第50話
「はい、終了です。鉛筆を置いて下さい。」
最後の教科が終了した。
英は天井を見上げ、目をつむりふうっとため息をついている。
「英、どうだった?」
教室から出るなり、和人が駆け寄った。
「良かったのか、悪かったのか、わからないよ。でもやれるだけはやった、まちがいなく。和人は?名前書き忘れなかっただろうな。」
「当たり前だろ。」
「何だつまんねえの。100%合格じゃん。こんな時は『え?やべえ書いてないかも!』って焦ってみせるもんだぜ。」
「そ、そうか・・・。」
「真面目に考えんなよ、まったく。お前は絶対に漫才師にはなれないな。」
そこへ徹也が駆けつけてきた。
「よう英、120%の力は出せたか?」
「115%だ。」
「微妙だな・・・、せめて118%は欲しかったのに。」
英が和人の方を見て笑った。
「な?徹也ならその才能があるだろ?」
「確かに。」
さすがと言わんばかりに和人が頷いた。
「ま、後は天に祈るのみだ。合格発表は来週だろ?また3人で来ようぜ。」
英の提案を二人は即座に了承した。
「さーてと、和人、これからサッカー部の練習に行かないか?」
「ええ?嘘だろ?俺、精神的に疲れたから今日はやめとくよ。でも、英は元気だな。」
「こいつはマグロみたいなもんだ。」
徹也が突拍子もないことを言った。
「マグロは常に泳いでないと死んでしまうんだ。英の場合はサッカーだけどな。」
「俺は魚並みか?まあいい、今に見てろ。俺たち西城高校が北高を倒して全国大会に行くんだ。そして国立(競技場)で逆転のシュートを決める。」
「国立だ?北高を倒す?その前に西城に合格するっていう奇跡が必要だろ?何だその超ポジティブな発想は!」
「ふっ、蒼いな徹也君。願いの強いものが勝つと決まっているんだ。織田信長を見てみろ、尾張の小大名から天下を統一したじゃないか。」
「じゃあもし俺や和人が西城に合格してお前が合格しなかったら、お前の願いが弱かったってことだな。」
その一言で英の顔はしかめっ面になった。
「ぐっ・・・。それは・・・、その・・・、参りました!」
「はっはっは、聞いたか和人。蒼いのは英の方だったぜ。」
3人は町田駅から電車に乗って緑丘駅に着いた。
和人は改札の手前で一人の女の子がこちらに向かって手を振っているのに気づいた。
千波だった。
厚手のスカートにハイソックス、薄いピンクのハーフコートを羽織っている。
「冬だというのに誰かさんは暑いね~。こっそり待ち合わせか?」
徹也が英の方を見て言った。
「待ち合わせなんてしてないよ、こっちがびっくりだ。」
3人は改札を抜けた。
「どうだった?できた?」
千波が寄ってきて真ん丸な目で英に話しかけた。
「俺の全身全霊をかけてがんばった。結果は・・・『神のみぞ知る』ってとこだ。」
「く~っ『神のみぞ知る』ときたぞ。カッコつけやがって。さあ和人、俺たちお邪魔虫は先に帰るとしようぜ。」
「そうだな。」
和人と徹也は足早に歩きだした。
英と千波は立ち止まり何事か話しこんでいる。
すぐに徹也が和人へ小さな声で言った。
「おい、英のやつ俺たちを止めないぞ。ふつう止めるよな、さっきまで一緒にサッカーの練習に行こうぜって和人に言ってたくせによ。」
「まったくだ。こんなに薄情な奴だとは思わなかったぜ。」
「ちくしょう!彼女が欲しいな~。和人もそう思うだろ?」
「今の英を見ていたら、確かにうらやましい。」
和人が振り返って二人の方を見た時だった。
一瞬、白くまばゆい光が和人の体を包んだ。
和人はとっさに右手で両目を押さえた。
(まただ。またさっきの光だ!)
周りを見渡しても、誰ひとりとして和人と同じような反応をする者はいない。
「どうしたんだ和人?まさかまた頭の上が光ったって言うんじゃないだろうな。」
和人の不思議そうな顔を見て徹也が聞いた。
「いや、何でもない。ちょっと考え事をしただけだ。」
和人はほほ笑んだが、少し顔が引きつっていた。