第62話
学校へ着くと、園山英と前川徹也が玄関の前で和人を待っていた。
二人とも和人と同じ緑丘中学校の卒業生で、電車で通っている。
和人の親友だ。
「よう、和人。お前2組だぞ、俺と一緒だ。」
顔を合わせるなり、英が言った。
「英と同じ?腐れ縁だな。」
和人が笑った。
「ちくしょう、俺だけ隣の1組だ。」
徹也は不服そうだ。
「この二人もサッカー部に入るんだ。こっちの少し男前なのが園山英、お笑い系の顔が前川徹也だ。」
和人が鉄平に二人を紹介した。
「誰がお笑い系だって?それに俺はサッカー部に入るってまだ決めてないぞ。」
「いや、必ず入ってもらう。北高を倒すには絶対にお前の力が必要だ。お笑い系の顔だけど・・・」
英がにやりとしながら和人に同調した。
「北高って北松高のこと?君たち本気であの北高に勝つ気なのか?」
「和人、誰だこいつ?」
英が少しむっとして聞いた。
「ああ、俺と同じ御萩野寮の・・・。」
「ごめんごめん、馬鹿にしたつもりはないんだ。ただびっくりしただけで。俺、北部の福浦中から来た安井鉄平っていうんだ。よろしく。」
鉄平があわてて弁解した。
「鉄平は俺たちとうまが合うと思うよ。まだ知りあって3日しか経ってないけどいいやつだってわかるんだ。」
「ふうん、ま、いいや、和人がそう言うんならそうなんだろ。じゃ鉄平君のクラスはどこか見てみようぜ。」
英が玄関の扉に張られているクラス別の名簿を指さした。
1年生は10クラスあるが、鉄平の名前はすぐに見つかった。
1組だったからだ。
「徹也と同じか。お前ら鉄徹コンビと名付けてやるよ。そろそろ教室に行ってみようぜ、和人。」
「そうだな英。鉄徹コンビも行こうか。」
「鉄徹コンビねえ、パッとしないネーミングだけど、行きますか鉄平君。」
「うん、でもよかった。同じクラスに知り合いが一人いて。」
「知り合いねえ?今知りあったばっかりだけどな、ははは。」
徹也の笑い声で、和人は少し安心した。
(徹也との相性もよさそうだ。二人とも運動神経が抜群だから、気っと仲良くなるだろう。)
和人と英は2組の教室に入った。
教室の机の上にはそれぞれ名前が書かれた紙が貼ってあった。
どうやら男女の別関係なしに、名字の五十音順で座席が決められているようだ。
そのおかげで、和人の席は英のすぐ後ろになっていた。
「ついてるぜ、センコーから当てられた時はフォローしてくれよな、和人。」
「ここまで来ると、本当に腐れ縁じゃないかと思うよ。」
二人は自分の席に座った。
「じゃじゃじゃ~ん。」
英がにやりと笑いながら鞄の中から何やら取り出した。
「サッカーのスパイクじゃないか。俺だって持ってきてるよ、英。」
「ふん、これは俺が履いているスパイクじゃないだろ?このスパイクは徹也のだ。」
「徹也の?」
「そう、何を隠そう今日4月8日は徹也の誕生日なのだ。そのプレゼントとして、こいつを渡す。するとどうだ、ここまでされたらサッカー部に入らざるをえまい!」
「へえ、そんなの買う金持ってたのお前?」
「もちろん安物だよ。でもまあ、初心者にはこれで十分だ。キーパー志望だしな。それに半額は和人も負担しろよ。」
「ええ?」
「1800円だけだよ。」
「ええ?2倍すると3600円か、それはまた、・・・安いな。」
「本人には6000円したっていうことにしようぜ。」
英が右目をパチンと閉じて笑った。