・・・忘れないように頑張ります。よろしくです」
「ボクはバビーって言います。先も言ったけどリザードマンという種族なんだ。この家で家事とか炊事を担当しているから何か欲しいモノがあったらボクに言ってね?」
「あっ、さっきはバケモノとか言ってすみませんでした。自分の世界にはアナタみたいな人がいなかったんで・・・」
「あっ、亜人はいなかったんだね?」
「亜人?」
「うん、この世界には人族以外にも色んな亜人と呼ばれる種族がいるんだ。マリーちゃんも亜人だよ。マリーちゃんは耳が長いでしょ? マリーちゃんはハイエルフと呼ばれる亜人なんだよ!」
マリーを見てみると確かに長い白髪から少しだけ耳が飛び出ている。
「あとこの家にはもう二人いるんだけど、二人はいま買い出しに行ってるんだ。明日には帰ってくると思うけど・・・因みにその一人も獣人って呼ばれる亜人だよ。皆いい人だから仲良くやってね?」
「わかりました!」
「あっ、ってかこのガキこのままの名前でいいの? 異世界人なんて貴重な存在なんだから王国騎士団に捕まって実験材料にされるとかあるかもよ?」
マリーが思い出したように手を打ちながら言う。
「えっ!?・・・そういうの本当にあるんですか? ってか、なんで俺が異世界人ってわかるんですか? なんか違いとかあるんですか? ってかこの世界に異世界人はいるんですか!?」
「五月蝿いわねっ!! そんなに一気に質問してこないでよ! 私が知ってる限りは50年に一度ぐらいの確率で異世界人がこの世界にくるのよ。 その時に辺り一面が青白い光に包まれるの。その光の中にあんたみたいな特殊な服装して、この世界では珍しい黒髪で黒目の少年が倒れていたら馬鹿でもすぐに異世界人ってわかるわよ。 異世界人は総じて魔力量が多いし未知の文明を理解しているから恩恵はデカイのよ。だから王国は囲いたいし研究者や魔術師は解剖とかもしたいわけ!」
「確かに、ジンくんがオークションにかけられるまえに変な器に入った飲み物が証拠品で見せられたよ?」
「変な器の飲み物? あの時持ってたのは・・・コンビニで買った炭酸飲料だから・・・なるほど。それで異世界人だってバレたのか・・・」
「まぁ、とりあえず服装は変えれるとして名前は変えたほうがイイわよ? それならタダの珍しい容姿したガキになれるから」
「まぁ、名前は正直どうでもいいんで変えれます」
「あっ、んじゃ!俺が決める!絶対に決める!!」
勢い良く手を挙げたのはレイアだった。
「変なのじゃなければ何でもいいぞ?」
「んじゃ、レウス! おとぎ話に出てくる二頭の龍の名前がレウスとレイアっていうんだ! だから俺とお揃いだ!!」
「レウスか・・・いい名前だな。気に入ったわ! よろしくなレイア!」
こうして俺は異世界で新しい名前と居場所を手に入れた。
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