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灰色の少女と黒い女  作者: 烏羽 真黒
皇都の夜、黒八咫の羽
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明けの熊鷹のお話(2)

 衝動買いの後は、大橋を渡って東、古き良き街並みへ。江戸でも見かける様な茶店の軒先で、桜は団子に喰らい付いていた。尚、買った荷物は左手にある。

 衣服四着の購入後、増えた荷物は――簪が二つ、扇子、指輪、髪を結ぶ飾り紐。髪飾りに関しては、桜はやたら拘るので、金額は恐ろしい事になっていた。道中、あまり褒められない手段で稼いできたと言えど、これは懐に大きな痛手である。


「……うがー……あんたはどうしてこう考え無しに……」


「だってなぁ、予想以上の掘り出し物だったのだぞ? 見ろこの銀色、しかも黒ずみが無い。ただの銀では無さそうだ――」


「ただの銀だったら良かったんだけどねー、安くて。取り立て、どうやって誤魔化すのよー……」


 代金は後払い。請求は全て、翌日日中に届くようにと手を回しているらしい。その時になって金が無いとなれば、さてどうなるか?

 力任せの取り立て、という可能性は、この際考慮せずとも良い。どだい無理な話だ。精々が商品を返却させられて、その上で破損や汚れにかこつけ、幾らかの金銭を要求される程度だろう。こちらに正当性が無い以上、払わなければ罪人だ。真っ当に生きたい村雨には、頭の痛くなる様な話であった。

 頭痛の元凶は大喜びで、黒髪に簪を通している。鉄の様だがもう少し固く、作られて長い様子だが錆も無い、不思議な材質だ。然しながら桜の冷たい顔立ちには、花をあしらった飾りでは少々可愛らし過ぎる。本人も自覚が有るのか、店の奥にあった鏡を覗きこんで、何とも言えぬ複雑な表情を作った。


「おい、村雨」


「……何よ――って、本当に何よ」


 むすくれた顔でそっぽを向いていた村雨は、名前を呼ばれて桜の方へと向き直る。あまり長くない前髪に、花飾りの簪が通された。


「うむ、やはりこの方が良いな……ああこら外すな外すな、勿体無い」


 無言で簪を引き抜こうとした村雨だが、その手を桜がぴたりと止めた。


「お前なぁ、着飾るのが嫌いという訳ではないのだろう? ならば楽しまんか。私の目を楽しませるのも仕事だと思え」


「……そーいう気持ちになれないの。分からない?」


 金銭の心配を抱えている時に、華々しい服装を楽しんではいられないだろう。そればかりではない、本当に深刻な問題は何も解決していない。簪を付けたまま、村雨は俯き、溜息をついた。

 『錆釘』構成員を狙った無差別の殺害と、死体に添えられた手紙の日時指定。相手の考えは読めないが、呼ばれたからには――これ以上の犠牲を減らす目的でも――応じる必要が有るだろう。そして、出向いた先で待っている誰かが、穏健派である可能性は非常に低いのだ。


「……なあ、村雨。ここの団子は口に合わんか?」


「はい? いや、そんな事も無いけど……」


 突然、桜が見当違いな事を言いだした。言われて村雨も気付いたが、折角出てきた団子を、まだ一本しか食べていない。尚、一人頭四本の割り当てである。


「なら良いのだが……うーむ、そうだな……よし、次は西側へ行くか。確か氷室を使って、氷菓子など出している店が有った筈だぞ。おうい、勘定!」


「えぇ、え、気が早いな、ちょっと」


 別に大好物という事も無いが、そこまで嫌いな味でも無い。ゆっくりと団子に手を付け始めた所で、桜は早々に勘定を済ませ、店を立つ用意を整えてしまった。そう急ぐ理由が何処にあると言うのか。村雨は、もう歩きだそうとしている桜を、呆れ顔で見つめた。





