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第66話

翌朝、和人が食堂で朝食を食べていると、おかみさんが話しかけてきた。

「安井君はごはん食べないのかしら?一人だけまだ来ていないんだけど。」

「えっ、まだ食べてないんですか?俺今日少し遅かったから、鉄平もう済ませたと思っていたんですけど。」

「もしかしてお寝坊しているのかしら?学校二日目から遅刻なんて大物になるかもしれないわね、あっはっは。」

「ご馳走さま。俺鉄平の様子見てきます。」

和人はそう言うと、食器を洗い場に持っていった。

洗い場ではおやっさんが懸命に食器を洗っている。

「よし、全部食べたな、合格!」

和人の食器に食べ残しがないのを見て、おやっさんがにこっと笑った。


和人は鉄平の部屋のドアをノックした。

「鉄平、起きてるか?」

反応がない。

もう一度ドアをノックしようとこぶしを挙げた時、勢いよくドアが開いた。

「やべっ!寝坊し、うわっ、何するんだ和人?」

鉄平の目の前に、歯を食いしばってこぶしを振り挙げている和人の姿があった。

和人は振り上げた手で、白々しく自分の後頭部をかいた。

「・・・いやなに、ちょっと頭がかゆくて。」

「ふうん、それにしてはちょっと迫力があったな。まあいいや、先に行っててくれ。俺速攻で飯食っていくから。」

「飯食ってる暇あるの?」

「食わなきゃ昼まで持たないんだよ、じゃあな!」

鉄平はそう言うと、パジャマのまま食堂へ走って行った。


和人は仕方なく一人で行くことにした。

鉄平のほかにも1年生は4人いたが、もう出てしまっているようで誰もいなかったからだ。

バス停に近づくと、やはり昨日の女の子がベンチに座ってこちらを見ていた。

和人が目を合わせないように通り過ぎようとした時、その女の子は立ち上がった。

「あのう。」

「えっ?」

女の子を見た和人の顔は一瞬で真っ赤になった。

「私、大浦女子高の1年で中森ゆきといいます。」

ゆきと名乗るその女の子は、いきなり自己紹介をした。

そしてじっと和人の目を見つめている。

和人は突然のことにびっくりして目をぱちぱちと瞬いた。

(いきなり自己紹介なんて何のつもりなんだ。その後に続く言葉はないのかよ。)

「あのう、・・・あなたの名前は?」

「えっ?えと、橘和人。」

名乗る理由はなかったが、和人は反射的に答えた。

「橘和人さん、・・・よろしくね。」

「はあ、・・・よろしく。あ、俺急いでるから、じゃあ。」

和人はいたたまれなくなって、学校の方へ歩き出した。


(いったい何だというんだ。何で話しかけてくるんだよ。どこかで会ったことがあるのか?)

和人は理由を知りたかったが、尋ねる勇気はなかった。

(それにしても、・・・昨日見たよりは少しかわいい感じがしたな。)

和人の顔の紅潮はしばらく続いた。

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