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第92話

「松永はものすごくうまくなっているなあ。体ができてきたから動きがキレるようになってきたし。ところで英、あの筋トレは誰に習ったんだ。足腰が強くなる上にボールコントロールも上達するんだから、いい練習じゃねえ?」

和人と英が緑丘中の後輩たちとサッカーの練習をした帰り道だった。

後輩と接する英は、いつものように明るかったのだが、和人と二人っきりになると黙りこんで何事か真剣に考えている様子だった。

和人は歩きながら話し続けた。

「それに桑田のオーバーラップはかなりさまになってきただろ。センタリングが特にいいって思わないか。けっこういいボール蹴るしさ。」

英がふっと笑った。

普段無口な和人が気を使って無理に話しかけていることが、英はうれしかった。

「そうだ、やっぱり和人にだけは話しとくよ。」

和人は歩くスピードをゆるめた。

「何を?」

「今日の新浜とのゲームのことさ。」

「・・・」

「あの反則さ、あれ実は狙ってやったことなんだ。」

「え?」

「残り10分くらいで3点リードしていた。負けるわけがない状況だったから、相手にわざと抜かせて、後ろから足を掛けた。そしてレッドカード。すべて計算どおりだったんだ。」

「何で、何でそんなことを!」

「決勝戦、俺は出ないからだよ。」

和人は眉間にしわを寄せた。

「何だって?」

英は北高と戦うことをずっと楽しみにしていた。

早い段階で北高の強さを身をもって知ることで、チームの意識が飛躍的に上がる。

だからたとえ負けるとしても、この大会北高と戦うまで勝ち進んでおかなければならない。

英は何度か和人にそう話していた。

それなのにゲームに出ないとはどういうことだろうか。

「・・・でも、たとえ出られないとしても、みんなに理由を話せば済むことじゃないの?」

「みんなには話せない理由だってことさ。適当な言い訳も考えられなかった。だから俺なしで決勝戦を戦うっていうことを、できるだけ早くわからせる必要があったんだ。」

みんなには話せない理由?

決勝戦よりも大切なことって?

和人は英の次の言葉を待った。


「夢を見たんだ。」

「夢?」

和人にはすぐに予知夢のことだということがわかった。

英はうなずき話しを続けた。

「北高との決勝戦の日だった。・・・千波が交通事故に遭ったんだ。」

「え!?」

「交通事故だ。黄色いスポーツカーみたいな車に撥ねられた。」

「そ、それで?」

「足が、右足が複雑骨折。一生治らないって医者から言われたんだ。それに顔も少し変形してしまう・・・」

「・・・」

和人は少しの間、何も言うことができなかった。

思いもよらないことだった。

あの千波が交通事故に遭うなどとは。

「だからその日は千波と過ごすつもりだ。交通事故になんか遭わないように、俺が守ってやる。」

だが和人にはある疑問がわいた。

「ちょっとわからないんだけど・・・、例えば千波ちゃんにそのことを教えてあげれば済むことじゃないの?今日は一歩も外に出るなって。」

「もちろんそれは考えた。でもあいつ、予知夢のことを全然信じていないんだ。きっとそんなことは無視して出かけるに決まってる。」

「・・・」

「みんなにはすまないと思ってるよ、本当に。でも、俺バカだからさ、こんな方法しか思いつかなかった。」

別れ道に差し掛かった。

和人は英とは違う方向 ― 緑丘駅へ向かわねばならない。


「和人、北高とのゲームでは2年の杉内って人をよく見ておけよ。そして太刀中だ。ほら、中学生の時に一度戦っただろ?葉山中の背の高いフォワードさ。」

「えっ?」

「ああそうか、和人は葉山戦には出てなかったのか。でも背が高い奴だからすぐにわかるよ。そして杉内さんは、・・・杉内は、トリッキーなプレーをする。とにかくこの二人から眼を離すな。杉内と太刀中、この二人が西城にとって、いや全国の高校サッカーにとって厄介な存在になるんだから。」

和人は答えない代わりに大きくうなづいた。

英が北高のことをなぜそれほどよく知っているのかは分からないが、おそらく英の言うことに間違いはないだろう。

そして英は杉内、太刀中を擁する北高に負けないチームを作ろうと考えている。

(でも英は今日のレッドカードでチームのみんなから少しきらわれたみたいだし。何かいい言い訳が見つからないかなあ。)

英と別れ、駅へ向かいながら和人は頭を抱えた。

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