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1章-1

 僕たち、トゲパッド職人の朝は早い。

 午前4時には起床し、遠く離れた川まで木製の桶を両手に水を汲みに出る。わざわざ太陽すら寝ぼけている時間に水を汲むのにはわけがあった。略奪を繰り返す悪のモヒカン集団も出歩いていないからだ。

 彼らはすべからく夜行性であり、昼夜逆転型のダメ人間だった。活動を始めるのは早くても太陽が登り切った正午過ぎであった。お昼休みをウキウキウォッチングする頃に目覚め初め、サイコロの転がる様を眺めながら徐々に覚醒していく。

 そこから遅い朝食を食べ、歯を磨き、朝シャンをする。

 自慢のモヒカンにポマードを塗りおえた頃にはおやつの時間である。

 というわけで、トゲパッド職人に限らず普通の人は悪のモヒカン集団どもの生活時間を避け、朝早くから働いているのであった。


 午前6時には朝食を済ませ、工房に籠もる。僕はまだ見習いのため、じっと師匠の手元を見つめるばかりだった。師匠の技を少しでも盗もうと瞬きする間すら惜しんで見つめるのだ。その様は同級生の背中に透けたブラジャーの紐を見つめる男子中学生のように真剣そのものだ。

 師匠はトゲパッドについたトゲを一つ一つ入念にチェックする。

 気になるトゲがあったのだろう。その中の一つに、傷がつかないようにあて木を添え、金槌を振り下ろした。

 かまぼこ板の立てる小気味良い音が工房に響き渡った。

 正直、僕には何が違うのかよくわからない。一ミリにも満たない僅かな修正である。

 あまりにもストイックすぎるその姿は、モビルスーツの足の長さをコンマ数ミリの違いで議論するモデラーのようだった。

 更に方向を変え、数度かまぼこ板を打ち付ける。

 しかしまだ気にくわないようだ。師匠の眉間には深い皺が寄せられている。

 これはもう失敗作に違いない。それでも師匠は諦めきれずにかまぼこ板を打ち付けた。

 ムキになり力を入れすぎたのか、トゲは中程から素人目にもわかるほどに歪に曲がった。

 鉄製のトゲがここまで曲がるのだ。よほど力を込めていたのだろう。師匠は金槌を力なく床に降ろすと、曲がったトゲパッドを炉の中に放り込んだ。トゲパッドは赤く溶けた鉄にゆっくりと溶け込んでいく。

「……ふぅ」

 大きく息を吐き出すと師匠のモヒカンが大きく揺れた。

「いいか、トゲパッドの材質は主に四種類ある」

 スランプに陥ってしまった師匠は、気分転換に抗議を始めだした。

 こうなったときの師匠は長い。

 しかも何度も聞いた話なので、僕はすっかり暗記してしまっている。僕は長々と話される前に先手を打った。

「鉄とステンレスとチタンとカーボンでしょう」

「よくわかってるじゃないか」

「耳にたこができるほど聞きましたから」

 カーボン以外の素材はトゲパッドに使われる一般的な素材だ。しかしその製造方法は核の炎に焼かれ失われてしまっている。

 それでも金属である以上、現存する物を溶かして型に流し込めば整形することは出来る。

 それに対しカーボンは、加工方法すらわかっていない。トゲパッドの名匠と言われる師匠でさえ二度しか見たことがないらしい。いわば伝説の防具といったところだろう。

 チタンも加工は難しいが軽く丈夫で錆びにくいトゲパッドを作ることが出来た。

 ステンレスは材質としてはチタンに劣るが、錆びにくく価格もお手頃に設定出来るため、大衆向けでは根強い人気を誇っている。

 鉄は炭素の含有量を調整することで強度を変えることが出来る。師匠ほどの名工にかかれば、日本刀のように複数の鉄を組み合わせ丈夫なトゲパッドを作ることが出来た。一番、職人の力量の分かる素材と言える。

 師匠は鉄専門のトゲパッド職人だった。

「今日のところは勘弁しておいてやる」

 師匠は大きなお腹の音を鳴らしながら呟いた。

 時計を見ると短針は十時を示している。

 トゲパッド職人の昼も早い。

「そろそろお昼ご飯の用意をしましょうか」

 道具を片付ける師匠を手伝いながら僕は昼ご飯のメニュー考える。

 冷蔵庫には何が残っていただろうか……。


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