この世界
展開は速めですが、しっかりと構成して書きました。
是非読んでください。
01
「ねえ、知ってる? 」
噂。都市伝説。夕暮れの教室で語り合う女子生徒。
「毎年、卒業式の日、卒業生が死ぬって話。」
「え、なにその噂。やけに具体的じゃない。」
学校七不思議などの街談巷説の醍醐味は、その曖昧さである。
曖昧であるが故に、人は空想で補い、恐怖を増し、語り継いでいくのだ。また、怪談話は具体的であってはならない。なぜなら話が明確になることで、それが真実味を帯びてしまうからだ。真実味を帯びた噂は、それがほんの少し現実と異なった時点ですぐに廃れてしまう。話が広がることが目的の怪談にとってこれは致命的なことだ。
だから話を聞いた女子生徒は、こう言った。
「そこまで具体的な話になっているってことは、それなりの根拠があるの? 」
「あれ、あんた知らないの、去年本校の生徒がバイクの事故で亡くなったって。」
基本十六歳を越えていたとしても、ほとんどの県で高校生がバイクの免許証を取るのは条例によって禁止されている。
しかしその生徒は推薦で大学が決まっており、空いた期間を利用し秘密裏に免許を取っていたのだ。
そして卒業式の日、それが終わった後に事故を起こし死亡。スピードを出しすぎたことによりカーブを曲がりきれず転落をした。
「あ、そういえばその話は聞いたことあったわ。」
「でしょ、それに、一昨年もその前も事故や自殺、さらに行方が分からなくなって数か月後死亡しているのが見つかるっていうケースなどで卒業式を終えた……生徒が亡くなっているんだってさ。」
卒業した生徒を生徒と呼ぶことに多少ためらいを見せつつも彼女は噂の根拠を話し終えた。
「……それは、普通に怖いね。なんでなのかな。」
「それについては本当に何の根拠もない話しか聞いていないけど……」
そう前置きして彼女はいくつか説を述べた。
幽霊説。
「この学校を卒業する直前に亡くなった生徒が、地縛霊になってしまっていて、普通に卒業する人たちが許せないから毎年一人道連れにしているらしいよ。」
生贄説。
「うちの学校って、公立なのにやけに設備良いじゃない。あれは、一年に一人政府かどこかに死体を差し出しているかららしいよ。」
契約説。
「最高の高校生活を送る代わりに三年経ったら命をよこせ、みたいな契約を交わした人が死んでいるって話。」
まともな説がひとつもない、と話を聞いている女子生徒は思った。
「まあ、私は偶然でしょ、と思っているけどね。」
「そうだろうね。……まあなんにせよ、卒業式の日は死なないように気をつけないとね。」
「まだあと一年半くらいあるけどね。」
実際には受験勉強などが入り最後の一年など矢のごとく過ぎ去ってしまうのだが。
そうまとめて、夕暮れ時の怪談は、語り終えられた。
この都市伝説の真相は誰にもわからない。
しかし一つだけ確実に言えることがある。
―今年も、誰かが死ぬ。
02
「俺、真澄のこと好きかも。」
十七歳高校二年生夏。
藤木悠斗は恋をした。
「ついに悠斗も青春か、やったな。」
「いいんじゃない? 彼女可愛いし。」
好きな人を白状する少年と、それを囃し立てる友人。
今、俺は青春している、と藤木は感じていた。
「え、どこに惚れたの? 」
「性格、ねちねちしてない男らしい性格。」
「それはわかるわ。…噂をすれば悠斗、あれ。」
見上げた先にはちょうど話題に上がっていた藤木の意中の人久米田真澄がいた。
「なんか喋ってこい、ほら行け。」
半ば無理やり背中を押され、彼女の方に歩みを進めると、彼女もまた藤木に気付いたようで、駆け寄ってきた。
「藤木くん、探したわ。」
「え? 久米田さんが? 俺を探してたの、何かあったん。」
「正確に言うと探してたの私じゃないけどな。先生が呼んでた。なんか、結構重めの雰囲気……というか君が何かやらかした感じだったけど、なにしたの。」
数瞬思考する藤木。
「待って、俺なにもした覚えがない……えっと、どこに来いって言ってた? 」
「何もしてないからこそじゃね? 課題とかもどうせしてないんじゃないの…生徒指導室。職員室の横の小っちゃい部屋。」
確かに課題もしていない、と肯定してからお礼を言い、藤木は重い足取りで生徒指導室に向かった。
