第73話
キックオフと同時に、また2年生の怒涛の攻めが始まった。
和人は孤軍奮闘の活躍で、何度も味方の危機を救う。
「和人、そんなに頑張らないでいいって。」
英が駆け寄ってきて囁いた。
「わかってるけど、手を抜くっていうのはどうもできないんだ。それにこれだけ攻められればいやでも点は取られるよ。」
「だといいんだけどな。タッキーにあと1点入れさせてやらないといけないんだ。そのためには2年生に点を入れてもらわないと。な、頼むよ和人、力を抜いてくれ。」
英は手を合わせて頼んだ。
周りから見れば、和人の活躍に感謝しているように見えたに違いない。
その願いが通じてか、後半7分でようやく2年生に3点目が入った。
「おい、本当にもう1点入れさせてくれるんだろうな。」
センターサークルにボールをセットしながら滝本が言った。
「まかせとけって、お前こそ俺のパスに反応しろよ。」
そう言いながら英はボールを軽く蹴って後ろに下がった。
あくまでも英は中盤からやや下がり目でプレーしたいらしい。
滝本がドリブルで切り込む。
鮮やかなフェイントで一人を抜くと、3年生から「お~」という歓声が上がった。
だがすぐに2人目、3人目が詰めてきた。
「よし、囲め。」
矢島も近寄って来て、滝本の動きは封じられた。
パスを出す余裕もない。
そしてボールは奪われた。
「なかなかやるようだが、一人だけじゃ攻めきれないぜ。」
捨て台詞を残し矢島は攻め上がった。
「タッキーとコンビプレーで攻めていけばいいのに。」
引き過ぎる英に、和人が言った。
「目立つのはタッキーだけでいいさ。まだ入部して3日目だぜ、先輩を敵に回したくないよ。ほらおいでなすった。」
中央突破を狙って2年生がパスを使いながら上がってきた。
藤村の長身を警戒して低いボールでパスをつないで来る。
「和人、ボールを奪ったら俺にパスだ。」
「わかった。」
英がマークに着き、和人がパスコースをふさいだ。
英が抜かれればキーパーと1対1だ。
しかも矢島が追いついてきた。
英は矢島を警戒して、矢島の方に体を少し移動させる。
その隙をついて、敵は英の逆サイドを抜きにかかった。
(ひっかかった。)
そこにはいつのまにか和人の姿があった。
中学の時から試合でピンチになった時によく使っていた二人のコンビプレーだ。
和人はボールを奪うとすかさず前を走る英にパスを出した。
ボールを受けた英はドリブルで進みながら前方を見た。
先ほどと同じパターン。
滝本がディフェンスの裏を狙って、何度もフェイントをかけながら飛び出すタイミングを計っている。
(ここだ!)
滝本が手を挙げた瞬間に、英は縦にふわっとしたボールを蹴りだした。
少し大きいんじゃないかと、そこにいたほとんどの者が思ったが、滝本は相手のキーパーよりも先にボールを触った。
そしてその瞬間、キーパーは抜かれていた。
またしても無人のゴールに滝本がシュートを決める。
「風に戻されたか。2年にはアンラッキーだったな。」
キャプテンの田中はそう解説した。
だが、滝本の顔には先ほどと同様に笑顔はなかった。
(アンラッキーだって?とんでもない。キャプテンにはバックスピンをかけたあのパスがわからなかったのか?しかもまたドンピシャのタイミングだ。・・・あいつ、いったい何者なんだ?)
ゲームはその後も2年生が押し気味で進んだ。
滝本も英も点を取ることは全く考えていない。
2年生がもう1点入れるか、このまま3対2で終わるかのどちらかだと誰もが思った。
だが、終了間際に思わぬ展開が待っていた。
それは和人のロングシュートだった。
地を這うような強烈なシュートがゴールを見事にとらえた。
3対3の同点。
そして終了のホイッスル。
うお~っという声が3年生から上がる。
2年生は呆然とゴールの網にかかっているボールを見つめた。
1年生からも喜びの声は聞こえなかった。
不思議な空気がコートを漂っていた。
「なんてことをしてくれたんだ、和人。俺は知らねえぞ。」
英がすれ違いざまに和人にぼそっと言った。
「えっ、そんな・・・。だって同点じゃないか。勝ったわけじゃないぞ。」
「さあな、確かに引き分けの場合のことは決めてなかったけど、この雰囲気は・・・。」
「まさか、PK戦?」
「まさか・・・な。」
誰もがキャプテンの言葉を待っていた。
田中は周りを見渡し一つ咳をすると大きな声で言った。
「引き分けだな、PK戦は無し。危なかったな2年生。」
和人が大きなため息をついた