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御旗のお話(6)

 並の男に倍する巨漢が、ぐわっと拳を振り上げると、どうなるか。

 身の丈に比例した腕の長さは、大の男の頭程もある拳を、一丈五尺の高さにまで持ち上げる。城の天井もぶち抜いてしまうような高さである。

 そこから拳が、唸りを上げて落ちたのである。


「ぎゃんっ!」


 蒼空は犬のような悲鳴を上げて、両腕で頭を抱えて蹲った。

 その足元には、頑丈な靴の形がそっくりそのまま、蒼空という印を地面に押したが如く刻まれていた。

 が、それはまだ、ましな方である。


「――――――」


 村雨は完全に白目を向いて、仰向けに引っ繰り返っていた。

 雪月桜をも凌ぐ、日の本一の剛力の一撃。不意を突かれては、到底耐え切れるものでは無かったのだ。


「常には見ぬものを見ようとて、洛中の南端まで足を運んでみれば、仮にも将たるものが二人して何をしている! 嬰児が如くに泣き喚き掴み合い、挙句に――」


 波之大江三鬼は、地面にどっかと胡坐を掻いた。

 座したとて、並の大男と、頭の高さは遜色なく、三角の小山の如き姿である。その山から、開口一番に飛び出したのは説教と、


「――……これはなんとした、村雨」


 この場の状況に、説明を求める言葉であった。

 掴み合いをしていた二人を、少し離れて見ている子供が三人、何れも泣きはらした酷い顔をしている。

 彼等の内、一番の年少だろう一人が胸に抱いているのは、みすぼらしい子犬の亡骸。

 何かが有ったのだと、聡からずとも分かろうものだ。


「………………」


「ぬ」


 だが、問うた相手は、大の字に天を仰いでいるのである。

 三鬼は自らの無精髭をぽりぽりと爪で掻いたのち、座布団のように広い掌を振り上げると、


「むんっ!」


 村雨の近くの地面を、思いっきり引っ叩いた。

 ばずんっ、と、まるで皮袋が内から破裂したかのような音がして、少し離れた所で土が一塊、ぼっこりと盛り上がる。その喧しさに村雨は、「わっ」と叫んで跳ね起きた。


「起きたか」


「起きたか、じゃないっ! ……ったたた、あたたた……」


 目を覚ましてみると、頭頂は大きな瘤が出来ているし、衝撃が首となく背骨となく伝わっており、兎角全身の痛みに苦しむ村雨であった。が、己の痛みに悶えていられる状況で無いとは、鬼の形相から察せられた。

 ぎょろりと目玉をひん剥き、ぎりとかみ合わせた歯列には牙が二つ突き出し、墨で書いたが如き太眉の間には、幾層もの皺が寄り集まっている。


「何が、御座ったか」


 三鬼は、その場の誰にと定めずに問うた。

 尤も、蒼空も、子供達三人も泣き通しであるので、答えられたのは村雨だけである。

 仔細こそ分からぬが、蒼空が子犬を殺した事。その子犬が、子供達にとって、どうやら大切な存在であったらしい事。子供達が蒼空を刺そうとし、蒼空も迎撃しようと身構えた事。村雨がそれを妨げ、掴み合いになった事。そして――蒼空は子犬を「壊した」と言って、荷物のように運んできた事まで。


