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第46話

「何年振りかな、遊園地に行くなんて。」

「私もよ、大学3年生の時以来だわ。」

30代後半くらいの夫婦が、歩きながら話している。

「私は行ったことないのよね?」

お母さんと手をつないでいる小学校2年生くらいの女の子が、二人を見上げて言った。

「もちろん初めてよ。楽しみね、いっぱいいろんな乗物に乗ろうね。」

「でも怖いのは絶対に乗らないからね、絶対乗せないでね。」

「お父さんも怖いのは苦手だなあ。ジェットコースターなんかに乗る人の気がしれないよ。」

「え~、怖いからいいんじゃない!ぐるんぐるん回るジェットコースターに私は乗るわよ。」

「お母さんだけ乗ればいいよ。俺は加奈といっしょにお母さんが乗るとこ見てるから。」


やがて3人は緑丘駅へと着いた。

「さて、切符売場はこっちだったな。」

「待ってあなた、加奈ちゃんに切符を買ってもらおうと思うの。加奈ちゃん、できる?」

「う~ん、できるかな~?」

「大丈夫よ、ほらあそこの販売機にこの千円札を入れて、350円て書いたボタンを2回押すのよ。そうしたら350円の切符が2枚出てくるからね。そして加奈ちゃんの切符は170円よ、170円のボタンを1回押すの。」

「350円を二つと170円を一つね。」

「そしてその後に、販売機の下の方に『おつり』と書いたボタンがあるから、それを押しておつりも持ってきてね。」

「わかった、行ってくるね。」

女の子は千円札を受け取ると、販売機の方へはりきって歩きだした。

「頼んだわよ、お母さんたちこの椅子に座って待ってるからね。」

その女の子の後ろ姿に向かって母が言った。


「大丈夫かな~。」

「大丈夫よ、切符を買うところは何回も見ているから。」

そういうと母は3人掛けの椅子に座り、夫へも座るように目で促した。

娘は10メートルほど先の切符販売機の方へまっすぐに向かい、到着すると迷わず千円札を吸い込み口に入れた。

そして同じボタンを2度押し、違うボタン1度押す。

そこで女の子は両親の方を見てにこっと笑い、出てきた切符をつかむとスカートのポケットに入れ、両親の方へ歩き出した。

だが、母が首をかしげている。

女の子ははっとして販売機に戻り、「おつり」ボタンを押した。

もう一度両親の方を見ると、どちらも首を縦に振り微笑んでいる。

安心して女の子はおつりを握り、それもポケットへ入れもう一度戻り始めた。


だがすぐに何かが気になったらしく、急に立ち止まった。

そして左に3歩ほど歩き、かがんでその何かを右手でつかむと、ばたばたと走ってきた。

「行ってきたよ。ちゃんとできたからね。」

そう言うと女の子はポケットから切符とおつりを出して、母の手のひらに置いた。

「よくできたわね。うん、間違いないわ。さすがにお母さんの子だわ。」

「俺の子でもある。」

「そうね、おつりを取らずに戻りかけたところはお父さんの子らしいわ。でも・・・。」

母親は目を女の子の右手に移した。

「何を拾ったの?」

「何だかわからない物。」

女の子はその何かを母親の目の前に出した。


時が止まったのは、その瞬間だった。

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