鬼婆のお話(2)
「では、我が旧友、雪月桜との再開を祝して」
「おう、飲め飲め。半分は残せよ」
木材を掻き集め、強引に繋いだだけといった風情のあばら家。今にも抜け落ちそうな床に胡坐を掻いて、日も高い内から酒盛りを始めている駄目人間が二人ばかり居た。小壺に直接口を付け、ぐうと傾け口内に喉に注ぎ、喉を鳴らし、相手に差し出す。こんなやり取りが、暫し繰り返される。
「……あーのーさー……頼むから話を聞いてってばー」
素面は、この場では一人、酒をあまり好まない村雨だけ。彼女はこのボロ家の主に早く書状を渡したくて堪らないのだが、それが為せずにじれていた。元凶の一つが、彼女の傍若無人の雇用主である。
「いや然し、よもやお前が定住先を決めていたとはなぁ。数年ばかりは会えないものと思っていたが」
「冬には出払うつもりで居たよ、お前は本当に悪運が強いね。私に出会えたんだ、目の保養になっただろう?」
「言いよるわ、毒華めが」
子供がじゃれあうように互いに拳を突き出しながら、桜と左馬は笑いあっている――が、空中で打ち合わされる拳からは、釣鐘の様な音が響く。然して敵意の様なものは無く、二者共に、完全に気を抜いて姿勢を崩していた。
暫く続いた雑談を村雨が聞いたところによると、この二人、会えば殴り合う程の親友であるらしい。交友の在り方としては珍妙だが、そういう関係も有るものなのかと、おかしな納得をせざるを得ない村雨である。
勝敗は数えていないが、〝素手に限れば〟左馬の全勝。桜の化け物染みた身体能力が、この自尊心の塊には通用しないというのだ。
俄かには信じがたい事だが、実際に目撃した村雨は、頷かざるを得なかった。左馬の拳足は、速度も重さも尋常に非ず、正しく魔域の技巧と映ったからだ。然しながら、村雨が彼女の技術に目を奪われた所以は、寧ろ別な場所なのやも知れない。
「ねえ、えーと――左馬、さん? さっきの見てたけど、あれは……何か、武術なの?」
自分に意識を向けさせる為にも、村雨は、左馬の用いていた技術を話題に挙げた。自分の事を話すのが好きなのか、左馬は酒臭い息を吐き出し、胡坐を掻いたまま首だけを村雨に向けた。
「拳法、って呼ばれてる物だよ。決まった流派は無いけれどもね、強いて言うならば……北派?」
恐ろしく、良い笑顔であった。度重なる受打で変形した、球状の拳を見せつけるようにして、左馬は歯を剥き出しに笑う。
「土をしっかり踏んで、手足をがっちり固めて、思いっきり叩く。これが出来るんなら誰にも負けない、素手の喧嘩で負けた覚えは無いんだ、私は。凄いだろう?」
「素手に限り、だがな。武器を持てば私の方が強いぞ」
あまりに自信ありげ様子が気に障ったか、桜が口を挟む。が、左馬には鼻で笑い飛ばされるだけだ。
「お前は例外だよ化け物。私は美人なだけの普通の人間だよ? 象も投げる様な怪物と一緒に語らないで欲しい」
「象とはなんだ、象とは」
「ずっと西の方に住んでる動物。熊の十倍は重いそうだ」
怪物と呼ぶその相手を体当たり一つで弾き飛ばす自分は棚に上げて、僅かに残っていた酒も飲み干す左馬。空になった小壺を投げ上げると、これ見よがしに四本貫手――人差し指から小指まで揃え、先端で突く技――を放った。
「……勿論、お前にも負けるつもりはないけどね、桜」
小壺は鉈で断ち割ったかの様に二つに分かれ、床の板に落ちた。
「切れ味、上がったな。相変わらずの修行三昧か?」
「勿論。一月二度の仕事をさぼって修業に明け暮れているとも」
桜には見慣れた光景であったのだろう。村雨が目を丸くする横で、平然と壺の破片を検分している。酒の席の余興程度の勢いで離れ業をやってのけた本人は、己の怠惰を隠しもしなかった――為に、村雨も漸く、本題に入る切っ掛けを得る。
