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第56話

「今日はお迎えがなかったな、英。」

3人が緑丘駅に着くと徹也が言った。

「ああ千波なら、部活に行っているよ。今日は俺の方が迎えにいかなくちゃならないんだ。結果を早く知りたいって言うから。今日は忙しいよ。昼からは消防署で人命救助の表彰を受けなくちゃならないし、夜は家族で食事に行くことになっているし。」

「外食かよ、いいな俺んちも行かないかな。和人の家はどうだ?」

徹也は言った後しまったと思った。

和人の母は亡くなっているからあまり聞かない方が良かったかもしれない。

「そうね、お父さんに言って寿司でもとってもらおうかな。」

和人の声が明るかったので、徹也はほっとした。

「それじゃ俺は学校に行くから、また明日な。」

英は二人にそう告げると、学校へと向かった。


「ところでさっき夢がどうのって話をしてたけど。」

「うん、それがな英のやつ予知夢を見るそうなんだ。」

「予知夢?それって、これから起きることを夢で見るっていう、あれか?」

「そうらしいんだ。たぶん信じないとは思うけど。」

「当たり前だろ。お前英に騙されてるんだよ。ほんとにお人よしだな。」

「でも、俺のお母さんが死ぬっていうことを知っていて、病院へ行くように言ってくれたし、サッカー部の桑田が大怪我するのも夢で見ていたらしくて、保健体育の教科書に応急手当のページがあっただろ?そこをしっかり勉強していたんだ。」

「ふうん、何となく説得力あるな。」

「だろ?ありえないはずだけど、俺は信じてるんだ。」

「予知夢ね~。やっぱり信じられないなあ・・・。」

徹也は腕組みをして首を横に振った。


しばらく歩くと、100メートルほど先に建設中の高層ビルが見えた。

分譲マンションらしいが20階以上の高さになるらしい。

今はまだ10階くらいしかできていない。

「この辺りはかなり開けてきたな。昔はほとんどが田んぼや畑だったらしいぜ。だから、元農家の土地成金が結構いるらしい。」

「へえ、そう言えば徹也のおじいさんも農家じゃなかった?」

「農家だったけどもう畑は家庭菜園用の1か所しかないよ。他の畑はまだ地価が安い時に売っちまったらしいんだ。こんなに高くなるのを知ってたら売らなかったのにって、悔しがってたよ。」

「・・・徹也、あれなんか変じゃないか?」

ふいに和人がはるか前方にある高層ビルの上の方を見詰めながら言った。

表情が少し硬くなっている。

徹也は和人の目線に目をやった。

「あれって?」

「ほらクレーンだよ。鉄筋をいっぱい釣り上げているだろ。」

「うん、あのクレーンがどうかしたか?」

「鉄筋が揺れているように見えないか?」

「ん?そういえば少し揺れているな。上空は風が強いんだろう。それが?」

「おかしいと思わないか?だって作業をしている人の姿が見えないじゃないか、鉄筋を釣り上げているのに・・・。もしかしたらクレーンの中にも人がいないかもしれない。」

「・・・ってことは、もしかしたらあの鉄筋が抜け落ちる可能性があるってことか?まさか、そんなことはないだろ?あの状態で作業を中止するわけないよ。だってあれが抜け落ちたらビルの横の道路に落ちてしまうじゃないか。」

和人と徹也の目はじっと鉄筋を見つめた。

鉄筋の束は二か所を縛り、その二か所を1本のワイヤーで結んでいる。

そのワイヤーの中間をクレーンのフックに引っかけてあるようだ。


やはり鉄筋の揺れは少しずつ大きくなっているように見える。

「あっ!」

二人は同時に声を上げた。

わずかだが鉄筋の縛り目が横にずれた。

「やばい・・・、本当に落ちるかも!」

徹也の声だった。

道路にはぽつりぽつりと人の姿が見えるし、車道はひっきりなしに車が走っている。

「急ごう!みんなに危険を知らせるんだ!」

徹也は和人にそう言うと走り出した。

和人も後を追う。

和人は走りながら右手を上着の内ポケットに忍ばせた。

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