第59話
学校が終わると、和人は英の誘い(サッカー部の練習)を断って、まっすぐ家に帰った。
昨日、父、浩一郎は遅くまで仕事をしたため、和人の合格祝いをすることができず、今日焼き肉屋で食事をしようと持ちかけたからだ。
父が帰るまでの間、和人は犬のクロベエを散歩させた。
最近は、千波と出くわすことがほとんどなくなっていた。
というのも、千波の所属するバスケット部の練習が夜遅くまで続くため、太郎の散歩は千波の父がほとんど受け持っているからだ。
クロベエを30分ほど散歩させると、和人は部屋に戻り机の上でマンガを読み始めた。
10分ほどたった時、突然、和人の視界が光で包まれた。
(またフラッシュだ。)
和人は眉間にしわを寄せ目を瞬かせた。
そしてゆっくりとマンガに目を戻す。
(あれ?なんだこの紙は?)
開いていたページの間に、一枚の紙が挟まっている。
その紙はおよそ5センチ四方に手で切りぬいたようなノートの切れ端だった。
和人がそれを引き抜いてよく見てみると・・・。
「んぬ!?」
思わず声を発していた。
そしてすぐに周りを見回した。
もちろん誰もいない。
だがその紙に黒のボールペンで書かれている文字が和人の目を凍りつかせた。
『いたずらに時を止めるんじゃない!S』
和人は窓の前に立ち、外を見た。
誰もいない。
ただ、クロベエがけたたましく吠えているだけだった。
(どういうことだ?フラッシュが起きる前にはこんな紙はなかったはずだ。あの一瞬・・・、あの一瞬の間に誰かがこの部屋にやってきて、この紙を置いた。・・・できるはずがない、普通であれば!だがもしも、もしもだ、その誰かが時を止めたとしたら?)
和人はこの仮説がほぼ間違いないだろうと感じていた。
(・・・つまり俺のほかにも時を止めることができるやつがいる。そしてそいつは俺が時を止めれると知っていて、さらに俺の家のことまで知っているんだ。)
和人の頭はめまぐるしく回転した。
(一体そいつは何者なんだろうか?そして、時を止めることは何か危険があるのだろうか?)
和人はずっとその紙を見つめていた。
そこに書かれている文字は、決して下手な字ではないが、ワープロ文字のように丁寧に書かれている。
もしかしたら大人の字ではないのかもしれない。
男なのか女なのか、それすらもわからない。
そしてもうひとつ、気になることがあった。
それはフラッシュが起きたタイミングだ。
さっきのフラッシュの時に時が止まったとしたら、フラッシュの光はやはりあの「時を止めるときに発生する光」と同じものではないか。
それならば、今まで自分で時を止めていないときに発生していたフラッシュは、誰かが時を止めた瞬間だったと言えるのではないのか。
和人がそこまで考えた時、背後に人の気配を感じた。
あわてて振り向くと、浩一郎だった。
「何度呼んでも返事がないから来てみたんだが、ぼーっとしてどうしたんだ?」
浩一郎の顔は少し不思議そうだ。
「ううん、何でもない。お帰りなさい。」
和人は手に持っていた紙を元に戻してマンガの本を閉じた。