「そう、その仕事! 『錆釘』から業務連絡だって何度も言ってるでしょー! はい!」
話題が僅かでも途切れた瞬間を狙い、預かっていた書状を押しつける。段々と、身勝手な人間への対応が慣れてきているのか、有無を言わさぬ気迫であった。
「ああ、そうだった、そうだった。松風左馬確かに受け取りました、ただいま確認致します、っと……あ、前のより字が汚い」
執筆者の苛立ちが窺える、断末魔の苦しみに悶えのたうつ蛇の様な字の書面を、左馬は一文字一文字睨みつけながら読み進め――
「ふんふん……面倒だから嫌だ」
――読み終わる前に閉じてしまった。腕を伸ばして座布団を引き寄せ、書状を下敷きに枕にして、仰向けに横になる。決断まで十も数えぬ迅速さであった。
「……いや、私の仕事は連絡だけだからいいんですけどさ、また手紙届けろって言われたら困るよ?」
「だね。だから代わりに桜、お前が行ってきてくれないか?」
「礼金次第では考えてやらんでもないが、五十両以下では動かんぞ」
自分の興味の無い事には、徹底的に怠惰になれる人間がいる。松風左馬はその一人である。友人である桜は、その性根を叩き直すという発想は無いらしく、気軽に出せない金額を条件に出して婉曲に断った。
「いいや、お前は動くよ。これは多分、お前好みの一件だ……ほら、餞別」
書状と入れ替わる様に、木版一枚摺りの、質の悪い紙を、壁板の隙間から引きずり出す。はらりと投げられたそれを桜が受け取ってみれば、おどろおどろしく文面を飾っていた文字は、
「……お前、いつからこっちの趣味が出来た?」
「私の趣味じゃないけど、配ってたから貰ってきただけだ」
些かばかり洒落を利かせた文面。『装いも新たに、西の風を、西の艶を 牡丹登楼』――妓楼の宣伝広告であった。写真技術は、西洋で漸く生まれたばかりで、まだ日の本では一般的でない。文字ばかりの広告だが然し、文字の書体の崩れぶりが、何処となく如何わしさを醸し出していた。
「いやまあ、確かにこういう店は好きだが。悋気持ちの連れがいるのでな、どうも自由に遊べん身分で……」
「下の方、揚代を見てごらん」
ほう、と普段の様な梟真似の声を出し、桜は広告の上に目を走らせ――幾度か瞬き、目をこすり、それでも足りぬのか二度三度と手元の藁半紙を見直した。
「どうしたの?」
「……お前も見てみろ。縁は無くとも、相場くらいは何かで知っているだろう?」
怪訝な顔の村雨に負けず劣らず、複雑怪奇な表情で、桜は藁半紙を差し出す。受け取った村雨は、桜の目が先程まで留まっていた位置まで視線を落とし――
「は――は、何これ……? え、慈善事業?」
客皆馴染み、浮気は甲斐性、一会五十文――端的に言うならば、あまりに客に都合が良すぎる、そんな謳い文句が踊っていた。
「依頼元は朱雀野、島原。このままじゃ商売あがったり、だとさ」
「引き受けよう、五両でいい」
いざ決断してしまえば、桜ほど行動の早い者もそういない。そして、その友人であるからには、やはり左馬も迷いの無い人間であった。
「そこの隅の歪んだ鍋、紙幣で十両ばかり入ってる。半分持って行くと良いよ」
京では、大判や小判は流行りでないらしい。紙の束をきっかり半分ひっつかみ、村雨が随伴しているか確認する為に一度だけ振り返り、そうして桜は山を降り始めた。健脚である。再び西洋風の市街地に戻るまで、一刻と掛からなかった。
時代が移るにつれて、やはり変わっていく物は有るのだ。古き良き島原とても例外ではない。
