ロリにモテすぎて困っている件
「おらおら、手を挙げろおおおお。こいつの命がどうなってもいいのかー、うーん?」
ギャハハハと高笑いを浮かべながら、安藤は逆手に持っている包丁を見せびらかす。ギラリと反射しながら、覆面を被っている人間の首元に少しだけ押し付ける。
「くっ……、私のことはいいから、貴方たちは早く国王の娘を攫いなさい」
声のトーンや話し方からし、押さえつけているのが女であることは分かるが、どうも感触からしてそうは思えない。あまりにでっぱりがないので、声を出すまでは男だと確信していたぐらいだ。
だから、15歳を迎えて思春期真っ只な安藤だというのに、感情は微動だにしない。
「おーと、そんなこと言っていると、手が滑っちゃうかもしれないな~」
安藤が包丁を動かそうとしていると、
「や、やめろ――――!! 分かった、言うとおりにするから、そいつの命だけは、頼むっ!! そいつは仲間なんだっ……!!」
テロリストとの仲間は必死になって叫ぶ。覆面のせいでどんな悲痛な顔をしているのか、見ることができないのが残念至極極まりない。
安藤直哉の服装は、ウェイター。黒と白を基調とした一般的なものであり、さっきまで人質の一人としての機能を果たしていたはずだったのだが……。
キッチンからくすねてきた包丁を武器にしてから、状況は一転して安藤有利の展開になってきた。というか、ここまではするつもりはなかったのだが、血走ってきたテロリストが好戦的だったが故に、こんな取り返しのつかない状況に陥ってしまったのである。
後悔の念が肩にどっしりとかかりながらも、それを振り払うがごとく、悪役に徹しきっている。もはや演じきることでしか、自分の精神を保つことなどできなかったのである。
(誰か、俺を止めてくれ……)
安藤は薄らと透明な膜を瞳に浮かべながら、
「ふっ、仲間……ねえ。テロリストが随分ご立派な言葉でおしゃべりになりますなー。お前たちだって、死ぬ覚悟でこうやって国王の娘誘拐なんて企てたんだろ? だったら、本望じゃないか」
「……前みたいな若造が、一体この国のどれほどを知っているんだ? 国王が影でどれほど国民を搾取しているのか知らず、のうのうと生きている餓鬼に、何がわかる?」
「わかるか、ボケ!! どうせ、国王が情報規制を張って自分の都合のいい情報は国民に行き渡らないようにしてるんだからな!! だけどなあ、だから、どうした!? それでお前らが犯罪を犯していい大義名分には成りえないっつーの!!」
ペッペッと、唾を吐くように安藤が言い捨てる。
近年、クーデター紛いのテロが何度も勃発していて、不安を駆られているのは国民自身だ。
どれだけテロリストが平和の旗を掲げようが、持っているては血塗られている。そんなものを見せられて、はい、そうですか、なんて納得する馬鹿はこの国にはほとんどいない。
「……だったら、今からあなたに教えてあげる。この国を取り巻く《リアル》を」
「おい、動くなっ――って――」
意識をもう一人のテロリストに向けていたが故に、反応速度が遅れた。ゴッという鈍い音とともに、安藤の腹部に強烈な肘鉄がクリティカルヒットする。そのまま痛みに唇を噛んで、思わずカランカラン、と包丁を床に落としてしまう。
「うげっ……」
ゲロ的なものが喉元に押し寄せてくるが、なんとか堪えて呑み込む。
(そうか、わざと俺に会話させたのか……)
口元を抑えていた両手を必死に伸ばして、落ちていた包丁を掴み取ろうとするが、
「させると思う?」
女の容赦ない蹴りによって、包丁は壁際まで床をスライドする。クソッ、と安藤はそのまま振りかぶりも中途半端なスマッシュに近い軌道のパンチを繰り出すが、
「……がっ……」
パンチの威力を完全に消し去るために最小限の力で、女は安藤の腕を底のある靴で受け止める。
(う、動かない……)
絶妙な力加減で止められていた拳を引き戻そうとする前に、女はふっと、腕を押さえるように振り下ろしていた足を、横に移動させる。
と、女に向けていた力が行く先を見失うように、空中に向かって拳を突き上げて空振りの無防備状態になってしまう。しまった、と舌打ちすると気にはもう遅く、顔面に女渾身の蹴り足がジャストミートし、そして。
――そのまま安藤は気絶した。
読み切り打ち切り。
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