第99話
「よ~し、いいぞ。今のゴールで後半に弾みがついた。前半を終わって1対2ならまだ逆転は可能だ。」
ハーフタイムでベンチに集まってきた選手達に、監督の富田が声をかけた。
和人達1年生は選手に飲み物を渡したり、足をマッサージしたりと忙しく動き回っている。。
「最後のパスの連携は、なかなか良かったな。」
英に足をマッサージされながら、キャプテンの田中が隣に座って汗を拭いている矢島に言った。
「確かに、あの連携は気持ちよかったですね。北高のディフェンスをおちょくった感じで。後半はああいうのを増やしたらどうっすか?」
「そうだな、ショートパスでかく乱するか。」
1点負けているとはいえ、前半終了間際に1点を返したことでチームの雰囲気はいい。
次の1点が西城に入れば番狂わせの可能性も出てくる。
「お前はこのゲームをベンチで見ていてどう思う?」
仰向けに倒れている田中が、右足をマッサージしている英に尋ねた。
「え?あ、はい。いいようにやられています。まだ1点差っていうのが不思議なくらいに。」
「はっきり言うな~。でも事実か。じゃあ、お前だったらどうする?」
「そうですね、とにかく杉内へのマークを厳しくします。そこをどうにかしない限り流れは変わりません。」
「なるほど。で、攻撃は?」
「もっとパワープレーをしてもいいんじゃないでしょうか。パスをつないで前線までたどり着くのは、北高相手には厳しいと思います。大岩さんはセンタリングが正確だから思い切ってオーバーラップしてみるのも面白いかも。」
「田中さん。」
矢島が二人の会話に入ってきた。
「今の話、試してみる価値あるかもしんないっすね。」
田中が無言でうなずく。
「園山、お前監督にアドバイスしたらどうだ。」
「えっ、監督に?」
「そうだ!俺から監督に言っておくよ。園山の意見は聞く価値ありってな。だから戦況に合わせて思っていることを監督に話すんだ。」
そう言うと田中は監督の富田の方へ近づき、早速話をし始めた。
「責任重大だぞ~。変なアドバイスをしてぼろ負けしたら、許さねえからな。」
矢島は鋭い眼光を英に向けた。
「そんな・・・」
英の顔がこわばる。
「ようし集合だ!」
富田がみんなを集めて話し出した。
内容は、英が田中に話したこと、そのものだった。
「・・・以上だ。中途半端なことはするなよ。よし、行ってこい!」
富田の号令で、選手たちがグラウンドに散らばった。
「園山。」
「はい。」
「お前は俺の横に座れ。わかっているな、試合に出れない分頭を働かせ。」
「わかりました。」
英は和人にもこっちへ来て座るように、目で合図をした。
(監督の近くに座るのは居心地が悪いけど、仕方ないか。でもちょっとじらしてやろう)
和人はわざと視線をそらした。