日の本の国家機能の中枢が、江戸から京に戻るに合わせて、上方には江戸者が大量に流入した。となれば、文化もそれ相応に混ざり合うのが道理であろう。そして、遊郭と問えば吉原と名が挙がる程、性文化の面で見るならば、江戸は発達していたのである。
代表的な例を挙げるならば『散茶女郎』であろうか。袋から降り出す煎茶に対し、〝振らない〟散茶に掛け、客を振らない事を売りにする、手軽な遊女の事だ。
初回で数両、口も利かず、裏を返してまた数両取り、言葉を交わすのは一つか二つ。三度目の登楼で漸く寝所を共にする高級遊女は、確かに見目良し技良し風流良しだが、気軽に遊べる相手とはいえない。商人ばかり強かった時代ならばさておき、一般大衆が活発に遊興費をばらまく時代には、もっと手軽な相手が必要なのだ。
ちなみに、江戸の遊女遊びは、現在ではかなり簡略化され、揚屋というものが無くなっている。客は直接遊女屋に赴き、そこで初回から遊ぶという事が多い。伝統保守を良しとする京でも、煩雑な手順の解消は進んできている――が、完全ではない。
例えば一部の大見世は、今でも揚屋を通さない限り、暖簾を潜る事さえ出来ない。初回――初めて遊女を指名し、顔合わせの挨拶、次回の約束を漕ぎ付ける段階――で客が粗相などすれば、遊女は形式的な挨拶だけ済ませて帰ってしまう。一度、床を共にするまで辿り着いたなら、他の遊女を指名するのは礼儀作法に悖る所業とされる、等々。極めて古風のやり方が、洋風の街並みにも残されているのだ。
では、左馬から渡された広告の文言の意味は? 教養人のやる様な、言葉遊びなどは含まれていない。
客皆馴染み――初回、裏を強要しない。つまり、全ての来客は、最初の登楼から床入り出来るという事。
浮気は甲斐性――読んで字のごとく、浮気の黙認。一人の遊女に操を立てる必要性を排除し、自由に何人とでも関係を持って良い、という事。
この二項目から察するに、『牡丹登楼』は所謂、散茶女郎を扱う遊女屋なのであろう、と桜は推察していた。
「にしても、五十文とはなぁ……髪結い、二度も頼めんぞ」
「えーと、確か……飯盛女の相場が……四百文から六百文くらいの間、だったっけ?」
あちらこちらに派遣される職業柄、村雨も、売春業に関する或る程度の知識は持ち合わせていた。だからこそ、あの宣伝広告を見て、何の冗談かと疑ったのだ。桜が言う通り、この金額では、そもそも遊女の身なりを整えるだけでも赤字が出そうなものだからだ。
「これで儲けが出るとすると、蚊帳と筵の間に、歯抜けの婆が腰かけて……か? 数日で客が来なくなるな、有り得ん」
「他の店からお客を奪うくらいらしいから……うん、むしろ繁盛してるんだよね。どういう仕組み……?」
「分からん。分からんが、見れば分かるかも知れん……おう、あれか?」
神山を降り、京の街を南へ進み、二条城を幾分か過ぎて直ぐの事である。赤煉瓦の並ぶ街並みの中に、屋根まで白い奇妙な建築物が有った。形状だけは日の本の豪邸に似ている。だが建材は明らかに舶来のものだ。屋根の下に吊るされた看板には、確かに『牡丹登楼』の四字。呼び子も何も無く、静かな店先であった。
その大きな事と言ったら、窓の数からして三階は無いと断言できるのに、然し屋根まで四丈はあろうかという背の高さ。剣道場の二つは飲み込まんばかりの横幅で、長く伸びた壁の内、何か所かは格子になっていた。格子は〝まがき〟と呼ばれる、妓楼の格を示す物。この店の場合は、壁の下半分だけが格子になっている――格の低い店、という事である。
桜は壁に沿うように立ち止まり、腰を曲げて格子を覗いた。目を細めていると、格子の向こうで何人か、女たちが歩き回っているのが見えた。