 市中を西へ西へ歩いていく途中、桜は突然、首をほぼ真横へ向けた状態で立ち止まった。


「おい、あれ、あれ」


「ん? ……馬車がどうしたのよ」


 指し示す方角を村雨が見れば、そこには三頭立ての馬車。京の都を周遊する、観光用の乗り物である。大きく回って所要時間は四刻程――途中途中、食事やら何やらで休憩を挟む――金持ちの娯楽である。


「丁度空いている様だ、乗るぞ」


「……駄目! これ以上の散財は駄目! 流石に宿が無くなる!」


 元々白い肌を更に青ざめさせ、村雨は全体重を以て桜を引き留めようとした。村雨程度の体重では、桜の歩みには全く影響しない。結局のところはずるずると引きずられて、


「おい、御者。二人なら幾らだ?」


「はい、六両の所を五両に負けさせていただきます。昼食、夕食の料金は込みで」


 人、これをぼったくりと言う。御者の拘束時間などを考えても、明らかにこの金額は暴利である。村雨は、首をでんでん太鼓の様に振って、却下の意を示した。


「良し、頼もうか。ゆっくり回れ、急ぎの用が有るでもない」


「あ、こら! 人の話を聞いてよ、聞いてってばー……!」


 そんな村雨をひょいと抱え上げ、桜は馬車へ乗りこんでしまう。そろそろ村雨も、怒り続けるのに疲れた様で、叫んではいても語気が弱くなってきていた。

 馬車に乗り、内側から扉を閉め、腰を落ち着けて御者に一声。三頭の馬が嘶いて、車輪がゆるりと回り出す。軋みも無く、揺れも小さい。技巧を凝らした、上等の馬車であるらしい。

 馬三頭に引かせるだけあって、馬車自体も中々に大きい。柔らかい二つの長椅子が、床に固定された机を中心に向かい合う作りだ。足元には絨毯が敷かれていて、客人の退屈を紛らわす為か、書物も幾つか置いてある。仏教の経典まで混ざっている辺り、中々の教養人が選定したものであろう。

 そんな快適な空間にあって、村雨の不満は、とうとう頂点に達した。


「ちょっと、桜! 普段からそうだけど、今日は酷過ぎるよ!? 場合が場合だっていうのに、呑気にお金をばらまく様な事をして……何考えてるのさ!」


 長椅子に浅く腰かけ、机に両手を付いて身を乗り出し、反対側に腰掛ける桜を睨みつける。今回ばかりは、納得行かねば一歩も引き下がらぬと、そんな決意が表情に浮かんでいる。いつもの様に受け流すなど、決して許しはしない。そういう気概が籠った詰問であった。


「……駄目、か?」


 きっと普段の様に無表情で、僅かに口角だけ上げて、答えを返すのだろう。村雨の予測を大きく外し、桜は、小さく一言だけ訊ねた。中指で右の瞼を引っ掻く――間が居た堪れなかったり、言葉を探したり、そういう時の癖を見せながら、であった。


「っ……むしろ、良いと思える方がおかしいんじゃないの?」


 気勢を削がれた村雨は、背もたれに体重を預け、両腕を組んでふんぞり返る。この場では自分が上なのだと主張しているかの様だ。対象的に桜は、膝に肘を乗せ、上体を沈める様な体勢で縮こまっていた。


「だってなぁ……お前、服を選んでも仏頂面だし、髪飾りも気に入らん様だし、団子も口に合わん様だし……」


「そーいう問題じゃ無かったんだけどさぁ……――あ」


 村雨は嘆息する。そも、村雨が買い物を楽しまなかったのは、着飾る事への執着の薄さもあるが、それよりも大きく心を占める問題が有るからだ。それを理解出来ていない筈も有るまいに――そこまで不満を覚えた所で、村雨も一つ、気付いた事がある。

 衣服を選ぶ間も、店から店へ移動する間も、桜は何時も以上に、村雨の表情を観察していた。何か一つ行動を起こし、それで結果が思わしくなければ、直ぐに別な行動を。せわしなく動き回っていたのはもしかすれば――