「ぬぅ……」


 一通り話を聞き終えると、三鬼は両腕を胸の前で組み、暫し思案に耽った。

 その顔は厳めしかったが、然し恐怖を与える類の表情では無い。むしろ村雨など、瘤の痛みに呻きながらではあるが、安堵をさえ感じるものであった。

 やがて三鬼は、座ったままで手を伸ばし、泣きじゃくる蒼空の肩に、巨大な手の半分だけを乗せて言った。


「蒼空よ、悲しいのか」


「悲しい……?」


 俯き泣いている蒼空は、聞き慣れぬ言葉を掛けられて、両目を手で擦りながら、視線だけ持ち上げて三鬼へ向けた。


「左様。拙者が聞くに、蒼空よ、お主は悲しんでいるように聞こえる。ただ、今までに一度も悲しまなかったが故、悲しいという事を表せぬ、それさえも悲しんでいるのだ。

 ままならぬよなぁ、周りが何を言うているかも分からんのだ。何ゆえに怒鳴られたかも、刃を向けられたかも分からんのは、さぞ苦しかったろうよ」


 三鬼の強面には、慈悲の顔が浮かんでいた。もしくはそれは、父親の顔とも呼ぶべき表情であった。

 癇癪を起こして泣き喚く娘を、宥めて落ち着かせる、低く静かで重い声。耳を傾けずにはおれぬ強さが、その芯に通っている。


「悲しいというのは、嫌な事なのだ。食事が不味い、人形が壊れた、そんな些細な事だとて、悲しい事だ」


「……人形、壊れたら……直すか、取り替える」


「直しも取り替えもせず、壊れたままの人形だけ持たされていたら、蒼空は嬉しいか?」


「………………」


 否を示すように、蒼空は小さく首を振る。


「そうだ。自分の大事なものを損なうのは、とても悲しい……嫌な事だ。誰かがお主の人形を壊してしまったら、蒼空は怒るか?」


「……ん」


 今度は、是を示し、頷く。その拍子に、蒼空の頬を伝っていた涙の雫が、たつん、と足の甲に落ちた。


「だから、友人であり家族である者を奪われた、彼等も怒った」


「でも……、だから、直してって……」


 蒼空は、幾度めか、「直して」という言葉で望みを現した。

 その言葉を使う度、浮彫になるのは、この少女の、それこそ〝悲しい〟人との乖離であった。

 もはや村雨も、蒼空に対し怒りを抱く事は無い。目を伏せ、その顔を見るのも辛いというように、草っ原の上で膝を抱えていた。


「殺した者は、還らん」


 そして、遂に三鬼は、蒼空に言った。


「生きているものの命を奪うのは、壊すではない、殺すという。そしてな、殺したものはもう二度と、同じように治す事など出来ぬのだ。丁度お主が、これまでに戦場で斬り捨てた、幾百の兵と同じように。

 ……ただの一度でも、斬り殺した兵士が、再び立ち上がって向かって来た事は有ったか?」


「――――――」


 蒼空は左右に首を振りつつ、元より白い顔を、更に青ざめさせていた。

 まだ、三鬼の言葉の全てを理解はしていない。だが、このままに聞いていれば、何か恐ろしい事を知るのではないかと、そういう予感に襲われていながら、耳を塞ぐ事も、超絶的な脚力を以て逃げ出す事も出来なかった。


「生き物が死ねば、二度と戻る事は無い。だから、残された者はとても悲しむ。もうその人間と遊んだり、何もせずただ並んで寝ていたり、同じ飯を食う事が出来なくなるからだ。

 この子供達も、だから嘆いたし、お主に対して激しく怒った……お主がきっと、自分がそうされたら、そうしたように」


「……ぁ、ぅ」


 無双の剣士たる狭霧蒼空は、戦場を恐れた事が無い。だのに、非力な子供の目に心を掻き乱され、怯えもし、また泣き喚いたのは如何なる訳であったか。

 知らぬものであったから、恐ろしかったのだ。

 他者の感情など、己の心に留める事もせず生きてきた蒼空が、他者によって心地良さを得られると知った時、他者から苦しみをも得るようになる事は必然であった。


「お主は、彼等を、深く悲しませたのだ」


 誰に習わずとも、幼子に共通する、心の動きがある。

 他者を傷つけた事を自覚した際、己を締め付けるように苛む呵責。

 〝悪い事をしてしまったのだ〟と知り、悪を為した己が恐ろしくて、また悲しくて――狭霧蒼空は一層高い声で、わあわあと泣き叫んだ。

 その口からは、或いは当人も気付かぬままに、「ごめんなさい」という謝罪の言葉が、幾度となく零れ落ちていた。

 大泣きに泣いて顔をぐしゃぐしゃにした蒼空を、そのままに泣かせておきながら、三鬼は座ったまま、子供達三人の方へ向き直った。

 彼等もまた、涙は枯れていない。理不尽に奪われた怒りも恨みも、僅かには緩んでいないだろう。

 だが――彼等から見て蒼空は、身体の強さはどうあれ、既に〝弱いもの〟であった。自分より弱く幼いものを、如何に恨みを抱いているとは言え、害する事が出来る程、彼等の心根は捩じれていなかった。


「すまぬ」


 その三人の前で波之大江三鬼は、地に額が触れる程、深々と頭を下げた。

 戦場に在りては、大鉞の一振りに、十数人の兵を血煙へ変える怪物――それが今、浮浪児の兄弟の前で、地に伏していた。


「此度の蒼空の失、元より赦される事でなく、拙者にも蒼空にも詫びるに足る言葉が御座らぬ――誠より、申し訳が無い。然しながらこの娘子は、拙者が主君と仰ぐ者の子であり、そなた達の刃にかかるを見過ごす事も出来ぬ。故に――」