「……中から中の上。一人二人、上の下。江戸なら一晩で三両から四両という所か……繁盛する訳だな」
「何よその無駄な鑑定眼……羊頭狗肉じゃないよね」
「多分な。一人、後ろ髪が潰れている。朝方に結い、その後で横になった様な潰れ方だ」
天井知らずの遊女相場であるが、然し下限ならば、比較的常識の範疇で存在する。遊女とて、好色で身を売っている訳ではないのだ――例外は有るかも知れないが。堕ちに堕ちて店に置いて貰えない、三十過ぎの遊女とて、病気が無ければ二百文は稼げるだろう。若くて健康ならば、宿場町で飯盛女でもすれば良い。五十文では、まず遊女が集まる筈が無い――桜の常識の範疇ならば。
然し現実は眼前の光景の通り。こうして見ている間にも、若い男がふらりと立ち入ったり、或いは満ち足りた顔つきで出てきたり。人の流れは途絶える事なく、恐ろしく繁盛している様子が窺えた。それはつまり、それだけの人数を捌けるだ程、遊女を揃えているという事だ。
「……分からん! が、きな臭いぞ。江戸でもこういう店が無かったとは言わんが、酷い悪徳店主の店だった。ここも大方、裏では何かやっているに違いない」
「多分、でどうにかなるもんでもないでしょ……で、どうするのさ。忍び込むなら朝か昼って思ってたけど……ここ、一日中営業してるみたいだよ? 街のど真ん中だし、闇にまぎれてーっていうのは無理なんじゃないかな」
この『牡丹登楼』、塀や柵は無いが、敢えていうなら周囲の目が、最強の防壁である。市街地にでんと建てられたが為、そして深夜でも煌々と明かりを灯している為、必ず幾つかは視線が向いているのだ。潜入しようと言うのなら、モグラの真似事でもしなければ難しかろう。
「ああ、それならどうにでもなるだろうが」
然し、忍び込もうなどと思わなければ、この問題はあっさりと解決できる。桜は一端『牡丹登楼』を素通りして、近くの別な建物へと歩き始めた。
「ん? どこ行くの?」
「ちょっと買い物だ、ついてこい。折角京に来たのだから、こちらの品も買っておきたいだろう?」
「いきなりだねー、どういうつも――……り、って、あー……」
桜の思考回路を、村雨は理解してきたらしい。言葉の途中で意図に気付き、そしてその意図を覆せないだろう事を察し、がっくりと肩を落とした。桜の視線の先には呉服屋が、当世風に煉瓦建てに、暖簾を構えていた。
更に半刻程後。時間としては、そろそろ空の色に朱が混じり始める頃合いの事である。『牡丹登楼』の入口で、受付兼用心棒をしている喜八は、珍しい客が門を潜ってくるのを目撃した。
三条大橋の東か、或いは田舎の出か、若いのに和装で上から下まで固めている。片方は小柄な少年、片方は成熟した女だ。密会の場所を探しに来たとも思えないが、然し女が遊女屋に用が――有るな、と喜八は思いなおす。そういう客も、少ないが、居ないでもないからだ。
が、そういう客は得てして面倒な性格である事が多い為、この店では基本的に、丁重にお帰りを願っている。場合によっては提携している、そういう客でも引き受ける別な店を紹介したり――勿論そちらは、この『牡丹登楼』程に良心的な価格ではないが。
「お嬢さん、店をお間違いではございませんか? ここは少々、俗な所でございまして……」
「構わんよ、知っている。良い女を揃えているではないか、驚かされたぞ」
極稀に、勘違いから迷い込んでくる客もいるのだが、やはりこの女は、そういう類ではないらしい。すぐさま喜八は、申し訳なさそうな顔をして、大きな図体を丸めた。
「申し訳ございません、私共の店では、女性のお客様は……」