「桜……あのね、私は言われなきゃ分からない人なの。考えが有るなら、ちゃんと言葉にする。はい」


「……お前、気を張り詰め通しだっただろう。連絡を受けてからずっと、堀川卿の部屋でも市中でも、屋外屋内問わず。いかんぞあれは、あれでは身が持たん」


 大方、村雨の推察は当たっていた。今日何度目かの溜息を尽き、目を閉じ、額に手を当てる。呆れ果てているのは同じだが、そこから陰性の感情が薄れてきた事に、村雨自身が気付いていた。


「はぁ……私、そこまで繊細じゃないよ。少なくとも、自分のせいで誰か死んだだとか、そんな見当違いの事は考えない。殺された五人は可哀想だけど、面識が有る訳でも無いしね」


「いいや、お前なら、幾らかは気に病む。理屈でそう言い聞かせようが、何処かで気に掛けて――それで、妙に仕事に力を入れる。お前はそういう性格だろう、村雨。そういう気負いはな、寧ろお前が危なくなるのだぞ?」


 気負うな、なる様になる。確かに今朝、桜が村雨に対して言った言葉だ。そして、桜の村雨評は、確かに当たっている部分が多いのだ。

 自分が誰かを救った結果、『錆釘』が逆恨みされ、同僚が殺された。そこに、自分の非を見つける事は難しいだろう。殺人者に全ての非難を浴びせ、解決策を探るのが、精神衛生上最も楽なやり方だ。だが――どうにもならぬ事を、くよくよ思い悩むのが人間である。

 もしかしたら、自分がもっと上手くやっていれば、彼らは死なずに済んだのではないか。無益な思考だと理屈で分かっているが、そんな事を、村雨は考えてしまう。無益だと分かっているからこそ、せめて次はやらせるまいと、迫る刻限に備えて気を張り続ける。


「考えるなとは言わんが、暫くは切り替えろ。向こうが刻限を定めたのだ、それまでは気を休めて良いではないか。お前の顔が曇っていると、私まで気が重くなってならんのだ」


 途中まで気を使う様な言葉を選びながら、結局最後には、主語が『私』になる。本当に桜は何時も通りだと、村雨は溜息交じりに笑った。

 どうやらこの女剣士は、本心から自分を心配し、気分転換をさせようと尽力していたらしい。その方法が、著しくずれたものであるとも気付かずに。女遊びには慣れた様子を見せる癖に、全く変な部分が鈍い事である。村雨はそれが――呆れるやら、おかしいやらで、珍妙な表情を作らずには居られなかった。


「……で? 結局、どの服に決めたの? やたらヒラヒラしたのばっかり選んでたけど、普通に着れそうなのって無い?」


「ん? おお、そうだな……これなどどうだ。西の大帝国でも、特に貴族連中の気に入りだと言うぞ」


 まず桜が取り出したのは、脚にぴたりと張り付くデザインの半ズボンに、首をくるりと襟が囲む、ボタン留めの前開きシャツ。踵の赤いハイヒールに、ジュストコールと呼ばれる腰部分が細くなった上着。西洋貴族の好みの衣装から、幾つかを引き抜いて簡略化した一式である。


「……え、動きづらそう」


「いやいや、脚は動かせるだろう。この上着もな、意外に軽くて肩の部分が柔らかく――」


「いや、踵がね? あとさ、それ、男物だよね」


「似合うと思ったのだが――ああ、いやいや、次だ次」


 不評である。踵が細く高い靴は、少し走ると簡単に圧し折れてしまう為、村雨は全く気に入らないらしい。が、それ以上に膨れ面をさせた要因は、上着のデザインがどう見ても――例えば肩のラインや、装飾の細かな意匠や――男性が身につけるものにしか思えなかったからだ。

