第5話
家に着くと、和人はすぐに携帯電話をかばんから取り出した。
(今日も頼むぜ、ケータイ君)
携帯電話のSTOPボタンを押そうとしたその時、和人は大事なことに気がついた。
電池表示が3分の2に減っていたのだ。
(そうだ、お父さんの携帯の充電器を借りるとしよう。この機種に合ってくれればいいんだけど。)
母・由紀枝はまだデパートの勤務から帰っていなかった。
週に3度は夕方の勤務になっていて今日はその「遅出」の日だったのだ。
父・正和の帰りはいつも7時頃だ。
和人は居間にある正和の充電器を自分の部屋に持ってきて携帯電話に差し込もうとした。
だが、残念なことにその充電器の差し込み口は若干大きくて合わなかった。
(困ったな、どれくらいもつんだろう。あと1日だけもってくれればいいんだが。)
和人が最も恐れたのは、時間を止めた後で電池が切れてしまうことだった。
時間を「再起動」することができなければ、和人は止まった時間の中で、誰とも会話することなく一人寂しく死んでいくことになるかもしれない。
(まてよ、昨日は3回も時間を止めた。しかも3回目はかなり長かったはずだ。おそらく1日分くらいの時間。それでも電池表示が3分の1しか減っていないということは、あと1回くらいの使用は十分大丈夫だろう。電池表示を見て、3分の1になったら「再起動」すればいいんだし。)
和人は決心した。
そして携帯電話をにらみつけるようにして、STOPボタンを ― 押した。
携帯の画面が目がくらむような白い光に包まれ、その中に「Time must stop!」という赤い文字が浮かんだ。
そして―。
和人は机の上の目覚まし時計を見た。
秒針が止まっている。
時間は確かに止まったようだった。
(電池の表示は?)
はっとして目覚まし時計から携帯電話へ目を移した。
「はぁ…」和人の口から安どの声が漏れた。
電池表示は3分の2のままだった。
「さて、しっかり勉強するぞ!」
和人は思わず声を出した。