客より遊女の立場が上、そういう古風な店が京には多い中、ここは客を最優先とする主義の店。相手が喧嘩腰なら悪鬼の形相になる喜八だが、見ている方が申し訳なくなる程に頭を下げる。
「私ではない、弟がな。こいつ、どうにも女に苦手意識でも有るのか、全く浮いた話も無い。これではいかんという事で連れてきた……それなら構うまい?」
成程、見れば弟と呼ばれた少年、視線を足元に落として赤面し、固まっている。髭も無ければ喉仏も出ていない、ほんの子供の様な顔立ちだ。それを冷やかす様な口ぶりの女は、頭を下げた喜八に耳を近づけ、
「……勿論、私も楽しめるならそれが良いがな。金なら十倍は出すぞ?」
やはり、こういう仕事をしていれば何度か聞く様な口説き文句を囁いた。実際、この店の設定料金であれば、十倍を払っても懐は痛まない――と同時に、店側もさして儲かる訳でもない。目先の利益に目を奪われ、災厄に敷居を跨がせては、それは用心棒の名折れである。
「いえ、やはりそういう訳には……お客様、それだけの予算でお考えなら、私共から紹介状を――」
「百倍だ」
女は無造作に言い、紙幣の束を取り出した。開国以来始まった銀行の、金と交換できるという銀行券なる代物が、目算で約二両――八千文という所だろうか。喜八は、顎が外れんばかりの間抜け顔を曝した。
「ほれ、あの目尻の下がった、簪を耳に引っかけている奴。私も弟もあれを気に入ってな、あれ以外では気が載らんのだ……なあ、どうにかならんか?」
片手を顔の前に掲げて祈る様にしながら、もう片手で喜八の懐に、紙幣の半分程をねじ込む女。これだけで少なくとも一両、贅沢をしなければ一年ばかりは食っていけるだろう金額だ。
「お、お客様、然しですね……」
「まあまあ、お前にそこまでの権限が無いのは分かる。店主に相談してくれるだけで良いのだ。私も無粋ではない、階段を上らせる手間賃くらいは……な?」
残り半分の紙幣も、やはり喜八の懐へ押し込まれる。それでいて女は、懐から小判を覗かせていた。ここまで来てこの客を返しては、後で店の主人に何を言われるか分かったものではなく――そして、自分自身の金銭欲も有る。
「しょっ、少々お待ち下さいませー!」
どかどかと音を立てて喜八は店内に戻り、二階へと駆け上がっていく。暫くして戻ってきた時には、額に珠の様な汗――全力疾走の結果であろう。
「ど、どうぞおあがり下さいませ、ご案内いたしますっ」
後半、声を裏返らせながら、喜八は女と少年を、店に迎え入れた。それからまた直ぐに走り、今度は指名を受けた遊女――桜が〝上の下〟と表した――を呼び、部屋へ案内させる。
「御苦労だったな、酒でも買って休むが良い」
去り際、女は、喜八の袖に小判を滑り込ませた。喜八は直立不動で、女と少年の背を見送った。
改めて言うまでも無いが、この女こそは雪月桜。そして、喜八に少年と勘違いされていたのは、裃を着せられた村雨である。桜から村雨に与えられた指示は単純明快、喋るなの一言。場に慣れている自分が、後はどうにでもするという事であった。
これは余談でしかないが、ただ村雨に男装をさせるという事ならば、半刻も買い物に時間を費やす意味は無い。単に桜が、着せ替えを楽しんでいただけの事である――丁度、陰間茶々での一件と同じように。
「あの時は陰間の振り、今度は客の振りか……うむ、お前も板についてきたな」
「~~~~~っ!!」
喋るなという指示は律儀に守りながら、村雨は久しぶりに、男装をしても一目でバレる雇用主を殴りたくなった。まっこと人というモノは、身体の一部分に於いて、著しく平等性に欠けている生物である――この場合の〝人〟とは、亜人も含んでしまうのであった。