 実際の所、『どうせ中性的な服装なんだしいっそ男装でもさせたら楽しいだろうな』という考えが、桜に無かったとは言えない。寧ろ、かなり大きかったと断定しても良いだろう。が、紆余曲折有って自分の女らしさに自信を持てない村雨には、それは傷を抉るが如き扱いだったのだ。


「よし、これならどうだ! ふっふっふ、これならばお前も文句はあるまい、両家の息女の衣服だと言うぞ?」


 膨れ面から空気を抜く為に、桜が持ちだしたのは、数十のリボンと総延長八尺にも及ぶフリルで構成された、ロングスカートのワンピースドレスである。畳んでいたとは言え、良くもこうかさばるものを持ち運べたものだと、村雨はおかしな感心をした。


「……ええと、私はどこの棚に飾られればいいんだろう」


「飾っておくなど勿体無い、動きまわらんか。ほれみろ、靴まで統一したこの飾りの意匠、全く見事な――」


「流石にこれはやりすぎだと思う。というかね? これで外歩いてたら、可哀想な子だと思われるってば」


 正直なところ――屋内でならば、着てみたくない事も無い。が、外を歩く時にこの服は無理が有ると、村雨は自分の顔立ちを鑑みて、冷静に判断を下した。せめてもう少し、分かりやすく少女らしい顔立ちであったのなら――僅かにでも傾いたのかもしれない。


「むむむ……では、ではこれならば!」


 自信を持っての提案四件の内、既に二件が叩き落とされた。が、まだまだ札に残りは有る。追い詰められて猶、桜は不敵な笑みを崩さなかった。


「……で、これは?」


「畚褌とさら――」


 言いきる前に村雨の爪先が、桜の顎を打ち抜き、首を垂直に跳ねあげていた。


「誰が着るかぁっ!?」


「水練にこれほど適した衣服も無かろうが!」


「何が悲しゅうて秋口に泳がにゃならんのじゃー! そもそもそんなもん服って言えるかー!」


 白布二つを手に、己が煩悩を強く主張する桜には、さしもの村雨も呆れを数周通り越し、怒りさえ通り越して疲労していた。が、それが己の義務であるかの様に、桜の言動に蹴りで答える事は忘れないのだった。

 馬車の御者が、お嬢さん方暴れないで、と悲しそうな声で宥めてくる。詫びを返したのは珍しく桜であった――村雨が、それどころではなかったからなのだが。


「はー……大体、なんでそんなもの売ってるのよあのお店は……」


「知らん、店員に聞け。……まあ、今のは冗談としてだな」


「冗談だったんかい」


「流石に街中であれでは、頭の病を疑われるわ。ほれ、今度こそまともな候補」


 己の言動の無茶苦茶ぶりを、どうやら十分に理解していたらしい桜は、急に落ち着いた様子で、残り一つの衣服を机の上に広げた。


「あれ、本当にまともだ。熱でもあるの?」


「第一声がそれか」


 淡い青の布地に、白絹の裏地を付けた、丈の長い衣服だった。上半身も下半身も一枚の布で覆う、小袖にも似た作りである。袖丈は長く、袖口は広く、黒い布の飾りがくるりと巻きついている。首周りは詰め襟となっていて、これからの季節には適した外見と見えた。

 最大の特徴は腰から下、左右に入っている切れ目――スリットだろうか。脚を大きく動かしたとしても、このスリットの為、布が引き攣れる事が無い。やろうと思えば馬に乗る事も、脚を高く振り上げる事も可能だろう。


「大陸の『旗袍』とか言う服だ。向こうに居る時には何度か見たが、日の本ではまるで見かけなかったのでな。丈も有っていたようだし、買っておいた」


「割としっかりした作りだねー、これ。腰回りが細すぎる気もするけど……」


「お前なら入るだろう。箱根の風呂の時より太っていなければ、これでも幾らか余裕は――おうふ」


 先程の様な全力の蹴りでなく、軽く手の甲で払う程度の打撃。村雨はじっくりと、机の上に乗った旗袍を観察する。

 確かに、腕や脚の長さも、腰回りや胸回りも、肩幅も、今直ぐにでも着られそうな程に合っている。軽く曲げた程度では皺も残らず、裏地を見るに、着心地が悪いという事も無いだろう。無意味な露出も少なく――スリット部分は意匠の問題だから目を瞑れば――本当に、桜が選んだにしてはまともな服だ。

