第6話
「ふう、これで何とかいけるかな。」
和人は椅子に座ったまま大きく伸びをした。
携帯の電池は、3分の1に減っていた。
電池が切れる前に再起動しなければならない。
電池が切れたらどうなるのか、それはわからなかったが、試してみるには余りにリスクが大きった。
和人はSTOPボタンを押した。
― 時が再起動した。
夕食までは少し時間がある。
和人はクロベエを散歩に連れていくことにした。
和人の姿が見えるとクロベエは、ワンワンと吠えてはしゃぎまわった。
「クロベエ、お座り。」
クロベエはハッハッと荒い息を吐きながら、きちんと「お座り」をしてリードをつけてもらった。
「よし。」という和人の声で、クロベエが駆けだした。
和人はクロベエに引っ張られるようにして、軽く走った。
散歩のコースはいつも決まっている。
車の通りが少ない道を約30分かけて歩く。
10分ほど行くと、柴犬のような栗色の小さい犬を連れた女の子が、前方からこちらへ向かってきた。
和人はその女の子を知っていた。
1学年下でバスケット部の月野という苗字の子だった。
いつも明るく愛嬌のある子で、2年生はもとより3年の男子の間でも可愛いと評判の女の子だ。その女の子との距離が10mにまで近くなった。
すると、その柴犬らしき犬が、クロベエに向かって吠えだした。
クロベエも少し止まって身構えたが、飼い主が柴犬を引き寄せているのを見て、安心したのだろう、前方を向きゆっくりと歩き出した。
「だめよ太郎、だめ。」
月野という女の子が必死でなだめるが、吠える声はますます激しくなってくる。
ちょうどすれ違う瞬間、和人と月野の目が合った。
月野は和人を見て、申し訳なさそうに軽く会釈をした。
和人も会釈を返す。
と、その瞬間、
「きゃっ!」
月野が短い悲鳴を漏らした。
手から紐が離れ、太郎という犬がクロベエに向かってきたのだ。
クロベエは素早く身構え、「ぐぅぅぅぅ」と低く吠えて威嚇した。
太郎という犬は吠えながら、クロベエの1メートル程前を、跳ねたり飛びつきそうな姿勢をとったりして、右へ左へめまぐるしく動いた。
「大丈夫。クロベエは自分より弱い相手をけがさせたりしないから。」
和人は月野の方に向かって(なるべく目を合わせないようにして)話した。
実は和人はかなりのあがり症で、女の子の顔を見ながら話をすることができなかったのだ。
月野は「すみません!」と言いながら犬のひもを捕まえようとしていた。
だが、なかなか捕まえきれない。
「捕まえた!」
月野はようやく引き紐を捕まえて、ぐっとクロベエの方から引き離した。
「本当にすみませんでした。」
「ううん、大丈夫。」
和人は、少しだけ勇気を振り絞り月野の顔を見てみた。
月野はすまなさそうに、ちょっとはにかみながら和人を見ていた。
左のほほにできたえくぼがチャーミングで、和人の顔はみるみる真っ赤になった。
「いくぞ、クロベエ。」
和人は急にバツが悪くなって、月野に背を向けて歩きだした。