03
「兄貴、小宮山が呼んでましたぜ。」
兄貴、と呼ばれた少年はゆっくりと振り返った。もっとも彼の風貌を見ると少年などと呼んでいいのか迷うが。
身長は百九十センチに届くかと思われるほどあり、体型もよく筋肉質。オールバックの髪型に髭も生やしており、高校二年生にはとても見えない彼は、まさに兄貴と呼ぶにふさわしい人物だった。
「小宮山が……どこにだ。」
小宮山とは彼、濱村遼太の担任教師である。こちらもまた厳めしい風貌をしており、極道という言葉がぴったりの人物である。
「生徒指導室です。結構深刻そうな感じでしたが兄貴、何かやらかしたんすか。」
ゆっくりと首を振る濱村。
「心当たりは、ない。俺はこんななりだが、犯罪行為はしねえ。」
普段から寡黙な彼はゆっくりと、しかしはっきりと話す。
「そうでしたね、それじゃ、伝えましたんで。」
「おう。」
そして濱村も生徒指導室へと歩みを進めた。
04
「ねえ、どうしよう。」
「どうしたのよ。」
女子数名のひそひそ話。
「小宮山先生にさ、三村さんを生徒指導部に連れてきてくれって頼まれてつい引き受けちゃったの。」
「ええ、なんで断らなかったのよ。」
「あの顔で迫られて断れると思う? 」
厳しいわね、と返答する彼女の目線の先には、一人で本を読んでいる女子生徒、三村那月がいた。
「だからお願い、三村さんに伝えてくれない? 」
「ええ、嫌よ、あんたが引き受けたんでしょ。」
「だって三村さん何考えているかわからないじゃない。いつも一人だし、本読んでいる時もずっと無表情だし。怖いよ。」
「確かに、読書中は気持ち悪いかもしれないけどニヤってしたり目を潤わせたりしてほしいわよね。」
「せめてついてきてくれない。横にいるだけでいいから。」
それなら。としぶしぶ引き受け、二人して三村のもとに向かった。
「ね、ねえ三村さん。」
三村は怠そうに本から顔をあげ、無表情で呟いた。
「なにかしら。」
その声色に少し怯んだ二人だったが、気持ちを入れ直して言葉を紡ぐ。
「あ、のね。小宮山先生が生徒指導室に来いって言っていたから。」
それを聞いても表情を崩さない彼女は了承したという返事の代わりに本を閉じ、教室から出て行った。
取り残される二人。
「…なによあれ。せっかく伝えてあげたのに。」
「まあまあ。あんな子なんだからもうかかわらないでおきましょう。」
あとには読みかけの本だけが残された。
04
なんだこの面子は。
生徒指導室に入り藤木が真っ先に思ったことはこれだった。
いつものように怖い顔をして座っている小宮山先生。
その向かいには椅子が三つ並べられており、そのうち二つは既に埋まっていた。
単純に考えて藤木の席だろう。
問題はその二人だった。
「濱村に……三村か。」
濱村はその風貌からクラスが別の藤木もよく知っていた。三村は一年の時に同じクラスだったからわかった。
「まあ藤木、なんで呼ばれたのか分からないとは思うが、座ってくれ。」
そういわれ、おとなしく席に着く。
「まずお前ら、この学校で広まっている噂、どんな噂聞いたことがある? 」
藤木が席に着いたことを確認してすぐ、小宮山は質問を投げかけた。
「噂…ですか。」
「ああ、なんでもいい。」
必死に思考する藤木。横を見ると、寡黙な濱村に陰気な三村。俺が答えるしかない、と判断したのだろう。
「食堂のコロッケ、三十個に一個がカニクリームコロッケ。」
「……それは聞いたことなかった。ほかにないか? 」
少しの間藤木は考えたが、結局出てこなかった。
「すいません、わからないです。」
と答えたところで手が挙がった。
「去年のバイク事故は、事故じゃない。」
「なっ…」
驚く藤木と無表情な三村、そして納得したような顔の小宮山。
「今日集まってもらったのは、それに関係する話だ。」
「それに関係する…って、あの事故は事故じゃなかったんですか? 」
今から説明するから黙っていろ、という視線を投げかけ、小宮山は語り始めた。
「毎年、卒業式の日、卒業生が死ぬって話は聞いたことあるか。」
首を振る藤木、濱村。そして少しだけ頷いた三村。
「そういう噂がこの高校には流れている。そして、それは本当なんだ。」
毎年卒業生が、死ぬ、だって?