 これを着て、外を歩く事を想像してみる。江戸の町でなら大いに違和感もあろうが、この帝都ならば、そういう事もあるまい。大陸の人間だと分かりやすい自分の容姿には、寧ろ日の本の衣服より、大陸のそれが似合うのではなかろうか。


「……悪くないじゃない、ありがとう。それじゃ、早速帰ったら――」


 以上より、村雨は本日初めて、満足気な表情を作って頷いた。それを見て、桜もようやっと、能天気な笑い方――軽く目を細める程度だが――を取り戻した。


「うむ、さっそく此処で着替えてみせろ、さあさあさあ」


 笑顔の維持は、ほんの数瞬。頬を平手でひっ叩く音は、心地よく京の街に響いたのであった。






 同時刻、とある建物の屋上から、〝その男〟は地上を見下ろしていた。

 もしかすれば、『見下ろす』という表現には語弊があるかも知れない。彼は目を固く閉じたまま、一瞬たりと開こうとしないのである。

 見れば、異装の男である。経帷子に手甲、脚絆、死装束を一揃い。だが、帷子に書きこまれているのは経文では無く、聖書の文言だ。まだ暑さも抜けきらぬ九月上旬、背負うのは鷹の羽を束ねて作った大羽織。袖を通さず、帯も結ばず、肩に引っかけているだけだ。

 そして、右手に持つのは巨大な弓。源平の戦の頃より、日の本の弓は長大であるが、然しそれにしても巨大だ。あまりの長さに、横に寝かせて持たなければ、取り回しも利かぬ程であった。


「哀れな、真実哀れな子羊よ……真理の教えも知らぬままに凶徒と化し、いたずらに天唾の愚を為すか……嗚呼」


 芝居掛かった大仰な身振りで、男は空を仰ぎ、嘆く。


「愚は罪過、無知は罪悪――大聖女の御為に、俺は罪人を撃ち抜こう。それで良いのだな、狭霧兵部」


「ああ、構わんぞ。俺の為に働けなどと、無理な事は、俺は言わん。あの聖女の為で良いからきりきり働け――日付けが変わってからな」


 男の背後には、狭霧和敬が立っていた。武術の心得でも有るのか音も無く近づいていたが、然し男は、和敬が屋上に現れる前から存在を感知していた。


「……確認しよう。死すべき者は、二条の城の近くに現れる。これは大聖女の御心に叶う事である。虚言ではないな、兵部?」


「向こうが怖気づかなければな。そうなったらそうなったで、適当に何人か撃ち殺して帰ってこい。間違いなく今夜の殺しは、大聖女エリザベートの理想の為に、通らねばならない道だともよ」


 矢を持たぬまま、男は左手で弓の弦を引き絞る。何も見ぬまま、遠くの山へ、弓を支える右手の人差指を向けた。


「ならば。俺は、俺は悪魔と蔑まれようが、殺す。貴様の言は信用せぬが、貴様の功の大なるは承知の上だ。至天の塔の為に、アーメン」


「大聖女と俺の共栄の為に、アーメン」


 弦がびん、と鳴る。弓が男の手の中で返る。ひぃ、やっ、と空気を裂いて、矢が大空を駆けて行く。番えもしなかった矢が、確かに空を飛んで行く。


「……面倒な奴は、扱いやすいもんだなぁ」


 狭霧和敬は、聞こえない様にとの配慮も無く、一言呟いて立ち去った。

 数里離れた山の中腹、一頭の鹿が、眉間を貫かれて倒れていた。

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