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第44話

「まじかよ。よく探してみろよ。」

和人が英の手から鞄を取り上げ、中を探してみた。

徹也もすぐに近寄って鞄の中を覗き込む。

英は・・・その場に座りこんだ。


「家を出る前にしっかり確認したんだ。その時にはちゃんと鞄の中に入っていた。」

英は二人が鞄の中を捜している様を見ながら力なく話した。

「あっけなかったなあ、今日の受験で俺の人生は変わるかもしれなかったのに。いや、変えてみせるつもりだったのに・・・、ちくしょう!」

英はそう吐き捨てるように言い、天を仰いだ。


「英、あきらめるのは早いぞ。ダメもとで探しに行こうぜ!」

「無理だよ、徹也。受験票が無くなったのはおそらく缶コーヒーを落とした時だ。電車であの駅に戻って受験票を探して、見つけてまた電車で戻ってくるとしたら、受付時間をオーバーするに決まっている。」

「電車を使えば確かに間に合わないかもしれないけど・・・。」

徹也が英の眼を見つめながら言った。

「そうか!タクシーを使えば各駅停車の電車より早く着ける!」

英の目が輝いた。

「和人鞄をくれ、俺は最後のあがきをしてくる。間に合わなくてもお前たちは気にせず受験に集中してくれ。」

英は和人から鞄を受け取ると駅へ向って走り出した。

駅へ戻ればタクシーが数台止まっているからだ。

駅は30メートルほど先の角を左に曲がってすぐそこだ。

「待てよ、お前はどうせお金を持っていないだろう?俺も一緒に行くよ。」

徹也が言いながら追いかけて来た。

「徹也、何を言ってるんだ。もし間に合わなかったらどうするんだよ。」

「どうするって、俺の場合は間に合わなくてもどうってことないよ。それに一人より二人で探した方が早く見つかるじゃないか。」

「だめだ、戻れ。」

「戻らねえよ。」

「いいから戻れ。戻らないと絶交だぞ!」

「絶交か、それもいいかもな。」

「・・・正気かよ、どうなっても知らねえぞ。俺のせいじゃないからな!」

二人は角を曲がり、和人の視界から消えた。


その時和人は右足の靴ひもを結ぶ格好をしていた。

うつむき加減で左足を跪いている。

だが右足の靴の上にある両手は、靴ひもを持っていない。

持っているのは開いた状態の携帯電話だった。

和人の正面10メートルほど前からは、二人の男性が和人の方に向かって歩いてきているし、その後ろからも5人の姿が見える。

後方もやはり10メートル近く離れた所を何人かが歩いている。

身を隠すようなものは和人の周りに何もない。


このような状態で時間を止めるのは初めてだった。

時間を止めることには問題ないが、後で時間をスタートしたときに和人の体が時間を止めた時と同じ位置で、同じ姿勢をしていないと、周りの人に異変を気づかれる恐れがある。

だが、今の和人にとっては一刻の猶予もなかった。

和人は二人が角を曲がったのを見届けると、躊躇なく「STOP」ボタンを長押しした。

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