05
「どう誤魔化したところで、事実は変わらないから単刀直入に言う。」
それを聞き何かを察したような顔をする濱村。
「今年は、お前たち三人が死ぬ。」
「え? 」
「詳しいことは俺にもわからないが、この間行った健康診断の結果、お前たち三人が、過去死んでいった卒業生たちと同じウイルスを持っていることが分かった。我々は便宜上『殺人ウイルス』と呼んでいる。」
殺人ウイルス。
その物騒な響きに、死ぬといわれても現実味を感じなかった藤木も少し恐怖を感じた。
「事の発端はまだ俺がここに来る前の話だから知らないが、毎年一人、謎のウイルスを持つ生徒が発見されるんだ。」
それを入学時に持っている生徒はいないという。
この学校で一年と少し生活することで感染するらしく、致死率は今のところ百パーセント。
パニックを起こす可能性があるため、公開はしていないが、日本のとある医療チームが懸命に解明をしようとしているらしい。しかしその成果は上がっておらず、感染が確認された生徒は卒業式の日に何らかの形で死ぬという。いや、何らかの形ではない。
「死ぬときは、全身から血をふきだし、とても苦しんで死ぬそうだ。それが可哀想で可哀想で。だから数年前からこうして事実を述べることにした。去年の生徒はバイク事故ではない。あれは、苦しみたくないから、自殺をしたんだ。」
「いや…嘘、ですよね。」
「申し訳ないが、本当だ。余命宣告などしたくないが、君たち三人の余命は、残り一年と半年。」
急にもうすぐ死ぬといわれて、藤木は頭が真っ白になった。
信じたくない。
「先生。」
か細い声が聞こえた。三村だった。
「例えば今から病院に行って、このことを話したらどうなるのでしょう。医療チームが必死に研究しているとおっしゃいましたが、大病院に行った方が良いのではありませんか。」
「それは、意味がない。」
彼によると、この『殺人ウイルス』は特殊な検査方法でしか発見されず、今研究している医療チーム以外には検出すら不可能だという。
だから正直に話しても、突き返されるだけらしい。
つまり彼ら三人は、もう残り少ない高校生活を過ごすしかない。
「このことは、ほかの人には言わないでほしい。たとえ親でも、親友でも。」
「な、なんでですか。」
「大きな理由としては、パニックを引き起こすからだ。君たちには悪いが、そんな話が世に出回ってしまったらこの高校は廃校となり、きっとここにかかわるすべての人が不幸になってしまう。」
濱村と三村は納得したように頷いた。
「……わかりました。」
藤木もそういい、彼らは生徒指導室を後にした。
「本当に、すまない。」
小宮山は終始頭を下げたままだった。
06
「おお、悠斗、お疲れ。そんなに暗い顔するなよ……何怒られたんだ。」
「ああ、すまん。ちょっと、一人にさせてくれ。」
そういって、彼は友人を振り払い、屋上へと向かった。
この高校の屋上は解放されていないので見落とされがちだが、実はそこに続く階段も一人になれ、涼しい良い場所である。
「本当なのかよ……」
藤木は一人考えた。
「俺の余命が、あと二年もないうえに、それを誰にも相談できないだって…? そんなんでどうやって高校生活を満喫しろって言うんだよ!!」
壁を殴る。
拳が少し裂け、血がにじんだ。その血のにじみすらも、生きている証として今は愛おしい。
「藤木くん。」
拳を見つめていた藤木は、階段の下から声をかけられたことで我に返った。
「あ、く、久米田さん。」
「藤木くんの友達がさ、なんか元気なかったから励ましてやれって言ってきてな。」
あいつら。と藤木は友人たちの顔を思い浮かべた。
「どうしたん、元気ないな。」
「ちょっと、色々あってな。」
「そんな、多少怒られたからって、気にすることないって。死ぬわけじゃないし。」