 頭を上げ、鎧を外し、その下の大小袖の併せを払えば、その下には仁王像さえも凌ぐ、鋼の如き肉体が有る。それを三鬼は晒して、こう続けた。


「望むならば、蒼空でなく、拙者を刺し貫き給え。生来頑強にしてこの図体、手緩くば死にもせぬが、些かなりと気は晴れよう。……握りが甘くば指を痛める、留意せよ」


 結局、その身に刃が突き立つ事も、この日にこれ以上、誰かが傷つく事も無かった。






 蒼空は泣き疲れたか、波之大江三鬼の肩に担がれたまま、静かに寝息を立てていた。

 あの後、当然ではあるが、子供達が蒼空を許す事は無かった。

 親しきものを、例え子犬とは言え理不尽に奪われた事は、きっと彼等の内に幾年も、恨みとして残るだろう。

 だがその恨みは、その為に誰かを傷つけたいと願う程の強さにまで育たなかった。

 理由の一つには――やはり、死んだのが人でなく、犬だったという事もあるだろう。

 然しそれ以上に、誤って子犬を殺したのは、幼子よりも尚も幼い、白にして痴である少女だった。弱いものを憎み続ける事が出来る程、子供達は強くなかったのだ。


「……手間を掛けさせた」


「そうでもないよ」


 巨体で以て、ずしん、ずしんと足音を鳴らして歩く三鬼の横を、村雨が小走りで着いて行く。


「……哀れな娘なのだ、蒼空は」


「あんなのが父親じゃあ、ねぇ……」


 狭霧兵部を指して、村雨は〝あんなの〟と評したが、彼を主と仰ぐ三鬼は、村雨の放言を嗜めはしなかった。

 時折、ぽつり、ぽつりと、とりとめもない会話をしながら、二人は二条の城に着く。槍を構える門番は、数十間先に三鬼の巨体を見た時には、既に門を開け放っていた。

 場内は武家の城として相応しく、質実剛健、虚飾よりは機能という作りであるが、然し一切飾り気無いという事もなく、襖を広く使って描かれた山河の絵図に、洛中らしい雅を示している。

 太い廊下の左右に、それぞれ高峰の絵が聳えているのを見れば、まるで己が仙人となって、雲に乗り飛んでいるような趣さえ有った。

 そうして、天上の心地のままで階段を登り、天守閣より一つ下の高階に至ると、そこからは景色が違っていた。

 西洋風、なのである。

 壁の建材こそ日の本由来なのだが、襖の一つとてなく、代わりに幾つか、廊下側から引いて開ける扉が有る。

 床には絨毯が、汚れの一つと無く敷かれて、素足でも床の冷たさを感じない。

 下の階層では、殺風景を慰める美は襖の山河であったが、この階では額縁に西洋の宗教画が収まって、行儀良く壁に掛かっていた。


「うわぁ……」


 村雨も、よもや日の本政府の主城である二条城、その上層に、これ程に国外の流儀に染まった空間が有ろうとは思っても居なかった。驚嘆に声を上げると、その横を三鬼が、迷いなく一室の扉を開けて、巨体を押し込むように潜って行った。

 その後を追って村雨が入った部屋は、成る程廊下と釣り合いの洋室であったが、物の少ない空間であった。

 家具は寝台が一つと、刀を置く掛台のみ。他には、床に幾らか布の端切れと、棒切れとが散らばっている。

 人形を、それが纏う衣服ごと、手で引き裂いたものであった。

 先に村雨は、城中の様相に驚した。然し今は、絶句して、木製の腕を拾い上げるばかりであった。


「飽きると、壊すのよ」


 寝台に蒼空を横たえた三鬼は、部屋のど真ん中に胡座を掻いた。小山の如き鬼が座しても、蒼空の私室は、狭さを感じない程に広い。 


「人形も、衣服も、靴も、邪気無く喜んで選ぶというに、飽きれば呆気無く捨てる。何時ぞやは、部屋一面に散らばった人形の首で、足の踏み場も無い有様であった。……然し、悪気は無いのだ」


