第42話
翌日、和人は6時前に目が覚めた。
すぐに受験に必要なものがそろっているかどうかを確認し、鞄につめる。
(そうそう、これも持っていかなきゃな。)
和人は昨夜充電しておいた携帯電話を取り、学生服の内ポケットに入れておいた。
窓を開けてみると、風が部屋に吹き込む。
ちょっと冷たいがさらっとしていて気持ちがよかった。
今日は天気もよさそうだ。
やがて、父の寝室から目ざまし時計のアラームがいくつも聞こえてきた。
どかどかと物音がしアラーム音が次々に消えていく。
「和人、起きろ!6時半になったぞ。」
廊下から父の声が聞こえてきた。
和人は部屋のドアを開け、
「もう起きてるよ。」
と言った。
ドアの前には父が立っていた。
「おっ、さては緊張して早く目が覚めたな。それともまさか眠れなかったとか?」
「しっかり寝たよ。さっき起きたばかりなんだ。」
「それならいいが・・・、とこうしちゃおれん、急いで飯の支度をしなきゃな。」
言いながら父は台所へと急いだ。
和人が顔を洗い着替えを済ませて居間に行くと、すでに食事が用意されていた。
「さあ、超特急で作った純和風料理を召し上がれ。」
「へえ、本当に早いね。」
「実はすべて昨日作っておいて、温めるだけにしておいたのだ。」
父は自慢げに言った。
テーブルにはごはん、みそ汁、アジの干物、目玉焼き、牛乳がのっている。
和人はすぐにそれらを平らげ、用意を済ませると元気よく家を出た。
(さて、英と徹也はちゃんと用意できてるかな?)
前川サイクリング店の前に着くと、すでに徹也が待っていた。
「早いな、徹也。俺が一番だと思ったのに。」
「家の前で待ち合わせなんて、ちょっとプレッシャーだぞ。親にせかされて落ち着けるもんじゃない。」
ふと前川サイクリング店の窓を見ると、徹也の両親がこちらを見て手を振っている。
和人は軽く会釈した。
「なっ、ずっとこっち見てるだろ?」
「親心だな、うちのお父さんだって今日はテンションが上がってたもの。」
「英は何分に来ると思う?」
「どうせぎりぎりだろ、28分とみた。」
「俺は33分だな。英んちの親はのんびりしているから、たとえ受験の日だとしても俺たちみたいに早く来ることはないさ。」
「それはそうと、風邪は治った?大雨の日に風邪ひいたんだろ?」
「ああ、根性で治したよ。おかげで最後の復習ができなかったからちょっと不安だけど。」
「先生に言ってジャージに着替えればよかったんだよ。」
「まったくだ。濡れたのがズボンだけだったから油断したんだな。」
「やっぱり・・・、余計なお世話だったのか。」
「何が?」
「あ、いや何でもない、何でもない。でもお前はいいよな、私立海陽に受かっているから西城に落ちても問題ないし。」
「まあな、俺にとってはどっちの高校でもいいからね。でも和人だって落ちる心配はないから、一番心配なのは英だな。あいつ落ちたら本当に浪人するのかな。」
「さあ、どうだろう。あいつの考えることは最近分からないから。」
「確かに。」
「おっ、来た来た、走ってきたぞ。でも残念ながら1分くらい遅刻だな。」
「きっと今走り出したんだ。それまではずっと歩いていたはずだ。」
英が到着した。
「はあ、はあ、少しだけ遅刻したかな。」
「ずっと走って来たの?」
「当たり前だろ、和人。はあ、この荒い息遣いを、はあ、見りゃあわかるだろ?」
「それにしては汗一つかいてないな。」
徹也はそう言いながら和人と眼を合わせて笑った。