死ぬんだよ、という言葉を飲み込み、藤木は久米田を見た。
「な、なに? なんかついてる? 」
「いや、久米田さん。」
「改まってどうしたん。」
藤木は息を吸い込んだ。
「あの、さ。くめ…真澄。俺。君のこと好き。」
07
「兄貴、どうしたんすかへこむなんて珍しい。」
「ちょっとな。」
濱村遼太もまた、沈んでいた。
「ま、人間落ち込むことくらいありますよね。兄貴、なんか奢りますよ。食いに行きましょうや。」
それを聞き驚いたような顔をする。
「それだ。」
「は? 」
どうせ死ぬなら、と彼は心で呟きこう言った。
「豪遊しよう。人生一生分くらいこの一年半で遊び倒せばいいんだ。」
裏の世界からお金を借りたとしても、返さなくていい。
俺の保険金だとかなんだとかが下りれば、親にも迷惑をかけなくていいはずだ。
濱村はそう思った。
「ありがとな、食いに行こうぜ。」
08
ずっと死にたいと思っていた。
三村那月は回想する。
小学校の時はこれでも人並みに友達はいたし、楽しく遊んでいた。
でも中学校に入ってから、周りが馬鹿にしか見えなくなってしまった。
バカばっかり。好きな男だとか、テストの点だとか。そんなどうでもいいことにこだわってしょうもないことをして何が楽しいのやら。
そう思っていたら自然と周りには誰もいなくなった。
本当に馬鹿なのは自分だったと気付いたのは高校に入ってからだった。
私は本の世界に逃げた。
本は私を受け入れてくれる。私が拒絶した世界は私を拒んだけれど、私が受け入れた本は、私を認めてくれる。
いろいろな本に出会った。
少年の不審な自殺事件を探っていたら、狂ったその親に狙われていくホラー小説。
最後目で犯人が分からない究極のフーダニット。
魔術や武術が蔓延る世界で推理の力はどこまで通用するのかというエンターテイメント。
そんな世界を上から見下ろす私は、まるで神様にでもなったような気分だった。
本を閉じれば、そこには暗い女がいる。しかしページをめくればそこでは神様になれる。こんな二つの世界を行き来するのに私は疲れた。
死にたかった。
しかし怖かった。
物語の中で人の死というものはとても重く扱われる。実際は、曲がり角を曲がったら即死だとか、あっさりと終ってしまうことも多い人の命だけれど、私の世界ではとても重いものだ。重く、苦しい。
つまり私は逃げていたのだ。現実世界から逃げ、本の世界にも居辛くなり、そんな世界から逃げ出すことさえも逃げ出した。
そんな中、あと一年半で死ぬ、と言われた。
こんなドラマチックな展開、あるだろうか。
私の人生はつまらなく暗いものだったが、最後はまるで小説のようだ。
そうだ、この話を小説にしよう。そして、卒業式の日に自殺して、それを遺書にしよう。
09
「もうすぐ、卒業だね。」
藤木の横を久米田が歩く。
雪が降っていた。
「……そう、だね。」
「いろんなことがあったよ、この三年間。でも悠斗くんと付き合い始めてから余計に楽しくなったわ。」
「ありがとう、そういってもらえるとすごいうれしいよ。」
「びっくりしたけどな、告白されたときは。いやいやシチュエーション考えろって。」
「いろいろ、あるんだよ俺にも。」
二月。二人とも推薦入試で合格を決めたため、受験勉強から解放されていた。
とはいえ、藤木の方は高校のコネだが。
「卒業しても、ずっと一緒にいようね。」
藤木は、言葉に詰まった。
10
「兄貴、最近ここ一年すごい遊んでますけど、金はどっから出ているんすか? 」
濱村は闇金に手を出していた。
満足するまで遊んだため、借金の額は膨大になったが、彼は満喫していた。
タバコも吸い、女も買い、酒も浴びるように飲んでいた。
「気にするな。」
「わかりましたよ、あ、兄貴、雪っすよ。」
二月。雪が降っていた。
「もう俺たちも卒業っすね…」