「……代わりが有るから?」


 乾いた、軽い、腕の模造品をその場に置いて、村雨が問う。「左様」と三鬼は頷きながら、眠る蒼空が寝返りを打つのを見ていた。


「人も、要らぬのだろうなぁ」


 鬼が、泣きそうな声で言った。


「何も不足せなんだから、何も大事に思わぬようになったのだ、蒼空は。誰も大事でなかったから、初めて人を斬った時も、顔色一つ変えず、欠伸をしておった。

 己の娘でないにせよ、否、ないからこそ、蒼空が不憫でならぬ。あの父でさえなければ、母さえあればと、こういう時に思わざるを得ぬ」


 三鬼が泣き言を言うと、その分厚く巨大な体さえが、小さく縮んだようにも見える。村雨は神妙な顔をして、その隣に在った。

 そこで村雨は気付いたが、蒼空の呼吸は、寝入った人間のそれよりは、明らかに回数が多かった。何時の間にか目を覚ましていたのである。


「どうだろね、蒼空」


「………………」


 呼べば、無言のまま、ぐるりと寝返りを打ち、蒼空は村雨の方へと向き直った。

 立ったままの村雨を、横になったまま見上げる目は、泣き腫らして赤くもなっていたが、然し何時ものように茫洋と、何処まで深いかも覗かせぬ目に戻っている。

 その目のまま、蒼空は右手を持ち上げた。

 刀を握る手でありながら、傷の一つと無い綺麗な指が、村雨の顔を指す。


「大事な、って……?」


「ん?」


 起きていたか、と呟く三鬼を余所に、蒼空が問うた相手は村雨であった。

 言葉少なの問いであったが、それは十分に真意として、村雨に通じた。


「無くしたくないもの、取られたくないもの、そういう〝物〟かも知れないし、遊んだり、歌ったり、好きな〝事〟かも知れないけど、私の場合はね」


 堂々と胸を張って、だが幾分かの気恥ずかしさを隠せない、はにかんだ笑いと共に、村雨は答えた。


「一緒に居たいって思う人の事」


「いっしょに……」


 寸時して蒼空は、寝台から降り、まだ眠気の残る足取りで歩いた。そして――答えの代わりと、俯く三鬼の首を抱いて、針のような髭を蓄えた面に頬を寄せた。

 三鬼は、人の倍も広い強面を一杯に使って、まずは目を丸くして狼狽え、次には口をあんぐりと開いて真意に至る。それから、ぐしゃぐしゃと顔が崩れ始めて、


「〝お父さん〟の面目躍如、だね」


「……喜ばせてくれるでないわ」


 鬼が、ぼろぼろと涙を流して泣いた。






 夜。

 やがて来る朔に備えるが如く、雲の陣が敷かれた、暗い夜であった。

 細く伸びた月を覆い隠す雲からは、光が時折、指の形も分からぬ程度に零れて来る。

 見通しの利かぬ、闇。

 その闇よりは、少しだけ光が多い空間が有った。

 事務方、兵員など、多くの人員を有する『錆釘』であるが、その内の誰も、招かれずには近付こうとしない一室――堀川卿の私室である。

 部屋の主たる堀川卿は、床に伏し、上座に主君を仰いでいた。

 堀川卿の五丈敷きの超長髪が、金色の海の如く〝男〟の周囲に広がり、屏風も無い部屋であるが、貴人の在るべき輝きばかりは有った。


「のう、堀川」


「はい」


「私の言は、何か間違うておったかな」


「…………」


 〝男〟は堀川卿に詰問する。

 脇息も使わず、脚を組んで背は伸ばし、何処を見るともなく目を泳がせて、〝男〟は答えを求めている。


「私は、この国を強く変える。百年、千年の大計の為ならば、この時代を捨てる事も、我が名を暗君として青史に残す事をも厭わぬ。それが、尊く生まれた者の義務であろう」


「………………」


 堀川卿は、まだ言葉を挟まなかった。〝男〟の問いに、続きが有る事を嗅ぎ取っていたからだ。

 果たして〝男〟は、貴人らしからず膝を崩し、平伏する堀川卿の方へと身を乗り出して言った。


「私は、正しいか」


 迷いの故は、己が言葉に対し向けられた、幾つもの目であった。

 狭霧蒼空が、子犬の亡骸を手に掴んで現れた折、その場に居合わせた村雨の部下達は、「酷い」と嘆いた。

 対して〝男〟は――「醜い」と評し、「酷い」という言葉は、蒼空という人間に対して向けられたものと解釈した。

 その時、向けられた目が、〝男〟に迷いを呼んだのである。

 理解出来ぬものを疎んじる色と、怯える色と――それらを塗りつぶして余りある、哀れみの色であった。


「私は何故、哀れみを施された。答えよ、堀川」


 〝男〟は、己の正当性を疑った事などなかった。道理に照らすならば、当代の数万人と引き換えに、未来の億を救う事は、全く正しい行いであると信じていたからだ。

 然し、人とも獣ともつかぬ者達が〝男〟に向けた目は、〝男〟からすれば、〝対話にも及ばず〟という落胆さえ混じったものと見えたのである。

 その故を知りたいと下された上命に対し、堀川卿は頭を垂れたまま――陰鬱と、響かぬ声で応じた。


「……僭越ながら。申し上げるにあたり、褒美を頂きとうございます」


「ふむ、褒美。そなたらしくも無いが、聞こう」


 〝男〟が、先を促した、その時である。

 床に広がった五丈敷きの金髪が、ひゅると巻かれて立ち上がり、〝男〟の周囲に幾つもの尖塔が如く立ち上がったのである。

 その先端には、髪の中に隠していたと見えて、それぞれに短刀が編み込まれて、切っ先を〝男〟に向けている。


「否と言わせぬ構え。乱心したか、堀川」


「如何にも。この嘆願、聞き入れられねば、御首掻き切って、その血で偽勅をしたためまする」


 堀川卿は、床に面していた顔を上げた。


「我等への褒美として、狭霧兵部和敬討伐の勅を頂きたく」


「……ほう」


 血の気は引いて、だが理知は些かも消えていない、凄絶な美貌が其処に在った。

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