「ああ、卒業だな。」
この世界から。
濱村は心の中でそう付け足した。
11
あと一か月の辛抱だ。
三村はあの報告を受けてから、ますます人としゃべらなくなった。
もうどうでもよくなってしまっていた。
「もう読みたい本も数冊になったわね。」
かわりに新たな世界に没頭し続けた。
「こっちの方も、あと数日で完成してしまうわね…いよいよやる事がなくなってきたわ。」
そして自分で作りかけていた世界も、完成を迎えつつあった。
小説。
それは彼女の世界であり、希望。
「もしあの世があったら、死んだ文豪たちに会うこととかできるのかしらね。」
12
やっと、この日が来た。
三村那月は、歓喜した。
卒業証書を受け取り、クラスメイトと写真を撮ったりすることもなく、まっすぐ家に帰った。藤木と濱村には、一言だけ自殺する旨を伝えた。
パソコンに向かい、最後の文章をキーボードで打ち、それをプリントアウトする。
ドアの取手にロープをひっかけ、首を入れる。
「さよなら、世界。」
彼女の小説は後に出版され、ベストセラーとなった。
それにより、あの高校が隠していたことが暴かれ、大問題になった。
その小説の最後の一文はこうなっていた。
「そして、私の世界が完成する。」
13
「さて、いよいよ卒業したわけだが、俺はいったいいつ死ぬんだろう。」
濱村は一人暮らしだった。
部屋の真ん中に座り、静かにその時をまっていた。
ドアをたたく音が聞こえる。
開けろ、と罵声が聞こえる。
取り立てに来たのだろう。
しかし濱村は無視をしていた。どうせ自分はもう少しで死ぬのだから。
午後十一時になった。
さすがにこの時間になると外に人はいなくなった。また明日来るらしいがその時はもう俺は死体だろう。
そう思い濱村は目を閉じた。
翌朝彼は取立人の声で目を覚ました。
14
「真澄、俺の家に来てくれ。」
「いいけど、どうしたの改まって。あ、もしかして悠斗くんひとり暮らしをいいことに卒業したからって私に手を出そうと…」
「いいから!」
思わず語尾がきつくなってしまった藤木。
家に着いた。
「真澄。大切な話がある。聞いてくれ。」
ただならぬ雰囲気を感じた久米田は神妙な顔で頷いた。
「俺は、今日死ぬんだ。」
そして藤木はすべて、洗いざらい告白した。
あの日小宮山に言われたこと。急に告白した訳、もうすでに三村が死んだこと。口止めされていたが洗いざらいすべて。
藤木は泣いた。
久米田も号泣した、信じられないと何度も言ったが三村が死んだということを聞き信じるしかなくなった。
「だから真澄、お願いがあるんだ。」
藤木は切り出す。人生最後のお願いを。
「俺を、殺してくれ。死ぬなら君の腕の中がいい。」
それを聞き驚愕と恐怖に顔を歪める久米田真澄。
「そんな…できないよ!」
「大丈夫、僕が全部遺書に書いたから君が捕まることはない。だから頼むよ。」
「そういう意味じゃない!!私は、悠斗くんが死ぬのが嫌なの!」
「お願いだ。君が殺してくれないと、俺は苦しんで死ぬことになる。君が殺してくれたら俺は安らかに死ねるんだ!」
「でも……」
数順のやり取りのあと、久米田が黙った。
藤木は庖丁を差し出す。
「間違っても、後を追おうなんて考えるなよ。」
「……うん。」
「じゃあ、お願い。」
「ゆ、うとくん……好き、大好き。愛してる。これからもずっと。」
「ああ。」
俺もだよ。
15
自殺、他殺、社会的な死。
「今年は、三人とも死にました。」
小宮山はそう報告した。
『信憑性の高い命日を言われると人は死ぬのかどうか』
この高校が毎年やっている実験。
翌年には三村那月の小説によって強制終了させられる実験。
それが、この噂の真実だった。
あなたは、死にますか?
ありがとうございました。
あなたなら、どうしますか。